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【刑法】侮辱罪(刑法231条)に関する基礎知識

今回のテーマ

「これって侮辱罪(刑法231条)に該当するんじゃないですか?」というご質問を頂くことがあります。

 

というわけで、今回のテーマは、「侮辱罪(刑法231条)に関する基礎知識」です。

 

 

条文(刑法)

(侮辱)
第231条

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

 

 

そもそも侮辱罪は何を守っているのか?

殺人罪(刑法199条)は、人の生命や身体を保護しています。生命や身体を守るために殺人罪という刑罰が定められているのです。

 

では、侮辱罪は何を守っているのでしょうか?

この点については、その人に対する社会的評価であるとされています。

 

判例(略)及び通説(略)は、侮辱罪の保護法益を、名誉毀損罪と同じく、外部的名誉*1と解している。」*2

 

「侮辱罪の保護法益も外部的名誉と解される」*3

 

「通説は,名誉毀損罪と侮辱罪の保護法益は「人の人格的価値に対する社会的評価」としての外部的名誉であり,両罪の違いは事実の摘示の有無にあるとする。この立場によれば,幼児や法人などについても,社会的評価の低下がありうるので両罪の成立が認められる。」*4

 

「通説は、名誉毀損罪と同様に外部的名誉(社会的評価)が本罪の法益であり、法人や幼児にも社会的評価はあるから本罪は成立するとしている。」*5

 

 

 

「侮辱」とは何か?

「侮辱とは、人に対する軽蔑の表示、人の名誉感情を害するに足りる事項の表示をすることである。表示と同時に既遂となる。その表示は口頭によると文書によると、また――一種の黙示的表示として――動作によるとを問わない。しかし、表示犯であるから、単なる無礼な行為はこれにあたらない。死者に対しては――名誉はあっても名誉感情はないから――侮辱罪はみとめられない。事実を摘示しても、その事実が抽象的なものであるかぎり、やはり侮辱罪である。また具体的事実を摘示しても、名誉毀損罪として不可罰的なばあいに侮辱罪の成立するばあいを想像することができよう。」*6

 

「「侮辱」とは,他人の人格の尊厳を害するような侮蔑的・軽蔑的表現を指します。その他の要件として,名誉殴損罪と同様に「公然性」が要求されます。事実の摘示は不要ですが,事実の摘示があった場合に侮辱罪の成立が構成要件上,排除されているわけではありません」*7

 

「*具体的事実を摘示することなく、他人に対する軽蔑の表示を行い、人の名誉を害するおそれを生じさせることをいう。

*方法は限定されない。言語のほか図画・動作等による場合でもよい。

*人に対する名誉を害する危険を含む軽蔑の表示がなされれば足りる。」*8

 

 

実務上の名誉毀損罪と侮辱罪との区別

判例・通説において、名誉毀損罪と侮辱罪との区別は、事実の摘示の有無にあるとされる。けれども何をもって事実というのかは実は難しい。ここで一つひとつ取り上げることはしないが、世間一般に使用がはばかられるとされている人に対する侮辱的な単語をいくつか思い浮かべていただきたい。そのような単語は、それ自体として、事実の摘示として使われているようでもあり、はたまた対象者の評価として使われているようにも感じられると思う。

 重要なのは、名誉毀損罪が対象とするのは具体的事実であるということである。一見事実の摘示と思われるものでも、それが具体的であるかどうかを吟味していただきたい。そして、表現行為として、単に、侮辱的な単語を脈絡なく一言だけ発するということはまれであり、通常は何らかのやりとりや一連の表現行為の一部として用いられる。その場合、具体的事実の摘示といえるかどうかは、その単語を含む表現全体の内容や趣旨等に応じて変わり得るところであり、的確な判断が求められる。表現の背景等をしっかりと把握し、文脈を捉える力が必要となる。」*9

 

 

ヘイトスピーチとの関係

ヘイトスピーチと侮辱罪の関係については、実務上、以下のように整理されています。

 

岡本貴幸『擬律判断 ここが境界 ――実務刑法・特別法――』(東京法令出版社、補訂版、令和4年)203頁。

 

 

公式サイト

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*1:外部的名誉とは、人に対する事実上のプラスの社会的評価を意味します。

*2:山口厚『刑法各論』(有斐閣、第2版、2010年)149頁。

*3:亀井源太郎ほか『刑法Ⅱ 各論』(日本評論社、第2版、2024年)66頁。

*4:町野朔ほか編集代表『プロセス演習 刑法』(信山社出版、2009年)194頁。太字は引用者によります。

*5:大塚裕史ほか『基本刑法Ⅱ── 各論』(日本評論社、第3版、2023年)98頁。

*6:団藤重光『刑法各論』(有斐閣昭和36年)293頁~294頁。

*7:松宮孝明『ハイブリッド刑法各論』(法律文化社、第3版、2023年)109頁。

*8:安冨潔編著『擬律判断ハンドブック 刑法編』(東京法令出版、第3版、令和4年)89頁。

*9:唐澤英城「名誉毀損をめぐる捜査の基本的な思考方法 ~ある名誉毀損事件を題材として~」捜研891号(2024年)29頁~30頁。