竟成法律事務所のブログ

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【労働法】試用期間中の社員がうつ病になったしまった場合の対応について

今回の質問

「試用期間中の社員がうつ病になってしまったのですが、試用期間なので当然、解雇しても良いですよね?」

 

 

結論

当然に解雇できるわけではありません。

「誰から見ても、その社員は、これから継続的に労務提供ができないのだから、解雇されても仕方ないよね」と言えるだけの事実及び証拠が必要です。

 

 

説明

試用期間とは?

確かに、試用期間とは、一般に、本採用をする前に、労働者の能力、性質、健康などの業務遂行に関する適格性を判断するための観察期間をいいます。

また、試用期間中の労働契約については、判例上、「解約権」(本採用を拒否する権利)が留保された契約と解されています*1

 

 

解約権の行使は自由にできる?

そのため、試用期間中の社員が、本採用拒否事由に該当するか否かの判断については、既に雇用されている正社員(期限の定めのない労働者)を普通解雇する場合と比べると、多少、緩やかになると考えられています。

 

しかし、そうは言っても、会社側は、この「解約権」を自由に行使できるわけではなく、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認される場合のみ「解約権」を行使することができます。

 

 

解約権を適法に行使するための条件(要件)

具体的には、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 会社側が、採用当初知ることができず、また、知ることが期待できないような事実を知ったこと
  2. その事実に照らした上で、その社員をこのまま働かせることが適当でないと判断することが客観的に相当であること

 

これを一言で表現しますと、上述した「誰から見ても、その社員は、これから継続的に労務提供ができないのだから、解雇されても仕方ないよね」と言えるだけの事実及び証拠が存在するか、になります。

 

 

判例

うつ病に関する裁判例ではありませんが、試用期間中の解雇が問題となった裁判例としては例えば以下のようなものがあります。

東京地判令和6年7月24日LEX/DB25621336

この事件では、会社が試用期間中の社員に対して、解約権を行使して解雇したものの、会社側が主張する事実は①単純ミス、②頻度・回数不明、③業務への影響が不明などの理由により、解約権行使に関する客観的合理的理由がないとして、解雇は無効とされました。

「認定事実イによると、本件ヒアリングにおいて、原告の勤務態度について、〔1〕電話対応に稚拙な点があった旨、〔2〕個別に連絡するのではなく、チャットルームで共有してほしかった旨、〔3〕顧客対応がうまくできず、落ち込んでいた旨、〔4〕メールを誤送信したことがあった旨、〔5〕仕事に対する意欲又は積極性が欠けていた旨、〔6〕間違ったものを作ったときのスタンスが謙虚でなかった旨、〔7〕仕事の内容が雑で、注意力が欠けていた旨等の意見があったことが認められる。
 しかし、〔1〕及び〔4〕は、単純なミスにすぎず、その頻度や回数は明らかでないものの、これによって業務に支障が生じた事実までは認められない。〔2〕は、連絡方法について不満を述べるものにすぎず、個別に同僚に連絡したことが不適切とまではいえない。〔3〕については、原告は被告に入社してから間がなく(認定事実ア)、業務に慣れていない面があったことに照らすと、これをもって従業員としての適性を欠くとまではいえない。〔5〕、〔6〕及び〔7〕については、回答者の主観的評価を述べるものにとどまり、これを裏付ける客観的証拠は見当たらない。
 被告は、上司による指導がなされても、原告の勤務態度は一向に改善しなかった旨主張するが、原告が上司から受けた注意、指導の内容、回数及び頻度は明らかでなく、直ちに採用できない。
 以上によれば、本件ヒアリングで指摘されている事項は、いずれも単純なミスによるものか、適切な注意、指導による改善が期待できるものであって、これらをもって留保解約権行使の客観的合理的理由があるとはいえない。その他、本件全証拠に照らしても、留保解約権行使の客観的合理的理由があるといえるような事情を認めることはできない。
 したがって、本件解雇は、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得るものとは認められず、無効である。」

 

東京高判平成21年9月15日労判991号153頁

この事件で東京高裁は、試用期間満了前に解約権を行使する場合には、より一層高度の合理性と相当性が求められると判示しました。

「本件雇用契約書(〈証拠略〉)には,本件雇用契約における被控訴人の試用期間を6か月とする規定(1条1項)が置かれているところ,試用期間満了前に,控訴人はいつでも留保解約権を行使できる旨の規定はないから(同条2項は,試用期間終了時までの間に不適と認められた者につき,同期間終了時において解雇することができるという,試用期間の制度を設けたことに伴う当然の効果を明確にした規定にとどまるものと解すべきである。),被控訴人と控訴人との間で,被控訴人の資質,性格,能力等を把握し,控訴人の従業員としての適性を判断するために6か月間の試用期間を定める合意が成立したものと認めるべきである。
 そして,試用期間が経過した時における解約留保条項に基づく解約権の行使が,上記のとおり,解約につき客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当と是認され得る場合に制限されることに照らせば,6か月の試用期間の経過を待たずして控訴人が行った本件解雇には,より一層高度の合理性と相当性が求められるものというべきである。」

 

 

注意点

尚、ご注意いただきたい点があります。

試用期間には、①採用後の職務に関する教育訓練期間という側面と、②本採用の判断のための実験観察期間という側面があり、会社によって、このどちらを重視しているかは異なります。

そのため、この点を明確にしていない会社や、①の側面が強い会社の場合、上記の解約権の行使の当否は厳しく判断されることがあります*2

 

 

現場ではどうすべきか?

では、実際の現場でこれらをどう判断するか?ですが、これはケースバイケースと言わざるを得ません。

①募集時や採用時にどのような能力や専門性を示していたか、②病気発症の時期はいつか、③その原因は業務にあるかなど複数の要因を考える必要があります。

 

尚、実務上は、主治医と産業医それぞれのご意見は必須と言って過言ではありません。

 

また、いずれの場合であっても、即断することはトラブルのもとです。

実際には、試用期間を3か月程度延長して、病気と勤務の状況を確認した上で、それでも尚、改善が認められない場合には、本採用を拒否する(解約権を行使する)という方法が考えられます。

 

 

公式サイト

※ 大変申し訳ないのですが、弊所は、無料法律相談は行っておりません

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www.kyosei-law.com

 

*1:最大判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁。いわゆる「三菱樹脂事件」です。

*2:岩田合同法律事務所編『これだけはおさえておきたい! ケーススタディ33&基本労働判例142の重要ポイントQ&A』(日本加除出版、2022年)29頁。