竟成法律事務所のブログ

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浮気・不倫相手を調査するために支払った探偵費用って請求できますか?

■今日のテーマ

不貞行為(浮気や不倫)を理由とする損害賠償(慰謝料)請求事件で,時々,「今回の件を調査するのにかかった探偵さんの調査費用を損害賠償(慰謝料)として相手方に請求できますか?」という質問に遭遇することがあります。

 

これは法律上は,「相当因果関係」という問題として処理されます。

 

というわけで,今回のテーマは,「不貞行為調査と探偵費用との間の相当因果関係」です。

 

 

 

 

■結論

過去の裁判例からすると,ケースバイケースです。

 

 

 

■基礎知識

 浮気・不倫相手に対して損害賠償(慰謝料)請求をする場合は,民法709条を用いるのが通常です。

そして,民法709条に基づく損害賠償請求は,「不法行為に基づく損害賠償請求」と呼ばれます。

不法行為による損害賠償)
民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

上掲の条文から分かりますように,不法行為に基づく損害賠償請求が認められるためには,

  1. 加害者に故意または過失があること
  2. 加害者が他人の権利または法律上保護される利益を侵害したこと
  3. 損害が発生したこと
  4. 侵害行為と損害との間に相当因果関係があること

という条件(要件)を全て満たすことが必要です(細かい議論は一旦,横に置いておきます。)。

 

 

今回のテーマである探偵費用は,この4番の条件である「相当因果関係」の問題となります。

 

 

 

■裁判例

論より証拠,ということで,過去の裁判例を以下,抜粋してご紹介いたします。

裁判所の判断は事案に応じて分かれています。

 

 

札幌高判平成28年11月17日

「控訴人は,本件においては探偵による調査を利用しなければ被控訴人の不貞行為の相手方を知ることは不可能であったから,探偵による調査費用を損害として認めるべきである旨主張する。
 しかしながら,不貞行為をしていることを被控訴人が自ら認めていたなどの本件における事情にかんがみると,控訴人が,探偵による調査を利用しなければ被控訴人の不貞行為の相手方を知ることが不可能であったとまではいえない上,本件各証拠上,その調査の内容等も判然としないことからすれば,本件において,探偵による調査費用を控訴人の損害として認めることはできない。
 したがって,控訴人Aの上記主張は,理由がない。」

 


札幌家裁平成27年5月21日(上記高裁の原審)

なお,被告乙は,探偵に依頼した調査費用についても損害額として計上し請求しているが,本件の場合,被告乙が探偵を利用したことによって原告甲と被告丙との間の不貞関係が発覚したわけではなく,被告丙の不法行為と被告乙の支出との間の相当因果関係を認定するに足りないから,この費用を損害と認定することはできない。

 

 

東京地判平成28年7月8日

「2 調査費用及び弁護士費用について
 前記前提事実のとおり,少なくとも別居に至る時点まで被告が不貞を否定していたところ,原告は,被告の不貞の調査を調査会社に依頼し,あるいはその代理人弁護士において弁護士会照会をしているけれども,本件全証拠によっても,その費用の支出と本件不法行為(被告とCの不貞)との間に相当因果関係があるとまで認めるに足りない(ただし,被告が不貞を否定し続けていたことや原告において被告の不貞を調査するに至ったという事情について,慰謝料額を判断するに当たり一事由として斟酌したことは,上記1で判示したとおりである。)。」

 


東京地判平成27年12月2日

「前記に認定した不貞行為の態様や,原告とZとの婚姻関係の破綻について,不貞行為がその原因になり,原告とZとの協議の結果,両者は離婚をするに至り,原告は二男と別居するに至ったこと,原告は,被告とZとの不貞行為の調査に合計92万8800円の費用を要したこと(同調査費用は,それ自体につき不貞行為と相当因果関係があると評価することはできないが,原告が同費用を要したことは,慰謝料算定の一事情として斟酌すべきである。),他方,婚姻関係の平穏は第一次的には配偶者相互間の守操義務,協力義務によって維持されるべきものであり,不貞により婚姻破綻したことについての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあるというべきであって,不貞の相手方である被告の責任は第二次的,副次的なものとみるべきであること,原告とCとの婚姻関係の破綻については,原告とCとの価値観の相違や夫婦関係におけるコミュニケーションの不足も無関係とはいえないことがうかがわれることなどの一切の事情を総合すると,原告の被った精神的苦痛を慰謝すべき金員は220万円をもって相当と認める。」

 

 

東京地判平成27年4月30日

「そして,証拠(略)によれば,原告は,被告Zの不貞行為の調査等のために,合計197万2500円の費用を負担したことが認められ,本件においては,cと被告が不貞行為を否定していて,調査報告書が決定的な証拠であったものといえるが,調査依頼に至る経過などを考慮するとき,被告の行為との間で相当因果関係を認めることができるのは,うち50万円にとどめるのが相当であり,上記で認定した諸事情を考慮し,弁護士費用については20万円を被告の行為と相当因果関係のある損害と認める。」

 

 

東京地判平成27年3月24日

「損害について判断する。本件不貞行為の態様,原告及びZの婚姻期間,原告とZとの間には未成年の子がいること,被告の不法行為により原告とZの婚姻関係は相当程度荒廃したこと,他方で夫婦が離婚にまでは至っていないこと,その他本件訴訟に顕れた一切の事情を総合考慮すると,被告が原告に支払うべき慰謝料の額は150万円が相当である。
 また原告は,調査費用として100万円を支出しており(略),Zが不貞行為の存在を認めていなかったことや,調査の内容等に照らすと,調査費用100万円は本件不法行為と相当因果関係にあるものと認める。」

 

 

東京地判平成26年12月4日

「(2)調査費用
 原告は,被告とZとの不貞行為の調査のために探偵事務所に支払った費用を損害の項目に掲げるが,探偵事務所に調査を依頼するか否かは原告の選択によるものであり,上記調査費用が被告の不貞行為と相当因果関係を有するとは認められないから,これを被告の不貞行為による損害と認めることはできない。」

 


東京地判平成24年9月4日

「(2)調査費用
 原告は,本件の被告の不法行為による損害として,興信所3社に対する調査費用を請求するが,前記1で認定した事実経過によれば,被告は,Zと性的関係にあったこと自体は争っておらず,平成21年1月5日に誓約書を作成して原告に手渡したことを初めとして,同年1月末から同年2月初旬にかけて,原告に会って謝罪したい旨を伝えて原告に面会し,同月18日には,Zとの間で不貞関係にあったことを認めて謝罪する旨の合意書案を原告に送付しているのであるから,原告が被告に対して本件訴訟を提起し,本件訴訟における立証をするにあたり,興信所の調査が必ずしも必要であったということはできず,とりわけ青山探偵事務所については調査報告書すら書証として提出されていないので,なおさら因果関係がないといわざるを得ない。よって,興信所の調査費用に関する原告の請求は,本件の被告の不法行為との間に因果関係が認められず,損害として認めることができない。」 

 

 

東京地判平成23年12月28日

「これらの事実を踏まえると,前記不法行為の時点において,原告がその立証のために探偵業者に調査を依頼することは,必要かつ相当な行為であったと認められ,本件訴訟においても,上記調査報告書は,被告が自白に転じなければ前提事実(3)イ,ウの不貞行為を立証する上で最も重要な証拠であったといえるほか,同不貞行為が行われた各日におけるZの手帳中の『A』との記載と相まって他の不貞行為の立証においても一応有益であったといえる。したがって,原告が支出した上記調査料金のうち100万円を,上記不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。」

 

 

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