今回のテーマ
今回のテーマは、審判前の保全処分で子の引渡しが認められた場合、直接強制をするためには、いつまでに何をすれば良いのか?です。
解釈論としては、家事事件手続法109条3項、民事保全法43条2項の問題です。
審判前の保全処分たる子の引渡しにおいて、いわゆる「執行の着手」としてどこまで必要か、という論点となります。
(審判)
家事事件手続法109条3項審判前の保全処分の執行及び効力は、民事保全法(平成元年法律第九十一号)その他の仮差押え及び仮処分の執行及び効力に関する法令の規定に従う。この場合において、同法第四十五条中「仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する地方裁判所」とあるのは、「本案の家事審判事件(家事審判事件に係る事項について家事調停の申立てがあった場合にあっては、その家事調停事件)が係属している家庭裁判所(当該家事審判事件が高等裁判所に係属しているときは、原裁判所)」とする。
結論
結論としては、債権者(審判前の保全処分の申立人)が保全命令を受け取った日の翌日から数えて2週間以内に、執行裁判所(審判前の保全処分を出した裁判所)に対して、授権決定の申立て(執行官に子の引渡しを実施させる決定の申立て)をすれば足りると現在の家裁実務では考えられています。
注意点
注意すべき点は、3つあります。
第1に、この結論は、動産執行の規定の類推適用で処理していた旧法下の実務とは異なります。旧法下では、2週間以内に申立てをするだけでは足りず、執行官が強制行為の一部に着手していなければならないとされていました。つまり、法改正により、手続が変更となっています。
第2に、この結論は、最初から直接強制を申し立てる場合を前提とした結論です。
最初に間接強制を申し立てた後*1、直接強制を申し立てた場合の話ではありません。ご注意ください*2。
第3に、2週間以内に授権決定の申立てをすれば足り、執行官に対する引渡実施の申立てを2週間以内に行なう必要はありません。
理由
この点について、民事執行法改正を立案した担当者は次のように述べます。
家事事件手続法109条3項、民事保全法43条2項について、「この規定に関しては、代替的作為を命ずる仮処分については授権決定の申立てがされた時に、不代替的作為を命ずる仮処分については間接強制の申立てがされた時に、それぞれ執行の着手がされたものと解されています。 このような解釈を前提にすれば、子の引渡しの直接的な強制執行についても、その申立てがされた時に、執行の着手がされたものと解されることになるものと考えられます。
そして、改正法では、子の引渡しの強制執行は、債権者の申立てにより、間接強制又は直接的な強制執行の方法により行うことが想定されているため、 例えば、子の引渡しを命ずる審判前の保全処分等により間接強制の申立てをし、その後、 改めて直接的な強制執行の申立てをした場合にも、この期間制限を遵守したこととなるのかが問題となります。」*3
また、執行官実務では次のように解されています。
「この点、債務者に代替的作為を命ずる仮処分命令については、授権決定の申立てがされた時に、執行の着手があったと解されており(略)、引渡実施決定は、代替執行における授権決定に類するものと考えられるから(略)、債権者が、執行裁判所に対し、引渡実施決定の申立てをした時点で執行の着手があったとみるものと解されている。この見解によれば、引渡実施については、上記の2週間の期間制限は受けないこととなる(執行裁判所に対する引渡実施決定を求める申立ては2週間の期間制限を受けるが、その後の執行官に対する引渡実施の申立てはこの制限を受けない。)。」*4
そして、そもそも、代替的作為を命ずる仮処分について、申立てが為されれば民事保全法43条2項の要請を満たすとされる理由については、次のように説明されています。
「債務者に対し代替的作為義務を命ずる仮処分については、債務者が履行をしないときには代替的執行によりその実現を図る必要がある。債権者が執行を行なうためには、52条、民執法171条1項、民法414条2項により授権決定を得なければならないが、執行機関にどの程度の行為を必要とするかについては、議論がある。執行期間内に裁判所から授権決定を得なければならないとする説もある(略)が、本来は債務者の履行を期待すべきものであること、授権決定を得るためには債務者審尋が必要とされており(民執171条3項)、執行期間内に授権決定を得ることまで要求することは債権者に酷であることから、執行期間内に授権決定の申立てをすれば足りると解すべきである」*5
ちなみに、民事保全法43条2項の趣旨については次のように説明されています。
「保全執行は、緊急の必要性があるとして発せられる暫定的な裁判であるから、いつでも執行することができるとすることは、保全命令の性質にも反するばかりではなく、日時の経過による事情変更のため、保全執行の必要性が無くなってしまったり、保全命令の担保の額を定めるに際しての前提事情が変更したりしてしまうことがあり得る。こうした場合に、そのまま保全執行を許すことは、債務者に不測の損害を与え、不当な執行が行なわれる危険性がある。さらに、直ちに執行を行なわないような債権者は保護に値しないと考えられるからである。」*6
「民事保全法43条2項は2週間の執行期間を定めているが、その規定の趣旨は、急を要するということで略式の手続で発令された保全命令が、それを正当ならしめていた事情が変更した後に執行されることを防止しようというところにある。すなわち、この規定は、債務者の保護を目的としているのである。」*7
「保全執行は、債権者に保全命令の送達された日から2週間の期間内にしなければならない(略)。執行機関が設けられているのは、保全命令の発令後あまりに日時が経過すると、発令時の事情が変動することもあり、そのような場合に保全執行を許すと、債務者に不測の損害を与えるおそれがある一方で、直ちに保全執行を実施しない債権者を保護する必要はないからである」*8
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