■今回のテーマ
「会社にしつこく電話してくるクレーマーの対策を顧問弁護士に依頼したのですが,そのクレーマーの個人情報を顧問弁護士に提供してもいいのでしょうか?」,「退職した元従業員から会社が訴えられているのですが,訴訟対応をお願いした弁護士に元従業員の個人情報を伝えてもOKですか?」……。
こうした場合,会社は,弁護士に対して,他人の個人情報を伝えてもよいのでしょうか? 個人情報保護法違反にはならないのでしょうか?
今回のテーマは,「弁護士と個人情報の第三者提供」です。
今回の記事は短いです(笑)。
■結論
会社が,事件処理を依頼した 弁護士に対して,クレーマーや元従業員の個人情報を伝えたとしても,個人情報保護法には違反しません。
実務上,この結論に争いはないと思います。
■説明
上述のように,個人情報保護法に違反しないという結論は一致しています。
ただ,この結論に至る論拠については大別して2つの考え方があります。
まず,個人情報の第三者提供について定めている個人情報保護法23条1項を確認してみましょう。
個人情報保護法第23条第1項(第三者提供の制限)
個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
一 法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
1つ目の考え方は,弁護士は「第三者」(個人情報保護法23条1項柱書)に当たらないとするものです。
弁護士がそもそも「第三者」でないのであれば,第三者提供の制限に抵触することはあり得ませんよね。
「弁護士が個人情報取扱事業者の代理人として個人データを利用する場合や,公認会計士が監査のために個人情報取扱事業者の個人データを利用する場合は,ここでいう第三者への提供に当たらない。」
2つ目の考え方は,会社が弁護士に事件処理を依頼する場合は,「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」(個人情報保護法23条1項2号)に当たるとするものです。
つまり,この考え方は,弁護士は「第三者」に当たるが,事件処理を弁護士に依頼した場合は例外事由に該当するから個人情報保護法には違反しないと考えるわけです。
ちなみに,宇賀先生は,「本人の同意を得ることが困難であるとき」(個人情報保護法23条1項2号)の意義について,次のように説明されます*2。
「『本人の同意を得ることが困難であるとき』の例としては,本人が急病になった場合等,物理的に同意を得がたい場合に限られず,悪質なクレーマーであることの情報のように本人が同意することが社会通念上期待しがたい場合等も含む。」
■最後に
以上のとおり,事件処理を依頼している弁護士に対して,事件処理に必要な個人情報を提供しても個人情報保護法違反にはなりません。安心して依頼してください(笑)。
■公式サイト
※ 大変申し訳ありませんが,無料法律相談は実施しておりません。
※ お問合せはお電話 or 公式サイトの送信フォームからどうぞ!
竟成(きょうせい)法律事務所
TEL 06-6926-4470