■今回のテーマ
早いものでもう12月です。そして,12月と言えば,「忘年会」ということで,世の飲食店にはたくさんの宴会の予約が入っていると思います。
それに伴って,宴会の予約のキャンセルも少なからず発生しているはずです。
余裕をもって,キャンセルの連絡がお店に為された場合は問題は少ないのですが,前日とか当日のキャンセルの場合,予約人数が多いときは,お店としてはたまったものではありません。
では,こうしたとき,お店は,お客様に対して,キャンセル料を請求できるのでしょうか?
というわけで,今回のテーマは,「お客様に対するキャンセル料請求の可否,金額」です。
■結論
- 正当な理由のないキャンセルであれば損害賠償を請求することができます。
- キャンセル料について特約があり,それについて,お店とお客様の間で明確に合意が成立している場合は,「平均的な損害額」を請求することが可能です。
- キャンセル料について特約がない場合も,一定の損害を請求する余地はあります。
※ 但し,弁護士に依頼される場合,請求できる金額が,弁護士費用と見合うものであるかどうかはケースバイケースです。
■説明
ここからは,少し,専門的な説明になりますが,お付き合いください。
まず,今回のテーマとなっているような「宴会の予約」は,法律上(民法上)の「予約」ではありません。*1
むしろ,「宴会の予約」とは,法的には,宴会場&飲食物提供契約とでも表現すべき「契約」そのものです。
この点について,京大の山本敬三先生は次のように指摘されます。
「(前略)日常用語でいう『予約』の多く――ホテルや飛行機の予約等――は,すでに本契約――宿泊契約や運送契約等――が締結されているとみられるため,ここでいう予約にはあたらない。」*2
そのため,「キャンセル料の請求の可否」という問題は,結局,
- 契約が解除された場合の損害賠償請求の可否(例えば,前日にキャンセルの連絡があり,料理等を作る前だった場合はこれに当たると考えられます。)
- 不当な受領拒絶が為された場合の損害賠償請求の可否(例えば,料理等も既に作っていたにもかかわらず,全く連絡もなく,当日お客様が来なかった場合はこれに当たると考えられます。)
のどちらかと同様に考えれば良いということになります。
ここから先は,法的&実務的には,以下のようなチェックを行っていくことになります。
ちなみに,このチェックは上述の2つのパターンのうち,1つ目を想定しています。
- 宴会場&飲食物提供契約が成立しているか
- キャンセル料に関する特約が成立しているか
- 消費者契約法9条1号 と抵触していないか
- 損益相殺は生じているか
- お客様を特定できるか
第1に,そもそも,「宴会の予約」が為されていたかをチェックします。多くの場合,ここは問題ないと考えられます。
第2に,キャンセル料に関する特別な約束をお店側が提示していた場合(例えば「当日キャンセルの場合は予約代金の100%を頂戴します」というようなものです)は,この特別な約束が成立していたか否かをチェックします。
この点に関する参考裁判例としては,東京地判平成19年5月28日公刊物未登載(ウェストロー)があります。
この事例では,「忘年会の3週間前のキャンセルについても予約代金の60%のキャンセル料が発生する」という特約の成否が問題となりました。
東京地裁は,この特約は「店舗側に著しく有利な,かなり特異な取決めであるということができるのであって,このような性質の特約の成立が認められるためには,その特約の内容を具体的に説明した上で,これに対して予約客から明示の了承が得られるなど,予約客に特約内容の明確かつ具体的な認識が求められるものというべき」と判示しました。
尚,今回のテーマの本質は,債務不履行に基づく損害賠償請求にありますから,キャンセル料に関する特約が成立していなかったとしても,損害賠償を請求すること自体は論理的には可能です。
紛らわしい話ですが,ご注意ください。
第3に,キャンセル料の特約が成立していたとしても,その特約が消費者契約法9条1号に抵触していなかをチェックします。
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第9条
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分(2号省略)
要するに,「一般的な同業他社がキャンセルされたお店と同様の目に遭ったら,平均してどれくらいの損害を蒙るのか」を考えます。
もし,特約で定められていたキャンセル料が,この損害額を超過していた場合,超過している部分が消費者契約法9条1項で無効になります。
この部分は,ケースバイケースである上,専門的な内容になりますので,弁護士に相談された方が良いかと思います。
尚,この消費者契約法9条1項については,消費者庁による逐条解説がありますので,興味がある方はご確認ください。
第4に,損益相殺が発生していないかチェックします。
損益相殺とは「債権者が,損害が被ったのと同時に,債務不履行と同一の原因によって利益を受けた場合に,損害と利益との間に同質性・相互補完性がある限り,損害額から利益額を差し引いて,その残額をもって賠償すべき損害額とする」考え方を言います。*3
例えば, キャンセルされたことによって,空席が生じ,その空席を他のお客様が利用して売上が上がった場合,その売上は損害額から控除されます。
第5に,そもそも,お客様を特定できるかをチェックします。
これは法律論というより,実務的なチェック事項なのですが,いくら法律上は損害賠償請求権が成立していたとしても,お客様がどこの誰であるかが分からなければ,請求のしようがありません。
通常は,予約の際に電話番号や氏名をお店側で記録していると思いますが,この電話番号と氏名だけで,必ずそのお客様を特定できる訳ではありません。*4
これらのチェックを経て,問題がなければ,実際に,お客様に対してキャンセル料を請求できることが多いはずです。
■参考裁判例
東京地判平成19年5月28日公刊物未登載(ウェストロー)
本件は,料理店を経営している会社が,同店での職場の忘年会の予約をしたAと共に忘年会の幹事を担当していた被告に対して,被告がキャンセルの連絡をしたことを理由に,キャンセル料10万5000円等の支払を請求した事案です。
原審の東京簡裁は料理店の請求を全部棄却しました。
但し,以下の事情があり,特殊な事案です。
第1に,本件の時系列は次のようなものでした。
- 平成17年11月に,Aが,料理店に電話を掛け,同年12月15日に50人の宴会の予約をしました。
- 平成17年11月21日,Aが下見のために料理店を訪問し食事をしましたが,忘年会人数が50人を超過するおそれがあり,料理店では手狭であると感じられれたことから,忘年会は別の店で開催することにしました。
- 平成17月11月29日,Aが,料理店に電話を掛け,予約をキャンセルしました。すると,同日,料理店は,キャンセル料10万5000円を請求しました。そのため,その日の夜,Aと被告は,一緒に料理店を訪れて話合いをしました。
- つまり,本件は,予約日の約2週間前にキャンセルの連絡が来た,という事案です。
第2に,料理店側は弁護士を就けず,いわゆる本人訴訟でした。そのため,料理店の主張内容は法的には不明確です。
そして,結論から言いますと,東京地裁は,料理店の請求を棄却しました。
但し,請求を棄却した直接的な理由は,被告は紛争の当事者ではない(当事者適格がない)というものでした。
その上で,東京地裁は,紛争の根本的解決のために,キャンセル料を支払うという特約が成立したかという点について,次のように判示しました(一部,形式的な表記を修正しています。)。
「控訴人は,Aが,本件予約の際に,本件店舗の従業員がキャンセル料について説明し,本件店舗のホームページに本件のような場合のキャンセル料が料金の60パーセントである旨の記載があり,Aは同ホームページを閲覧していたから,本件特約が成立していたと主張し,控訴人代表者もこれに沿う供述をしている。」
「しかしながら,これらのやりとりはAと電話で応対した従業員から控訴人代表者が聞き取った伝聞に過ぎないこと,A自身は,キャンセル料について説明を受けたことを否定するとともに,本件予約に際して控訴人の主張にかかるホームページも見たことがなかった(原審証人)と供述していることに照らすと,控訴人代表者の上記供述を採用することはできない。」
「また,仮に,証人が前記ホームページを閲覧したことがあると述べていたとしても,本件特約は,忘年会の3週間前のキャンセルにつき予約代金の60パーセントものキャンセル料が発生するという,店舗側に著しく有利な,かなり特異な取決めであるということができるのであって,このような性質の特約の成立が認められるためには,その特約の内容を具体的に説明した上で,これに対して予約客から明示の了承が得られるなど,予約客に特約内容の明確かつ具体的な認識が求められるものというべきである(なお,本件特約の成立が認められるとした場合でも,消費者契約法9条1号によって本件特約が一部無効となる余地があることは別論である。)。」
「そして,控訴人代表者の供述にかかる本件予約の際のやりとりは,Aが,ホームページを見ており,キャンセル料が発生することについても分かっていますと述べたというものであるが,キャンセル料が具体的にいつから発生するのか,また,その額はどのようなものであるのかについて明確にやりとりがされているものではない。」
「そうすると,仮にAが控訴人代表者供述のとおり述べたとしても,Aに対しキャンセル料の発生時期や額などの具体的内容の確認が行われていない以上,本件特約の成立は認められないと言わなければならない。」
■公式サイト
※ 大変申し訳ないのですが,無料法律相談は行っておりません。
※ お問合せはお電話又は下記サイトからお願いいたします。
竟成法律事務所
TEL 06-6926-4470