竟成法律事務所のブログ

大阪市北区西天満2-6-8 堂島ビルヂング409号室にある金融法や民事事件を重点的に取り扱う法律事務所です(TEL 06-6926-4470、大阪弁護士会所属)

LINE(株)に対する関東財務局検査と資金決済法に関する簡単な解説

■今回のテーマ

平成28年4月6日,以下のような報道が為されました。

LINE:関東財務局が立ち入り検査 - 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160406/k00/00m/040/159000c

「無料通信アプリ大手『LINE(ライン)』(東京都渋谷区)が運営するスマートフォン用ゲームで使う一部のアイテム(道具)が資金決済法で規制されるゲーム上の『通貨』に当たると社内で指摘があったのに、同社は仕様を変更し規制対象と見なされないよう内部処理していたことが分かった。同法を所管する関東財務局は必要な届け出をせず法令に抵触する疑いがあるとして、同社に立ち入り検査するとともに役員らから事情聴取し、金融庁と対応を協議している。」

 

これにを受けて, LINEさんは自社の見解を即座に公表されています。

【コーポレート】一部報道内容に関する当社の見解について | LINE Corporation | ニュース
http://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2016/1315

 「本日、一部報道機関において、当社のスマートフォン向けゲームに関し、当社が資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)に基づく規制の適用を意図的に免れ、同法に基づいて必要とされる供託を逃れようとしたかのような報道がなされましたが、そのような事実は一切ございません。」 

 

弊所の代表弁護士山田は,財務省近畿財務局の金融証券検査官として,資金決済法の審査業務にも携わっておりました。

そこで,今回は,LINEさんに対する関東財務局の検査,資金決済法の規制内容等について,簡単に説明したいと思います。

 

ちなみに,LINEさんは,元々,LINE COINを発行されていることもあり,「前払式支払手段(第三者型)発行者」として,関東財務局に登録しておられます(関東財務局第00607号)。 LINEさんは無登録業者ではありません。

LINE 資金決済法に基づく表示
http://terms.line.me/line_settlement_iphone/?lang=ja

 

 

 

毎日新聞さんの報道を読んで最初に思ったこと

毎日新聞さんの記事を読んで,最初に思ったことは

「この記事を書かれた記者さんは,資金決済法のことを十分には理解されていないのではないか?」

「少なくとも,記事には,不正確な用語が使われている。」

 というものでした。

 

 

 

■資金決済法は「通貨」については規定していない

毎日新聞さんの記事を読むと,「資金決済法は『通貨』について規定している」と勘違いしそうです。

 

しかし,これは違います。

実は,毎日新聞さんの記事でも言及されているのですが,資金決済法は,「前払式支払手段」等について規制する法律であって,「通貨」について規制するものではありません。

 

 

したがって,今回の報道内容や,LINEさんの反論の当否を考えるに際しては,まず,「前払式支払手段って何?」というポイントを正確に理解しておく必要があります。

 

 

 

■じゃあ「前払式支払手段」って何なの?

前払式支払手段については,資金決済法3条1項に定義があります。

資金決済法第3条第1項

この章において「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。


一 証票、電子機器その他の物(以下この章において「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。以下この項において同じ。)により記録される金額(金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。)に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの


二 証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの

 

……分かりにくいですね(笑)。

 

前払式支払手段の典型例は,商品券やプリペイドカードです。

まさに商品券やプリペイドカードをイメージしていただければお分かりになるように,これらの物品を購入する場合,事前に代金を支払いますよね? そして,実際に商品券を使用して商品を購入する場合には,現金を支払いません。

簡単に言えば,こういった商品券やプリペイドカードが「前払式支払手段」に該当します。

 

 

今回の件では,①LINEさんが運営されているLINE POPのアイテムが,この「前払式支払手段」に該当するか否か,そして,②それに関連するLINEさんの対応が原因で関東財務局が立入検査に入ったのか否かが問題になっています。

 

この問題を考えるためには,もう少し,厳密な法的議論が必要になります。

ここからはやや専門的な話になります。

 

 

 

■「前払式支払手段」の要件 ――総論

上述しましたように,前払式支払手段の定義は,資金決済法3条1項に規定されています。

 

同条項によれば,つまるところ,「前払式支払手段」の要件は以下の3つになります。これは,資金決済法の立案担当者の見解でもあり*1,条文上もこのようになると考えられます。

  1. 金額等の財産的価値が記載・記録されること(価値の保存)
  2. 金額・数量に応ずる対価を得て発行される証票等,番号,記号その他のものであること(対価発行)
  3. 代価の弁済等に使用されること(権利行使)

 

実際,LINEさんの法務担当者や,LINEさんの弁護士もこの3要件を検討されたようです。

「まず、前提といたしまして、ゲーム内で販売されるアイテムが資金決済法における前払式支払手段に該当するか否かについては、法令上も行政実務上も判断基準が明確でないことから、当社では、ゲーム事業部に専任の法務担当者を常駐させ、サービスのリリース前・バージョンアップ前に法務担当者が必ず確認し、資金決済法上の3要件(①価値の保存、②対価発行、③権利行使性)を全て満たしているか否かを基準として、各アイテム等の外観・使用場面等を総合考慮して判断しております。さらに、なお判断が難しいものについては、必ず外部弁護士にも相談の上で前払式支払手段に該当するか否かを判断することとしております。」

http://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2016/1315

 

報道によれば,現在ではLINE POPの仕様は変更されているようです。

 

そのため,問題になった当時の仕様内容がはっきりとは分からないのですが,問題となっているアイテムと,財産的価値(現金に限られません。*2)との間に構造的な結びつきがあるのであれば,「前払式支払手段」に該当する可能性はあります。

 

ネットで検索したところ,LINE POPでは,「ルビー」というアイテムを購入することができるようです。

そして,このルビーを用いて,「宝箱の鍵」というアイテムを入手することができるようです。また,ルビーは,他にも,ハートと交換したり,SPINで使ったり,アイテムを使用の際に消費したりするようです。

 

もし,仮にこの理解が正しいのであれば(理解が誤っている場合,以下の論理は成立しません。),以下のような構造になります。

宝箱の鍵 ―― ルビー ―― 財産的価値

 

 

 

■ルビーは「前払式支払手段」か?

この構造を元に考えると,まず,「ルビー」は上述した3要件を満たすと考えられます。

  1. 金額等の財産的価値が記載・記録されること(価値の保存)
  2. 金額・数量に応ずる対価を得て発行される証票等,番号,記号その他のものであること(対価発行)
  3. 代価の弁済等に使用されること(権利行使)

 

第1に,ルビーは,LINEさんに一定の金銭を支払うことによって入手できるデータですから,「金額・数量に応ずる対価を得て発行される証票等,番号,記号その他のものであること(対価発行)」という要件を満たします。

 

第2に,ルビーの数量は,LINE POPの中でデータとして保管されているはずですから,「金額等の財産的価値が記載・記録されること(価値の保存)」という要件も満たします。

 

第3に,ルビーは,上述したハートと交換したり,SPINで使ったりすることができますから,ルビーを使えばサービスを受けることができます。つまり,ルビーはサービスの代価を支払うために専ら使われていますから,「代価の弁済等に使用されること(権利行使)」という要件も満たします。

  

したがって,ルビーは,「前払式支払手段」に該当すると考えられます。

 

ですから,推測ですが,ルビーについては,LINEさんも関東財務局も「前払式支払手段」に該当するという見解で一致しているのではないかと考えられます。

 

 

 

■宝物の鍵は「前払式支払手段」か?

問題は,「宝箱の鍵」です。

宝箱の鍵は,財産的価値(お金)と直接的にリンクしている訳ではないようです。

宝箱の鍵 ―― ルビー ―― 財産的価値

 

しかし,財産的価値(お金)と直接的にリンクしていないからと言って,直ちに,「前払式支払手段」に該当しなくなる訳ではありません。

 

あくまで,「宝箱の鍵」が資金決済法3条1項が定める要件を満たすかどうかが問題になります。

 

 

順に,3つの要件について,考えていきましょう。

  1. 金額等の財産的価値が記載・記録されること(価値の保存)
  2. 金額・数量に応ずる対価を得て発行される証票等,番号,記号その他のものであること(対価発行)
  3. 代価の弁済等に使用されること(権利行使)

 

上述しましたように, 「ルビー」はそれを使用することによって幾つかのサービスを受けることができるものであり,「前払式支払手段」に該当するものです。

したがって,ルビーそれ自体,財産的価値を有するものと言うことができます。

 

これを踏まえて考えます。

第1に,宝物の鍵は,財産的価値を有するルビーを一定程度支払うことによって入手できるものですから,「金額・数量に応ずる対価を得て発行される証票等,番号,記号その他のものであること(対価発行)」という要件を満たします。

 

第2に,宝物の鍵の数量は,LINE POPの中でデータとして保管されているはずですから,「金額等の財産的価値が記載・記録されること(価値の保存)」という要件も満たします。

 

 

難しいのが,第3の「代価の弁済等に使用されること(権利行使)」という要件です。

なぜ,難しいかと言うと,「宝箱の鍵」の位置付け(宝箱が開くという効果の位置付け)が,よく分からないからです。

 

例えば,次のように考える場合,「宝箱の鍵」は,権利行使の要件を満たすことになります。

すなわち,宝箱の鍵は,これを使用することによって,「宝箱」の中身を入手することができる。つまり,宝箱の鍵を使うことによって,宝箱の中身入手というサービスを受けることができる(しかも,宝箱の鍵を使用するという方法以外に,宝箱の中身を入手する術はない。)。 

したがって,「商品・サービスの提供を受ける場合に,発行された証票等や符号等を通常使用することが予定されている」*3と言えるから,代価の弁済等に使用されること(権利行使)」という要件を満たす。

 

 

逆に,次のように考える場合,「宝箱の鍵」は,権利行使の要件を満たしません。

すなわち,宝箱が開くという現象は,宝箱の鍵の機能・効能そのものである。宝箱の鍵と引換えに,宝箱の中身入手というサービスが提供されている訳ではない。

言い換えれば,宝箱を入手した段階で宝箱の中身を潜在的に取得しているのであって,宝箱の鍵は宝箱を補助するものに過ぎない(宝物という財産的価値は,宝箱と紐付いているのであって,宝箱の鍵と紐付いているわけではない。)。

したがって,宝箱の鍵は,代価の弁済等に使用されているわけではない。

 

 

この問題は,結局,「宝箱の鍵」の実態がどのようなものなのか(実際にゲーム内でどのように発生し,どのようにユーザーが取得し,使用しているか)という点が明らかにならなければ分かりません。

 

 言い換えれば,関東財務局(ひいては金融庁)と,LINEさんの見解の対立は,この点に帰着するの「かも」しれません。

 

 

尚,毎日新聞さんの記事では,次のように書かれています。

「複数の関係者によると、昨年5月、ゲーム内のアイテム『宝箱の鍵』が前払式支払手段に当たる可能性があると内部で指摘された。『宝箱を開ける』用途以外に、使用数に応じてゲームを先に進めたり、使えるキャラクターを増やしたりできる仕様だった。」 

http://mainichi.jp/articles/20160406/k00/00m/040/159000c

もし,この報道内容が事実であったとすると,当時の「宝箱の鍵」は,「ルビー」とほぼ同じものと考えることができます。その場合,当時の「宝箱の鍵」は「前払式支払手段」に該当する可能性がかなり高かった,ということになります。 

 

 

  

 ■関東財務局の検査について

報道内容からは,はっきりとしませんが,上述のとおり,LINEさんは,前払式支払手段発行者として関東財務局に登録しています。

したがいまして,数年に1度は,財務局の検査があってもおかしくありません。

 

※この点については,追記するかもしれません。

 

 

 

■【2016年4月7日追記】

本件について,弁護士の田上嘉一先生のご解説が公表されました。

”供託金逃れ”は言い過ぎ?--LINEの「宝箱の鍵」問題、弁護士の見解は - CNET Japan
http://japan.cnet.com/news/topics/35080819/

 

 

ただ,この記事の中で,田上先生は次のように述べられているようです。

「一般に、ゲーム内のコインでガチャによって得たカードやアイテムはすでに保護の対象外です。これらは、対価に応じて発行されてはいますが、財産的価値を有するものではありません。ゲーム内のアイテムとして使用することはあっても、モノやサービスの対価として権利行使されるわけではなく、すでにゲーム内のアイテムにすぎないと考えられているのです。 」 

 

この田上先生の説明は,ここだけをピックアップしてしまうと,語弊があります。

重要なのは,このパラグラフの次の部分です。田上先生は,コイン等の要素を介在させれば,常にカードやアイテムが「前払式支払手段」に該当しないとおっしゃっているわけではありません(資金決済法はそのような脱法的措置を許しません。)。

「つまり、何か他のアイテムやキャラクターなどと交換するという交換的価値、媒体価値を持っている場合には前払式支払手段とし、そうではなくて、そのもの自体がゲーム内で使用するキャラクターであったり武器であったりすれば、前払式支払手段ではないということになります。」

「宝箱の鍵についても同様に考えられ、ルビーという財産的価値を持つ前払式支払手段との交換によって発行されてはいますが、これが宝箱を開けるというアイテムなのか、それとも宝箱の中のアイテムを獲得するための権利行使手段なのかという解釈の違いなのです。」

 

 

 

■まとめ

資金決済法は,携帯のアプリやネットゲーム,あるいはネットビジネスを行う際に,意外によく問題になります。

新たな商品を開発されたり,ビジネスモデルを考えたりする場合には,資金決済法も忘れずにチェックしてください。

 

 

  

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*1: 高橋康文編著『逐条解説 資金決済法』(きんざい,増補版,平成22年)65頁以下。

*2:前掲・高橋66頁。

*3:前掲・高橋67頁。