今回のテーマ
今回は、弁護士法56条1項が懲戒事由として定める「品位を失うべき非行」に関する情報の整理をしてみたいと思います。
(懲戒事由及び懲戒権者)
弁護士法第56条
1 弁護士及び弁護士法人は、この法律(弁護士・外国法事務弁護士共同法人の社員又は使用人である弁護士及び外国法事務弁護士法人の使用人である弁護士にあつては、この法律又は外国弁護士による法律事務の取扱い等に関する法律)又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。
2 懲戒は、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会が、これを行う。
3 弁護士会がその地域内に従たる法律事務所のみを有する弁護士法人に対して行う懲戒の事由は、その地域内にある従たる法律事務所に係るものに限る。
定義
「品位を失うべき非行」の定義について、日弁連の文献は、定義は困難であると指摘しています。例えば、日弁連調査室が発行する文献は、以下のように指摘します。
「弁護士(弁護士法人)は,職務上の義務違反のみならず.弁護士の私生活上の行為でも品位を失うべきものであれば,懲戒事由とされる。これら両者の非違行為を含んでいることは法文上明らかであるが,何が品位を失うべき非行なのかを定義づけることは,やはり困難である。」*1
「弁護士は、職務上の義務違反のみならず、私生活上の行為でも品位を失うべきものがあれば懲戒事由とされる。法56条がこれら両者の非違行為を含んでいることは法文上明らかであるが、何が品位を失うべき非行なのかを定義づけることは、やはり困難である。例えば完全に個人のプライバシーに属するような行為をどこまで品位を失うべき非行としてとりあげることができるかは問題である。また、弁護士職務基本規程に違反する行為についても、『品位を失うべき非行』と評価されるか否かが実質的に判断されることになるということは前述したとおりである。」*2
また、判例・下級審裁判例で、「品位を失うべき非行」の定義について言及したものは少なくとも一般に知られていません(懲戒処分に関連する最高裁判決としては、最一小判平成18年9月14日集民第221号87頁があるものの、ここでは定義については特に言及されていません。)。
要件解釈
そのため、原則に立ち返って、要件の解釈をする必要があります。そして、弁護士法56条1項の文言上、「品位を失うべき非行」の要件は、一応、
- 「品位を失うべき」ものであること
- 「非行」であること
に分解することができます。
そこで、文理解釈*3の観点から、改めて「品位」と「非行」の国語的意味を確認してみますと、以下のとおりです。
品位
「人に自然にそなわっている人格的価値。ひん。品格。」*4
「身だしなみや言葉つき、態度のりっぱさや姿の美しさなどから総合的にくみ取られる、育ちの良さや社会的ランクの高さ。」*5
非行
「道義にはずれた行い。不正の行為」*6
「ある社会の法的規範に対し違反する行為。したがって,その社会の政治的・経済的・社会文化的諸事情に規定され,かつ時代とともに変遷する社会的(法的)概念である。〈非行〉の語は英語のdelinquencyにあたり,第2次大戦後広く使用されるようになった。」*7
以上の意味からからすると、「品位を失うべき」という要件と、「非行」は一応区別することが可能かと考えられます。つまり、両要件を充足しなければ懲戒処分をすることはできないと考えられます。
なぜならば、「下品だが、不正な行為とまでは言えない」という行為は想定することができるからです。
例えば、プライバシーが完全に保護された(つまり外部からはうかがい知ることができず、社会に対する悪影響もない)自宅内で、非常に下品だが違法ではない趣味を一人で満喫した場合、これは品位を失うべき行為には当たりますが、不正の行為には当たりません。
同様に、「品位を欠くことはないが、不正な行為」という行為も想定することはできます。
例えば、殺人罪で起訴された反社会的勢力から刑事弁護の依頼を受けた弁護人が、依頼者である反社会的勢力から預かっているお金を勝手に、困窮していた被害者遺族の為に使ったとします。これは、不正であることは間違いありませんが、品位を欠くかと言われると微妙ではないでしょうか(私見に過ぎませんので、異論は多々あろうかと存じます。)。
先例
もっとも、現実的には、実際に現場でどのように判断されているかが重要です。
そこで、懲戒処分が為された先例をいくつか紹介したい……と思いましたが、先例の数が多いため、ごく一部だけの紹介に留めたいと思います。
- 高齢者の財産管理顧問料として月額40万円を受領し続け、その結果、依頼者の財産を枯渇させた事例(日弁連懲戒委平成23年3月14日議決例集14集73頁)。
- 不当投資等被害に関する集団訴訟の成功報酬として委任契約書未締結のまま認容額の10%(約1億円)を報酬とした事例(日弁連懲戒委平成26年6月9日議決例集17集14頁)。
- 依頼者から仮処分の保証金として預かった1000万円を、仮処分を行なわないこととした後速やかに返還しなかった事例*8
- 国選弁護人が被告人その他の関係者から対価を受け取る行為(東京高判昭和47年10月23日判時688号54頁)。
- 弁護士費用について有利誤認表示をした事例(日弁連2018年1月1日公告、同年5月1日公告)。
- 弁護士が受任事務遂行中に知り得た依頼者名義の預金口座を対象とした債権差押命令を申し立てた事例(「品位を失うべき非行」には当たらないとされたが、反対意見も相当強かった事例。日弁連綱紀審査会平成28年4月12日議決例集19集144頁)。
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