竟成法律事務所のブログ

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「いじめ」は当然に、不法行為に当たるのか?

今回のテーマ

いわゆる、「いじめ」は道義的に許されるものではありません。

この点については争いがないと考えられます。

 

では、「いじめ」は、必ず、損害賠償責任を発生させる行為(民法709条に言う不法行為)に当たるのでしょうか?

 

 

定義

「いじめ」に関する定義は幾つもあるのですが、特別法である『いじめ防止対策推進法』では次のように定義されています(同法2条1項)

この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。

 

法的には、同法の定義をもって、「いじめ」と考えて大過ありません。

 

では、損害賠償責任を発生させる行為(不法行為)とは、何でしょうか?

実は、この点については、法理論上、様々な議論が存在しており、明確な定義を申し上げることはできません。

ただ、民法709条に該当する行為が不法行為である、というレベルでは争いがありません。

不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

 

結論

以上の定義を前提とした場合、実は、「いじめ」は必ず「不法行為」に当たるとは言えません

不法行為」に当たり損害賠償責任が発生する場合もありますし、「不法行為」に当たらず損害賠償責任が発生しないこともあります。

 

特に問題となっている行為が、小学生によって為されたものである場合、この問題は深刻な争点となります。

 

 

説明

「論より証拠」ではないのですが、この点について、例えば、以下の下級審裁判例は次のように指摘しています(太字は引用者によります)。

 

金沢地判平成30年2月26日LEX/DB25549890(加島滋人裁判長)

「この点,原告は,小学校の児童の他の児童に対する行為が,いじめ対策法2条1項に規定する「いじめ」に該当すれば,直ちに当該他の児童に対する不法行為を構成するかのように主張する。
 しかしながら,いじめ対策法は,いじめが,これを受けた児童等の心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えるのみならず,その生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがあるものであるとの認識の下(同法1条参照),同法における「いじめ」を,当該児童等に対して,当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為であって,当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものと定義した上で(同法2条1項),こうしたいじめの防止等のために,現に教育活動を行う学校や教育行政の衝に当たる地方公共団体等において果たすべき役割を明らかにするとともにその防止のための基本的な事項を明らかにしているものである。すなわち,同法は,いじめがその対象児童に与える影響に鑑み,いじめには多様な態様のものがあり得ることを踏まえ,これをその対象児童の主観に着目して広く把握した上で,学校や地方公共団体等の責務や役割を明らかにするものであって,同法における「いじめ」の定義は,このような教育上・行政上の配慮の必要性を踏まえ,行為者の主観や行為の客観的態様等を考慮せずに定められているものであるから,同法に定める「いじめ」に該当することは,当該いじめを行った児童とその対象児童との間の民事上の関係において,直ちに不法行為法上違法の評価を受けることまでをも意味するものではないと解すべきである。いじめ対策法4条が児童等のいじめの禁止を定めているのも,いじめの防止等のための上記教育上・行政上の配慮の前提として,児童等が同法に定めるいじめを行ってはならないことを一般的に宣明するものであって,児童等に他の児童等に対する新たな具体的な民事上の義務を課し同法に定めるいじめを行った児童とその対象児童との間の民事上の関係までをも直ちに規定するものではないというべきである。」

 

静岡地判令和5年10月12日LEX/DB25596195(菊池絵里裁判長)

「そこで、検討すると、一般的に、小学校に在籍している児童は、お互いに発達段階にあり、児童同士の社会的接触を通じて精神的な成長をしていくという側面があることを否定することはできない。そこで、児童間の行為が不法行為として違法と評価されるためには、上記通常の社会的接触として相当な範囲を逸脱すると認められるものに限られると解するべきである。」

 

大阪地判令和5年2月22日LEX/DB25594973(小川嘉基裁判長)

「加えて、原告及び被告Pが共に、未だ精神的に未成熟な、小学校に在学中の児童であったことも踏まえると、被告Pの上記各行為が、社会的相当性を逸脱するとまでは認め難い。」

 

 

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