今回のテーマ
離婚をすることになり財産分与をすることになったけれど、自宅の評価額(例:1000万円)が住宅ローンの残額(例:1500万円)を下回っているいわゆる「オーバーローン」の場合、財産分与はどうなるのか?
① そもそも、自宅は無価値なのに財産分与の対象になるのか?
② 自宅以外に預貯金などがある場合はどういう処理になるのか?
時々、経験ある弁護士も誤解していることがあるため注意してください。
結論
① 自宅が無価値であっても財産分与の対象になるという考え方が実務です(少なくとも多数です)。
② 自宅以外に預貯金などがある場合は、マイナスの価値しかない自宅と合算して財産分与の額を計算します。
※ 但し、⑴夫婦の共有財産と言えるものが自宅しかなく、かつ、⑵その自宅がオーバーローンの場合は、財産分与を申し立てることはできないという見解が強いです。誤解されないように注意してください。
説明
かつての考え方
かつては、オーバーローンの不動産については、価値がゼロである以上、財産分与の対象にならないとする見解(除外説)が有力でした。この見解で理解されている実務家の方も少なくないと思います。
そして、この見解を採用する裁判例や文献は次のように述べます。
東京高判平成10年3月13日家月50巻11号81頁(矢崎秀一裁判長)
「夫婦の協力によって住宅ローンの一部を返済したとしても、本件においては、当該住宅の価値は負債を上回るものではなく、住宅の価値は零であって、右返済の結果は積極資産として存在していない。そうすると、清算すべき資産がないのであるから、返済した住宅ローンの一部を財産分与の対象とすることはできないといわざるをえない。 」
山本拓「清算的財産分与に関する実務上の諸問題」
「なお,住宅ローンの残額が当該不動産の時価を上回るオーバーローン状態の場合には,住宅ローンを被担保債権とする抵当権が設定されている限り,当該不動産は無価値であって,これを清算の対象とすることはできない。この場合,不動産が無価値である以上,それまでに住宅ローンを返済した結果は積極財産として存在しないのであるから,一方配偶者から他方に対し,これまでに返済した住宅ローン相当額についての分与を求めることもできないと解される。」*1
松本哲泓『離婚に伴う財産分与』
「夫婦の実質的に共有である唯一不動産がいわゆるオーバーローン状態にある場合、結局、夫婦が形成した財産は皆無であるから、金員の支払を求める財産分与の申立ては認められない」*3
このような考え方は、財産分与はプラスの財産を清算するための制度であるからという形式的な理由以外にも、以下のような実質的な考え方によって支えられています*4。
① このような不動産は、夫婦が婚姻生活上の住居として使用する目的で、住宅ローンを借り入れて取得したもので、実際に、夫婦が協力して得た財産で住宅ローン債務の返済を行なってきており、夫婦(家族)が共同生活をする場として使用してきたものであったこと
② 夫婦の離婚によりその清算を要するとしても、夫婦間の協議に基づいて不動産を売却し、これによる代金で住宅ローン債務を清算した残債務について、他の財産分与対象財産(積極財産)と通算して清算するというのであればともかく、不動産の所有名義人である一方の配偶者が希望して不動産を取得する場合には、その者が不動産の取得後に、たとえ不動産の評価額を上回る部分の住宅ローン債務の弁済を継続しなければならないとしても、離婚後の収入等によって分割弁済を行いながら、その後も不動産を使用収益できる利益を享受でき、不動産を有利な条件で処分できる法律上の地位を取得することになること
③ これに対して他方の配偶者は、離婚後は不動産に居住する法的地位を失うため、他に居住場所を探して自己の費用で転居することを強いられる上(この際に、自らの財産で賃貸住宅を借入れる場合が多いと思われる。)、他の財産分与対象財産があっても、不動産の評価額を上回る住宅ローン債務部分と通算され(結果として、婚姻中に夫婦が協力して得た財産をもって、不動産の所有名義を有する配偶者が離婚後に支払うべき上記債務部分の支払に充てたと同様の取扱いを受けることになる。)、その後に分与対象財産が残っているときに限って、そこから財産分与を受けることができるにすぎず、これは当事者の衡平を害するものであること
現在の多数の裁判例
しかし、現在では、多くの裁判例は、自宅がオーバーローンであったとしても、預貯金等を含む全ての資産(積極財産)と、全てのローンなどの債務(償却資産)を合算して、財産分与の額を決定する見解(いわゆる通算説)を採用しています*5。
これは、財産分与はそもそも全資産・全負債を総合考慮して算定するものであるという考え方に基づいています。
実際に裁判官及び元裁判官が記述した近時の文献では次のように説明されています。
東京家庭裁判所家事第6部「東京地裁人訴部における人事訴訟の審理モデル」
「ところで、住宅ローン付不動産について、不動産と住宅ローンを一体として評価し、オーバーローン不動産についてはこれを無価値とみて、債務も含めて分与対象財産から外し、他の分与対象財産を清算するという見解もある。しかしながら、この見解では、当該不動産の価格を、他の資産。負債から切り離して純資産額で評価していることになるが、他に資産・負債がある場合にも、当該不動産及び住宅ローンだけを個別に取り出して計算する点で、本来、財産分与が全資産・全負債を総合考慮して算定するものであるにもかかわらず、当該不動産のみ切り離すことに合理性があるのか疑間がある。現在の実務では、住宅ローン付不動産について、不動産は資産として、住宅ローンは負債として、個別に評価し、それぞれ他の資産・負債とは切り離さず、総資産と総負債を通算して財産分与額を算定し、オーバーローン不動産の負債についても、債務超過額を他の資産と通算している。」*6
武藤裕一ほか『離婚事件における家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点』
「自宅等の不動産がオーバーローン(不動産の時価を上回る住宅ローンの残債務がある状態)の場合に、当事者から、不動産と住宅ローンとを一体として無価値と評価する一方、債務超過額(オーバーローン部分))を他の積極財産と通算すべきではない旨の主張がされることがあります(この見解を「非通算説」といいます。)。」
「家裁実務では、非通算説は採用されておらず、不動産と住宅ローンとは、一体として評価するのではなく、それぞれ積極財産、消極財産として計上し、オーバーローン部分については、純資産額の計算上、不動産以外の積極財産とも通算します(LP190頁、人事訴訟の実務341頁)。なぜならば、不動産と住宅ローンは、本来、別の財産ですので、これらを一体として評価するのは不自然である上に、財産分与は、基準時において現に存在した夫婦それぞれの積極財産の総額から消極財産の総額を控除した純資産額を計算し、それらを比較して分与額を算定するという判断枠組みをとるところ、消極財産として現に存在した住宅ローンのオーバーローン部分を、上記算定過程に反映しない(いわば「ないものとみなす」)合理的理由がないからです。」*7
秋武憲一ほか編著『リーガル・プログレッシブ・シリーズ 離婚調停・離婚訴訟』
「住宅ローンについては、個別の不動産の評価に還元すればよいという考え方もある。例えば、夫名義の不動産の時価が3000万円で、当該不動産に関する住宅ローンの残高が1000万円であったとした場合に、時価からローン残高を控除して2000万円の物件を保有しているものとして評価すればよいという考え方である。しかし、不動産の名義人と住宅ローンの名義人が同一の場合、例えば、夫名義の不動産と、夫名義の住宅ローンがあって、当該不動産自体を財産分与の対象として移転しないような場合は、それで足りるが、妻名義の不動産に夫名義の住宅ローンとその抵当権があるような場合など、不動産の名義人と住宅ローンの名義人が一致していない事案では、そのような処理をすることはできない。さらに、オーバーローンの場合をどうするかという問題もあるので、一般的には、双方の全体財産を比較する中で、債務を控除して比較するという方法が一般的である。」*8
そして、近時、東京高裁は以下のような判断を示しました。
長くなりますが引用します。
要するに、①通算説を前提とする、②但し、それでは衡平を害する場合には除外説を採用するという内容です。
東京高判令和6年8月21日家判55号60頁(木納敏和裁判長)
「控訴人は、本件支度と本件住宅ローン債務を共に財産分与の対象から除外し、残余の積極財産の2分の1を控訴人に分与すべきであると主張する。
しかし、離婚における財産分与は、夫婦が婚姻期間中にその協力によって得た全ての財産(積極財産及び消極財産)を総合考慮して算定するものである以上、財産分与の対象財産中に不動産及びその評価額を超える住宅ローン債務が存在する場合において、他に財産分与の対象となる積極財産が存在するときには、それらの評価額を通算して財産分与の額及び方法を定めることが相当であると解される。ただし、住宅用不動産は他の財産分与の対象となる財産(動産、流動資産)とは性質を異にし、住宅ローン債務は、当該不動産を取得することを目的とする借入債務であって、離婚の成立後の支払分は財産分与により当該不動産の全部を取得する配偶者にとってその取得のための対価的性質を持つ側面もあるといえるから、上記のような清算方法によったのでは財産分与における当事者間の衡平を害するというべき事情が認められる場合には、離婚後の当事者間の財産上の衡平を図るため、当該事情を民法768条3項の「一切の事情」として考慮して、上記清算方法と異なる財産分与の額及び方法を定めることにも合理性が認められるというべきである。特に、不動産にその評価額を超える住宅ローン債務が存在し、他の積極財産の評価額と通算して財産分与の額を定める上記清算方法によれば、不動産を取得できない配偶者において、当該不動産からの退去を余儀なくされる上、分与されるべき財産が存在せず、あるいは離婚後の生活が困難となる程度に分与額が少額となるような場合において、他方の配偶者が所有名義人として当該不動産の使用収益を継続しつつ、離婚後の収入及び取得財産によって住宅ローン債務を返済することで最終的に負担のない同不動産の所有権を取得し、あるいはこれを処分することで一定の利益を得る相当程度の蓋然性が認められるときには、そのような帰結が離婚後の当事者間の財産上の衡平を害するものとして上記「一切の事情」として考慮すべき場合もあり得ると思われる。」
まとめ
以上のように、現在の実務ではオーバーローンの不動産があったとしても、それだけで財産分与の対象から外すという取扱い(除外説)はなされていません。ご注意ください。
公式サイト
※ 大変申し訳ないのですが、弊所は、無料法律相談は行っておりません。
竟成(きょうせい)法律事務所
TEL 06-6926-4470
*1:山本拓「清算的財産分与に関する実務上の諸問題」家月62巻3号(平成22年)18頁。
*2:家事事件実務研究会編『Q&A 家事事件の実務と手続』(新日本法規出版、改訂版、平成25年)252頁。
*3:松本哲泓『離婚に伴う財産分与』(新日本法規出版、令和元年)136頁。
*4:東京高判令和6年8月21日に関する匿名解説・家判55号(2025年)62頁参照。
*5:東京高判令和6年8月21日に関する匿名解説・家判55号(2025年)62頁参照。
*6:東京家庭裁判所家事第6部「東京地裁人訴部における人事訴訟の審理モデル」家判51号(2024年)142頁。
*7:武藤裕一ほか『離婚事件における家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点』(新日本法規出版、令和4年)229頁。
*8:秋武憲一ほか編著『リーガル・プログレッシブ・シリーズ 離婚調停・離婚訴訟』(青林書院、四訂版、2023年)186頁。