竟成法律事務所のブログ

大阪市北区西天満2-6-8 堂島ビルヂング409号室にある金融法や民事事件を重点的に取り扱う法律事務所です(TEL 06-6926-4470、大阪弁護士会所属)

【民法】第三者に対する離婚自体慰謝料に関する最高裁判決について(追記あり)

■今回のテーマ

平成31年(2019年)2月19日に最高裁第三小法廷が出した以下の判決について,簡単にご説明いたします。

 

この判決は,一定の前提知識がないと誤解されてしまう危険性があると考えられます。不正確な報道が為されてしまうのではないかと危惧しています。

 

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88422

判示事項
「夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対し,特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできない」

 

 

 

■お伝えしたいこと

今回の判決は,不倫や浮気をした者が,不倫や浮気の相手方の配偶者に対して損害賠償責任をどんな場合でも一律に負わない(慰謝料を支払わなくて良い)としたものではありません。

 

つまり,夫A,妻B,妻の浮気相手Cがいた場合,浮気相手Cが夫Aに対して,どのような場合でも慰謝料を支払わなくて良いとした判決ではありません。

夫A ―― 妻B ――浮気相手C

 

以下,簡単にご説明します。

 

【追記】

尚,判例タイムズ1461号(2019年)28頁以下に,匿名解説が掲載されましたので,以下ではいくつか追記をしています。

 



■説明

夫又は妻の浮気や不倫が原因で離婚した場合,慰謝料は,法的には2種類発生します

 

第1は,離婚自体慰謝料(離婚慰謝料)などと呼ばれるもので,これは「離婚したこと自体に関する慰謝料」です。

 

正確に言いますと,離婚自体慰謝料(離婚慰謝料)とは,

「配偶者としての地位を保護法益とし,離婚そのものによって生じた精神的苦痛の賠償を目的とするもの」*1

 です。



第2は,離婚原因慰謝料(不貞慰謝料,個別慰謝料)などと呼ばれるもので,これは「浮気や不倫をしたこと自体に関する慰謝料」です。

 

正確に言いますと,離婚原因慰謝料(不貞慰謝料)とは,

「婚姻中の個々の有責行為を捉え,これを根拠」とする慰謝料*2

 

民法709条に基づく損害賠償請求権そのものです。夫あるいは妻の侵害行為により,生命,身体,名誉等,被侵害利益,法的に保護されるべき利益を侵害されて,それに基づいて,つまり,民法709条に基づいて請求するという純粋な損害賠償請求権」*3

です。



今回の判決で問題となったのは,この第1の離婚自体慰謝料(離婚慰謝料)です*4

言い換えれば,今回の判決では,第2の離婚原因慰謝料(不貞慰謝料)はメインテーマとなっていません*5

 

 

■判決について

今回の最高裁判決は,次のように述べています。

「夫婦の一方は,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ,本件は,夫婦間ではなく,夫婦の一方が,他方と不貞関係にあった第三者に対して,離婚に伴う慰謝料を請求するものである。」

この部分は,今回の事案について説明する箇所です。

つまり,①離婚原因慰謝料ではなく離婚自体慰謝料(離婚慰謝料)が問題となっていること,②元夫が,妻の浮気相手に対して慰謝料を請求していることを述べています。



「夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが,協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。」

この部分は,誤解を恐れずに言えば,「離婚原因は色々あるかもしれないが,最終的に離婚するかどうかは,夫婦が決めることで第三者は無関係である」と述べています*6



「したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。」

この部分は,注意が必要です。

最高裁が述べているのは,あくまで,離婚自体慰謝料(離婚慰謝料)です。

離婚自体慰謝料(離婚慰謝料)については,第三者たる浮気相手が不法行為責任を負うことは,原則としてない,と言っています。

 

そして,「不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして」と述べていることからも分かるように,離婚原因慰謝料(不貞慰謝料)については,話は別――浮気相手は責任を負い得るというのが判例です――と最高裁は言っています。



「第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。」

 但し,どのような場合でも,浮気相手が,離婚自体慰謝料(離婚慰謝料)から逃れられるわけではなく,離婚をさせようと思って不当に行動したような場合には例外的に浮気相手も離婚自体慰謝料(離婚慰謝料)を支払う責任を負うと最高裁は述べています。

 

 

 

 

■今後の影響について

  1. このような最高裁判決が出たことからすれば,浮気相手に対して慰謝料請求をする場合には,その浮気(不貞行為)に関する慰謝料の消滅時効が成立していないかどうかを確認することが,今まで以上に,実務上は重要になります。
  2. また,これまで,不貞行為の相手方に対する慰謝料請求訴訟では,夫婦が離婚したか否かという点が損害額に影響を与えていましたが,今回の最高裁判決によって,影響を与えなくなる可能性があります(下級審がどの程度,影響を受けるのかはまだ不明ですが。)*7
  3. 更に,妻Bとその浮気相手Cに対する夫Aの損害賠償請求については,離婚原因慰謝料(不貞慰謝料)については共同不法行為となるものの,離婚自体慰謝料については原則として妻Bの単独の不法行為になるという整理になるのではないかと考えられます*8




■公式サイト

※大変申し訳ないのですが,無料法律相談は行っておりません

竟成法律事務所
TEL 06-6926-4470

www.kyosei-law.com

*1:潮見佳男『不法行為法Ⅰ』(信山社,第2版,2009年)225頁。

*2:前掲・潮見同頁

*3:東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編『平成17年度専門弁護士養成連続講座 家族法』(商事法務,2007年)162頁〔岡部喜代子〕

*4:尚,そもそも,なぜ離婚自体慰謝料という概念が必要なのか,そして,正当化されるのか,という疑問があるかもしれません。この点については,個々の具体的な侵害行為というものを観念(or 立証)できない場合を救済するために,離婚に至る全体的な1つの不法行為というものを観念し,それに対応する損害として離婚自体慰謝料を考案したされたと考えられています。

*5:但し,裁判実務は,離婚自体慰謝料と離婚原因慰謝料を峻別する立場ではなく,離婚の際に生じる慰謝料には離婚自体慰謝料と離婚原因慰謝料の双方が含まれるという見解を採用していると言われています(いわゆる一体説)。判タ1461号29頁,二宮周平編『新注釈民法(17)親族(1)』(有斐閣,平成29年)401頁〔犬伏由子〕。

*6:この点については,「夫婦が離婚するまでの経緯は,当該夫婦の諸事情によって一様ではなく,当該夫婦という二人の人間の間の作用・反作用の無数の連鎖反応の過程の結果,離婚に至るものであると考えられる」,「そして,当該夫婦からみると,部外者である第三者については,通常,そのような無数の連鎖反応を観念することができず,第三者の行為について,その行為から離婚に至るまでの一連の経過を1個の不法行為として捉えるための前提を欠くように思われる。また,婚姻の解消は,本来的に夫婦の自由意思によって決定されるものであって,離婚慰謝料の被侵害利益である『配偶者たる地位』を喪失するに至るまでには,必ず配偶者の自由意思が介在することとなる。すなわち,部外者である第三者は,通常は,『配偶者たる地位』を直接的に侵害することはできないものと解される。」と解説されています。判タ1461号30頁。

*7:この点については,「不貞行為の結果,婚姻が破綻し,離婚するに至った場合には,不貞慰謝料の被侵害利益である『夫又は妻としての権利』という人格的利益に対する侵害も大きかったものと評価することができるであろう。したがって,前記のような事情について,慰謝料の増額要素として考慮すること自体は許されるものと解される。」とされています。判タ1461号31頁。

*8:但し,「判例による離婚慰謝料の中身は,婚姻破綻による精神的苦痛が中心となっており,離婚自体慰謝料の独自性は少ない」(前掲・犬伏422頁)とされているため,実務上のインパクトはそれほど無いのかもしれません。