今回の質問
「夫 or 妻が不倫したので離婚の訴えを提起していますが、不倫や浮気(不貞な行為〔民法770条1項1号〕)を立証できない場合、離婚は認められませんか?」
回答
不倫や浮気(民法770条1項1号が定める「不貞な行為」)が立証できなくても離婚請求が認容されることは珍しくありません。
説明
専門的な議論を省略すると、離婚の訴えにおいて、離婚が認められるか否かは「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)があるか否かが決定的に重要です。
これは実務上、異論がありません(しかし、弁護士の中には、訴状に民法770条1項5号を記載しない方がおられると聞くことがあります。これはミスと言って過言ではありません*1。)。
そのため、不倫・浮気を証明できなくても、婚姻関係が破綻していると立証できれば*2離婚請求は認められます。
この点について、元東京高裁部総括の阿部潤先生は次のように指摘されます。
「婚姻が破綻していれば、不貞行為が認定出来なくても、離婚請求は認容されます。例えば、婚姻関係にありながら、正当化されない親密な交際の事実が立証できれば十分です。
よく、親密な交際の事実を認めながら、性的関係はないので、離婚原因はないとの答弁をする場合がありますが、これは正しくありません(これまた、弁護士が被告代理人となっていながら、このような答弁書が多いのです)。
実際の事件であったのですが、夫が妻以外の女性と複数回、ラブホテルに宿泊したというのです。しかしながら、いずれの日も疲れていたので、性的関係をもたなかったというのです。被告側は、性的関係があったということが決定的ポイントと思っているのでしょうが、裁判所の認識はいささか異なります。婚姻を継続し難い事由があるかどうかという観点では、すでに、自白が成立しているようなものだからです。」*3
つまり、上で引用した被告代理人弁護士の「性的関係がないから不貞行為ではない!」という反論は、確かに、民法770条1項1号の「不貞な行為」に当たるか否かという点では意味があります。
しかし、民法770条1項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められれば、それだけで離婚は認容されます。そして、ラブホテルに宿泊していたという事実が認定されれば、5号が認められる可能性が高いため、実務的に無意味なのです。
近時の書籍も、このような場合、民法770条1項5号に当たるとして以下の様に指摘します。
「なお、異性と過度に交際したとしても、性的関係を伴わない以上、民法770条1項5号の問題とはなっても、不貞行為に該当せず、同性との性的関係についても、同様に同条同項5号の問題となるとしても、不貞行為とはならない。」*4
公式サイト
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*1:片岡顕一「離婚訴訟の審理モデル感」ケース研究351号(令和6年)42頁も「訴状の中には、離婚原因として、不貞行為(民法770条1項1号)又は悪意の遺棄(同項2号)のみを記載するものが散見される。しかし、仮にこれらの離婚原因が認定できなくても、長期間の別居及びその前後等の経緯等から、婚姻関係が既に破綻しており、婚姻を継続し難い事由(同項5号)を認定できるケースが少なくない。」と指摘します。
*2:尚、言うまでもありませんが、訴状に民法770条1項5号が挙げられていることが前提です。
*3:阿部潤「『離婚原因』について」東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編『平成17年度専門弁護士養成連続講座 家族法』(商事法務、2007年)16-17頁。
*4:秋武憲一ほか編著『リーガル・プログレッシブ・シリーズ 離婚調停・離婚訴訟』(青林書院、四訂版、2023年)105頁。太字は引用者によります。