竟成法律事務所のブログ

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弁護士が説明する婚約破棄の注意点

 ■今回のテーマ

「婚約して,もう結納までしたのですが,色々あって,婚約破棄(婚約解消)を考えています。婚約を破棄すると,法律上,どんな問題がありますか?」。

 

というわけで,今回のテーマは「婚約,結納の法的性質」です。

 

 

 

■結論

「正当な理由」なく婚約を破棄すると,慰謝料を支払わなければならないことがあります。

また,結納は,地方の慣習(民法92条)によっては,結納金を贈った側による破棄の場合は結納金の返還を求めることができず,結納金を受け取った側による破棄の場合は結納金を倍返ししなければならないことがあり得ます。

 

これらの点について,もう少し詳しく説明します。

 

 

■説明

【婚約について】

まず,婚約は,昔から,法律上は「契約」の一種であると考えられています。

実際に裁判所は,婚約を次のように説明します。

「婚約とは将来婚姻を締結しようとする当事者間の契約」*1

「婚約とは,男女が,誠心誠意をもって,将来夫婦となるべきことを確定的に合意することをいう」*2

 

したがって, 婚約指輪のプレゼントや結納,あるいは明示的なプロポーズがなくても,当事者間で将来の結婚について合意していれば婚約は成立します*3

 

ただし,婚約は契約の履行(つまり,婚姻)を強制することができないという点で,通常の契約とは異なると考えられています。婚姻はあくまで当事者の合意があって初めて成立します。裁判所が「結婚しろ」と命じることはできないのです。

 

そのため,通常の契約であれば,契約を破棄された方は,契約を破棄した方に対して,債務不履行に基づく損害賠償(民法415条)や,不法行為に基づく損害賠償(民法709条)を求めることができますが,婚約の場合には,当然には損害賠償を求めることができません。

 

つまり,正当な理由なく婚約が破棄された場合のみ,損害賠償を請求することができます

 

この点について,ある裁判例は次のように説明します。

現代における婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立する(憲法24条)ものであるから、いわゆる『婚約』は、本来的に一方当事者のみの意思表示により解消され得る性質を有する。したがって、被告が原告と婚姻しなかったという結果自体から直ちに婚約不履行という債務不履行責任が生じるものではない。」。

「しかしながら、他方、婚約は、将来法律上の夫婦になることを前提としてその実現に向かって当事者双方が準備行為を行っていくことを合意するものであり、婚約成立後は結婚という目的に向けて様々な事実行為、法律行為が積み重ねられていくことが予定されているから、客観的にみて婚姻を解消することに正当な理由があると認められないような一方的な婚姻解消を行う者は、婚約成立以後に、結婚という目的のために積み重ねた行為によって相手方に生じた損害について、相当な範囲でこれを賠償すべき義務を負うと解するのが相当である。」*4

 

 

「正当な理由」の典型例は,婚約者の浮気です。

例えば,男性Aが,女性Bと婚約しており,女性Bと良好な信頼関係を構築していたにもかかわらず,女性Cと肉体関係を有した場合,女性Bは婚約を破棄しても,損害賠償責任を負いません。

女性B ―― 男性A ―― 女性C

 

逆に,正当な理由がない(不当な婚約破棄である)とされた事例としては,例えば,次のものがあります。

  1. 結婚式の原資の調達方法に対する見解の相違やローンや奨学金などの借入金の存在の発覚,男性側の貯金の少なさ等の事実は,婚約を破棄する正当な理由とは言えないとされた事例。*5
  2. 特定の宗教を熱心に信仰しているという事実は,婚約を破棄する正当な理由とは言えないとされた事例。*6
  3. 女性が男勝りの性格であり,男性が気の弱い性格であって,両者の性格が一致しないという事実は,婚約を破棄する正当な理由とは言えないとされた事例。*7

 

 

 【結納について】

最高裁は,結納の法的性質を次のように説明します。

 「結納は,婚約の成立を確証し,あわせて,婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家間の情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与である*8。 

 

ただし,結納が「贈与」――つまりプレゼントの一種――であるからと言って,婚約を破棄した場合に何の問題も発生しないわけではありません。

 

例えば,ある裁判例は,次のように述べます。*9

  1. 婚姻の不成立が確定した場合は,受領者は結納を返還すべきである。
  2. ただし,婚姻不成立の原因が結納を贈った側にある場合や,贈った側が正当な理由なく婚約を破棄した場合は,受領者は結納を返還しなくても良い。

 

また,地方によっては,結納金の受領者側が婚約を破棄した場合には,結納金を倍返しにするという慣習(民法92条)が成立していることもあるそうです*10。この場合は,その慣習に従って,婚約破棄が処理されますので,倍返しが必要になります。

 

但し,この点については,神戸大学の窪田充見先生が,次のように指摘されています。

「なお,婚約による贈与については,婚約が破棄され婚姻が成立しなかった場合,贈与者の側から破棄した場合には贈与した金員の返還を求めることができず,受贈者の側から破棄した場合には受け取った金員を返還するほか,それと同額の金員を賠償として支払うといった慣習があるとされるが(結納の倍返し),本当にそうした習慣があるのかという点を含めて,この点はそれほど明確なわけではない。」。*11

 

 

 ■最後に

婚約破棄に正当な理由があるかどうかはケースバイケースです。このような問題が発生すると,当事者は頭に血が上ってしまいがちです。

 

速断することなく,まずは,信頼できる中立的な方のご意見を聞いてよく考えましょう(但し,法律に関する情報については専門家から直接,聞いてください。特にネット上の素人の方は,善意で誤った情報を話されることが少なくありません。)。

 

その上で,「やっぱり納得できない」という場合に,弁護士に相談されると良いかと思います。

 

弁護士に相談される場合は,

  1. お二人が出会ったときから現在に至るまでの経緯を時系列表にまとめた上で
  2. 証拠になりそうな物品や書類(婚約指輪,結納のときの写真,結婚式場の見積り,お互いのメールやLINEのやりとり,Facebookの投稿等)をなるべく沢山集めて持って行く

と効率的に相談ができると思います。

 

 

■関連する拙稿

婚約破棄の事例紹介
http://milight-partners-law.hatenablog.com/entry/2015/08/20/103557

 

婚約の成否に関する近時の裁判例のご紹介
http://milight-partners-law.hatenablog.com/entry/2015/08/25/105313

 

 

 

■関連する報道記事

【衝撃事件の核心】「ピル飲まんでもいいやん、子供ほしい」男の言葉信じたのに中絶要求 ドロドロ婚約破棄訴訟の顛末(1/5ページ) - 産経WEST
http://www.sankei.com/west/news/160713/wst1607130003-n1.html

「女性は不当な婚約破棄だとして、男性に慰謝料など約390万円の損害賠償を求めて提訴。1審では敗れたが、2審で逆転勝訴した。妊娠、結婚、出産という人生の一大事について司法の判断は分かれた。」

 

 

 

 

■公式サイト

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*1:神戸地尼崎支判昭和52年8月31日家月32巻10号55頁。

*2:東京地判平成24年3月27日公刊物未登載。

*3:但し,実際に裁判で婚約の成立を「立証」できるかどうかはまた別の問題です。裁判では,婚約が成立したと言えるかがしばしば問題になります。そして,例えば,婚約指輪の交換や結納は,婚約の成立を基礎づける証拠の1つになります。

*4:東京地判平成15年7月17日公刊物未登載。太字は引用者によります。

*5:東京地判平成25年11月6日公刊物未登載。

*6:京都地判昭和45年1月28日判タ246号239頁。

*7:東京地判昭和32年5月6日家月9巻5号63頁

*8:最判昭和39年9月4日民集18巻7号1394頁。太字は引用者によります。

*9:大阪地判昭和43年1月29日判時530号58頁。

*10:尚,民法92条の要件である「法律行為の当事者がその慣習による意思」の存在は積極的に求められているわけではありません。むしろ,慣習が存在する場合,当事者はその慣習に従うことが通常ですから,原則として「その慣習による意思」の存在は認められます。佐久間毅『民法の基礎1 総則』(有斐閣,第3版,2009年補訂)74頁参照。

*11:窪田充見『家族法』(有斐閣,初版,2011年)14頁。