竟成法律事務所のブログ

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「誹謗中傷とは何か? 正当な批評とは何が違うのか?」に関するメモ

■今日のテーマ

今日のテーマは、「誹謗中傷とは何か? 正当な批評とは何が違うのか?」という疑問に関する備忘録的なメモです。

 

あくまで備忘録的なメモであり、この記事を御覧になれば、誹謗中傷についてエキスパートになれる、というものではありません。

 

 

 

■定義

実は、誹謗中傷については、明確な法律上の定義がありません。

 

この点について、例えば、弁護士の北村一樹先生は次のように指摘されます。

 

「しかし、「誹謗中傷」とは、法律用語ではなく、論者によってもどのような意味で用いているのか、必ずしも明らかではない。また、「誹謗中傷」に関する説明としては、例えば、総務省「インターネットトラブル事例集(2020年版)追補版」のにおいて、「誹謗中傷」と「批判意見」を区別する文脈で「相手の人格を否定する言葉や言い回しは批判ではなく誹謗中傷です」との説明もされているところである。」*1

 

※ 北村先生が言及されている総務省『インターネットトラブル事例集』*2では、次のように説明されています。

総務省「インターネットトラブル事例集」より抜粋

 

このように、誹謗中傷については、法令上の明確な定義や、通説的な法的定義がありません。

 

 

 

■裁判例

では、実際の訴訟では、どのような場合に誹謗中傷と認められているのか or 認められていないのでしょうか? 以下では、実際の裁判例の一部を抜粋して紹介します(太字は引用者によります)。

 

 

東京地判平成30年1月25日(平成29年(ワ)第36491号)

「誹謗中傷とは単なる批判的言論ではなく,いわれのない悪口を言って相手方を傷つけることである。」

 

 

東京地判平成26年5月28日(平成23年(ワ)第17843号等)

「番号15及び53の各記事は記載内容に具体性を欠き違法な誹謗中傷とは認められない。」

 

 

東京地判平成24年12月6日(平成23年(ワ)第28157号等)

「本件警告文書1及び2,本件落書き1及び本件パネル,本件ポスター並びに本件落書き2の掲示等は,その記載内容,掲示等の態様,位置及び期間等を考慮すると,原告に対する誹謗中傷とは必ずしも見られず」

 

 

東京地判平成23年12月13日(平成23年(ワ)第24307号)

「これらの記載は,前記1~3において認定した被告のメールやブログでの記載内容に照らせば,被告が,原告の存在を念頭においてこれらの記載をしたことは否定できないが,そうであるとしても,これらの記載は,被告自身の原告に対する感情を記載したに過ぎず,原告に対する具体的な誹謗中傷があったとは認められない」

 

 

東京地立川支判平成23年4月25日判タ1357号147頁

「私人間において、権利義務を巡る紛争が生じ、その解決を図るため、交渉や訴訟、調停等の法的手続が行われる場合には、当事者双方に、その権利利益を防御するため、自己の意見を自由に表明することを保障する必要があり、そのため、相手方の名誉又は名誉感情を損なうかのような表現が含まれることもある程度やむを得ないこと、一方の当事者の表明した意見に、相手方の名誉又は名誉感情を損なうかのような言動がされたとしても、あくまで一方当事者の立場から見た意見にとどまり、相手方には、これに反論する機会があること、私的紛争の渦中においては、感情的対立が激しくなることにもやむを得ない面があることにかんがみれば、交渉や訴訟、調停等の法的手続における一方当事者の表明した意見に、相手方の名誉ないし名誉感情を損なうような表現にわたるものがあったとしても、相手方を害する意図で、ことさら虚偽の事実や、当該紛争と何ら関連性のない事実を主張したり、相応の根拠もないままに防御の必要性を超えて、著しく不適切な表現内容、方法、態様を用いたりするものでない限りは、正当な防御の範囲にとどまり、違法性が阻却されると解するのが相当である。」(※但し、この事案は法的手続の中で為された表現に関する判断であり、若干特殊です。

 

 

 

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*1:北村一樹「名誉毀損(信用毀損)に当たる誹謗中傷とは」ジュリ1554号(2021年)32頁。その上で北村先生は、「誹謗中傷」と言われるものには、①名誉毀損、②プライバシー侵害、③名誉感情侵害、④肖像権侵害、⑤不適切な情報ではあるものの、法律上の権利侵害又は違法性が認められないものの5類型があると指摘されます。

*2:

https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/pdf/trouble_book2023.pdf