竟成法律事務所のブログ

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【民法】「懲戒権って何?」と思った方のための基本的解説

■今日のテーマ

次のような報道が為されています。

 

体罰・虐待を正当化する口実に…子への民法「懲戒権」見直しへ 読売新聞

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220105-OYT1T50100/

懲戒権について民法822条は「親権を行う者は、監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる」と定めている。本来、体罰を認める規定ではないが、「『しつけ』と称して子の虐待を正当化する口実になっている」との指摘を受けてきた。

 

しかし,「懲戒権」という言葉をお聞きになったことがある人は多くないと思います。

 

というわけで,今日は,懲戒権に関するごく基本的な事項についてご説明したいと思います。

 

 

 

■条文等

「懲戒権」と呼ばれている権利については,民法822条に定めがあります。

(懲戒)
第822条 親権を行う者は、第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。

 

 

 

■「懲戒」とは何か?

しかし,ここで定められている「懲戒」とは具体的に何を指すのでしょうか?

 

実はこの点について明示的に説明した文献は必ずしも多くありません。

その中で,ある文献は次のように明示的に説明します。

 

「懲戒とは、子の非行に対して教育のためにその身体または精神に苦痛を与える制裁である。親権者は、その親権に服する子に対してこのような懲戒を行うことができるのである。しかし、親権者の懲戒権は、親権者による子の監護教育の実をあげるためにのみ認められるものである。」*1

 

 

 

■「必要な範囲内」って何?

このように,懲戒とは身体的又は肉体的苦痛を与える制裁です。

 

当たり前ですが,このような制裁が無制限に許されるはずがありません。

ですから,平成23年(2011)年に改正された現行法は,このような懲戒権を行使できるのは「必要な範囲内」と定めています。

 

もっとも,「必要な範囲内」という文言は非常に曖昧です。

むしろ,「躾」という《美名》の下に虐待が為される危険性が高いです。

 

そのため,一定数の法学研究者の方々は民法822条が定める懲戒権について削除すべきであると指摘されています。

 

前提として,懲戒という名の下に子に対して暴力をふるうことが正当化されるものでないことは当然である。しかし,虐待の多くの場面で,親からは「しつけ(懲戒)」であるという主張がなされてきた。このような状況を受けて,2011年の改正の際には,懲戒に関する民法822条自体を削除するという立場も有力であったが,刑法上の違法性阻却事由としての位置付け等も考慮した上で,最終的に,822条自体は残し,そのうえで,「第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる」とし,懲戒として許される範囲を明確にした。*2

 

懲戒権は,あくまで子の利益のために監護および教育に必要な範囲内で認められるものであるが,現実には躾と称して行きすぎた行為が問題となる。民法には,家庭裁判所の許可を得て,子を懲戒場に入れることができる旨の規定があったが,2011(平成23)改正により,この規定は廃止された。躾の名における子に対する暴力的懲戒行為(体罰等)は虐待であり認められない(児童虐待14条)。法制審議会(親子法制)部会では,懲戒権につき廃止を含めた検討を進めている。*3

 

親権者は,監護教育のために必要な範囲内で,子の居所を指定しそこに居住させることができる(民821)。また親権者は,監護教育のため必要な範囲内で,自ら子を懲戒することができる(民822)。しかし,いずれも子の監護教育のために必要な場合には,820条の監護教育権の行使範囲に含まれるので,あえて規定する必要はない。いずれも削除すべきである。*4

 

 

児童虐待の防止等に関する法律

尚,上記のような問題意識から,現在では特別法として児童虐待の防止等に関する法律が定められており,その14条民法822条が違法性阻却事由として機能しないことを定めています。

 

(親権の行使に関する配慮等)
第14条

1 児童の親権を行う者は、児童のしつけに際して、体罰を加えることその他民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲を超える行為により当該児童を懲戒してはならず、当該児童の親権の適切な行使に配慮しなければならない。
2 児童の親権を行う者は、児童虐待に係る暴行罪、傷害罪その他の犯罪について、当該児童の親権を行う者であることを理由として、その責めを免れることはない。

 

 

 

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*1:松川正毅=窪田充見編『新基本法コンメンタール 親族』(日本評論社,第2版,2019年)246頁〔田中通裕〕

*2:窪田充見『家族法 ――民法を学ぶ』(有斐閣,第4版,2019年)294頁

*3:高橋朋子ほか『民法7 親族・相続』(有斐閣,第6版,2020年)197頁。

*4:二宮周平家族法』(新世社,第5版,2019年)235頁。