竟成法律事務所のブログ

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【租税法】源泉徴収の基本事項に関するメモ

今回は,皆様のご質問にご回答するというよりは,弊所の備忘録的な記事となります。

  

■定義

 「租税の徴収方法のうち,納税義務者以外の第三者に租税を徴収させ,これを国または地方公共団体に納付させる方法を,徴税納付という。」。*1

 

徴税納付の典型例は,①所得税源泉徴収と,②住民税などの地方税特別徴収です。

 

徴税納付
 ┣━ 所得税源泉徴収

 ┗━ 住民税などの地方税の特別徴収

  

源泉徴収義務は,一定の金額の支払を受ける者の納税義務の存在を前提として,その支払をなす者等について生じ,当該金額の支払の際に支払金額から税額分を控除しこれを納付する義務である。」

 

「特別徴収義務は,一定の金額の支払をなす者の納税義務の存在を前提として,その支払を受ける者その他租税の徴収について便宜を有する者について生じる,当該税額を徴収しこれを納付する義務である」。*2

 

 

 

源泉徴収の法律関係

 国(課税庁)

 ┃

源泉徴収義務者(支払者)

 ┃

納税義務者(受給者)

 

源泉徴収に関する法律関係は2つ存在します*3

 

第1は,国と源泉徴収義務者との間の法律関係です。

源泉徴収義務者の典型例は,給料を支払う株式会社です。

この法律関係は,公法上の債権債務関係と考えられており,その成立と同時に納付すべき税額が確定します(国税通則法15条3項2号)。

 

第2は,源泉徴収義務者と納税義務者との間の法律関係です。

納税義務者の典型例は,株式会社から給料を受け取る従業員です。

この法律関係は,原則として,私法上の債権債務関係と考えられています。

「ただし,受給者における源泉徴収受認義務の存在を前提とする点など,純粋な私法上の法律関係とは言い難いところがある。」*4とされています。 

 

 

 

■過小徴収納付の場合の法律関係(判例ベース)

「国は受給者に対してその納税義務の履行を請求することはできず,国を代表する税務官庁が,支払者から,その徴収納付すべき所得税を徴収する(所税221条)ために,支払者に対して,納税の告知(徴収処分)をしなければならない(税通36条1項2号)。」

 

「支払者がその所得税を,納税告知書に記載された納期限(税通36条2項)までに,完納しない場合は,税務官庁はその納期限から50日以内に督促状を発しその納付を督促する(同37条1項・2項)。その督促に係る所得税が,その督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納されない場合は,国税徴収法等による滞納処分を行う(税通40条)。」

 

「他方,支払者は,その追加納付税額に相当する金額を,受給者に対して求償する権利を取得する。その求償権の行使については,賃金全額支払の原則(労基24条1項本文)との関係で,強制力が付与されている」*5

 

 

 

■過大徴収納付の場合の法律関係(判例ベース)

「過大徴収納付の場合,受給者は,直接国に対して,過大分の税額に相当する金額の還付を請求することも,また,自己の他の種類の取得に係る申告納付すべき税額から,当該過大分の税額相当額を控除して,確定申告をすることもできず,支払者に対して,本来の給与支払債務の一部不履行を理由として,誤って過大に徴収された源泉所得税額に相当する金額の支払を,請求することができるにとどまる。」

 

「他方,支払者は,当該過大納付税額相当額を誤納金として還付することを,国に対して請求することができる(税通56条)。」*6

 

 

 

■最判平成4年2月18日民集46巻2号77頁

本判決では,直接的には,「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」(所得税法120条1項5号)の意義が問題になっています。

 

具体的には,この「額」とは,法令に基づいて正当に源泉徴収された金額(客観的に正しい金額)なのか,それとも,実際に源泉徴収された額なのか,ということが問題になりました。

 

結論として,最高裁は,法令に基づいて正当に源泉徴収された金額である,としました。

所得税法120条1項5号にいう『源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額』とは、所得税法源泉徴収の規定(第四編)に基づき正当に徴収をされた又はされるべき所得税の額を意味するものであり、給与その他の所得についてその支払者がした所得税源泉徴収に誤りがある場合に、その受給者が、右確定申告の手続において、支払者が誤って徴収した金額を算出所得税額から控除し又は右誤徴収額の全部若しくは一部の還付を受けることはできないものと解するのが相当である。」

 

「けだし、所得税法上、源泉徴収による所得税(以下「源泉所得税」という。)について徴収・納付の義務を負う者は源泉徴収の対象となるべき所得の支払者とされ、原判示のとおり、その納税義務は、当該所得の受給者に係る申告所得税の納税義務とは別個のものとして成立、確定し、これと並存するものであり、そして、源泉所得税の徴収・納付に不足がある場合には、不足分について、税務署長は源泉徴収義務者たる支払者から徴収し(221条)、支払者は源泉納税義務者たる受給者に対して求償すべきものとされており(222条)、また、源泉所得税の徴収・納付に誤りがある場合には、支払者は国に対し当該誤納金の還付を請求することができ(国税通則法56条)、他方、受給者は、何ら特別の手続を経ることを要せず直ちに支払者に対し、本来の債務の一部不履行を理由として、誤って徴収された金額の支払を直接に請求することができるのである」

 

「このように、源泉所得税と申告所得税との各租税債務の間には同一性がなく、源泉所得税の納税に関しては、国と法律関係を有するのは支払者のみで、受給者との間には直接の法律関係を生じないものとされていることからすれば、前記源泉徴収税額の控除の規定は、申告により納付すべき税額の計算に当たり、算出所得税額から右源泉徴収の規定に基づき徴収すべきものとされている所得税の額を控除することとし、これにより源泉徴収制度との調整を図る趣旨のものと解されるのであり、右税額の計算に当たり、源泉所得税の徴収・納付における過不足の清算を行うことは、所得税法の予定するところではない。のみならず、給与等の支払を受けるに当たり誤って源泉徴収をされた(給与等を不当に一部天引控除された)受給者は、その不足分を即時かつ直接に支払者に請求して追加支払を受ければ足りるのであるから、右のように解しても、その者の権利救済上支障は生じないものといわなければならない。」

 

 

  

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*1:金子宏『租税法』(弘文堂,第21版,2016年)884頁。太字は引用者によります。

*2:以上につき,清永敬次『税法』(ミネルヴァ書房,新装版,2013年)61頁。

*3:前掲・金子889頁以下参照。

*4:谷口勢津夫『税法基本講義』(弘文堂,第5版,2016年)168頁。

*5:以上につき,前掲・谷口168頁以下。

*6:以上につき,前掲・谷口169頁。