竟成法律事務所のブログ

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【軽犯罪法】こじきの罪の基礎知識

今回のテーマ

みなさんは「こじき(乞食)」という言葉をご存知かと思います。

例えば、広辞苑(第7版)は「こじき」という言葉について以下のように説明します。

〔古くは「こつじき」〕金銭・食べ物などを人からもらって生きていくこと。また,その者。ものもらい。おこも。
「争ふ所の車夫を見,―する翁を見 / 欺かざるの記 独歩」

 

実は、軽犯罪法にはこの「こじき」をしたり、させたりした者を処罰する規定が存在します。

そこで、今回は、この「こじきの罪」に関する基礎的な知識をご紹介します。

 

 

1 条文

軽犯罪法第1条

左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

 (略)
二十二 こじきをし、又はこじきをさせた者

 (略)

 

 

2 立法趣旨

そもそも、なぜ、軽犯罪法は「こじき」の罪を設けて処罰することにしているのでしょうか?

この点については、以下のように説明されています。

「稼働能力がある者は、勤労によって自己の生活を維持することが社会道徳上の要求であり、社会保障制度がある程度整備された我が国内では、たとえ働く能力、機会等を有しない者でも、専ら他人の憐憫の情にすがって生活することは、道徳上相当な行為とはいえない。
 そこで、「こじき」をし、又は「こじきをさせた者」を処罰の対象としている。」*1

 

ただし、こじきの罪は、国民に勤労の機会を与えることや、働く能力を有しない者については憲法25条の要請に基づいて、国や地方公共団体が整備する各種福祉措置によって保護されることが前提となっていると指摘されています*2

 

3 構成要件:どんな行為が対象となる?

こじきの罪が対象としている行為は、

 ① こじきをすること、または

 ② こじきをさせること

です。その具体的内容は以下のとおりです。

3-1 「こじきをする」とは? 

定義

こじきをする」とは、

「不特定の他人の同情に訴えて、自分のために、又は自分が扶養する者のために、無償又はほとんど無償に近い対価(労務又は物品)を提供して金品の交付を求める行為で反復継続されるもの」*3

をいいます。

定義の中に「ほとんど無償に近い対価(労務又は物品)」とありますが、これは、道路上で歌を歌ったり、外国で時折見られるホテルの前などで停止する車のドアをあけては金銭を乞うなどの行為を指すと解されています*4。ただし、大道芸人のパフォーマンスや、芸人の門付は「こじき」に該当しないとされています。

 

行為態様など
  • 行為態様は問われません。口頭でも、掲示でも、身振りでも構いません*5
  • こじき行為は不特定多数に対して行われる必要があります。そのため、親族や友人などに対して金品を乞うたとしても、この場合は、こじきの罪は成立しません*6
  • 行為者が一定の職業や住所を持っているか否かを問いません*7。そのため、お金持ちが、ネタや酔狂でこじきをすれば本罪は成立します。
  • 現実に金品を受領できたか否かは無関係です。金品を求めた時点でこじきの罪は成立します*8

 

反復継続性

反復継続する意思で行えば、ただ1人に対して為されたとしてもこじきの罪は成立します。ただし、1人に対して1回で終わる意思で行った場合はこじきの罪は成立しません。

 

3-1 「こじきをさせた者」とは? 

定義

こじきをさせた者」とは、

「責任無能力者(心神喪失者、刑事未成年者)に、こじきをさせた者をいう。「させる」とは、教唆犯をいうのではなく、間接正犯的行為を指す」*9

 

行為態様など

作為・不作為を問いません。例えば、自分の監督下にある14歳未満の子供のこじき行為を制止しないという不作為も処罰対象となります*10

 

 

4 裁判例

こじきの罪が問題となった事例はほとんど知られておらず(実例も少ないのではないかと考えられます。)、有名なものとしては、宇都宮簡判昭和38年10月23日下刑集5巻9=10号906頁(武本俊郎裁判官)があります。

宇都宮簡裁は、以下のように述べ、「こじき」の定義について規範を定立しました。

軽犯罪法にいわゆる「こじき」とは単に個々の物乞い行為(人の同情心に訴えて金品の無償交付を求める行為)自体を指すのではなく、その概念には不特定多数人に対しある程度反覆継続的に物乞いをするという云わば業的な観念が内在していると解すべきでありかゝる犯罪の本質から又本件犯罪がこじきをするとの一個の包括的犯意の下に近接した日時、場所においてなされたという犯罪の態様から被告人の所為はむしろ包括的に一罪と解すべきである。」

 

 

5 ネット上の「物乞い」配信や「欲しいものリスト」について

近年、Youtubeの動画やライブ配信などで「お年玉をください」・「お金をください」と訴えかけ、視聴者から金銭の提供を呼びかけるような配信が見られます。

このような行為は、

① 同情への訴求
② 無償(又は名目的対価)で金品を乞う点
③ 自己・被扶養者の生活資を目的
④ 積極的な「求め」
⑤ 反復性

の各要素を満たせば、こじきの罪に当たり得るとの実務的整理が提示されています

他方、単なる「欲しい物リスト」の公開は直ちにこじきに当たらないものの、同情・憐憫に訴える態様次第ではこじきの罪に当たる余地があると考えられています*11

 

 

公式サイト

※ 大変申し訳ないのですが、弊所は、無料法律相談は行っておりません

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www.kyosei-law.com

*1:須賀正行『イラスト・チャートでわかりやすい 擬律判断・軽犯罪法』(東京法令出版、第2版、令和4年)165頁。

*2:伊藤榮樹ほか編『注釈特別刑法 第2巻』(立花書房、昭和57年)110頁、大塚仁『特別刑法』(有斐閣、昭和34年)116頁。

*3:井阪博『実務のための軽犯罪法解説』(東京法令出版、平成30年)155頁。

*4:前掲・伊藤110頁

*5:前掲・伊藤110頁

*6:前掲・井阪155頁、前掲・伊藤110頁

*7:前掲・大塚117頁。

*8:前掲・井阪157頁

*9:前掲・井阪156頁。

*10:前掲・井阪156頁。なお、子供が14歳以上だった場合に「こじきをさせる」ことになるのか、あるいは「こじきをする」罪の教唆犯になるのか、という議論があります。

*11:以上につき、前掲・須賀166頁-167頁。