■今回のテーマ
先日,以下のニュースが報道されました。
元光GENJIの大沢樹生・喜多嶋舞元夫妻の長男「父親と親子関係なし」 大沢さんの主張認める判決 - 産経ニュース
http://www.sankei.com/entertainments/news/151119/ent1511190005-n1.html
と言うわけで,今回のテーマは「嫡出子」です。
■嫡出子とは何か?
実は,民法には,「嫡出子」について定めた条文はありません。
ただ,現在の判例・学説を踏まえれば,ひとまず,嫡出子とは「婚姻関係にある夫婦の子」と考えて大過ありません。*1
そして,嫡出でない子(非嫡出子)とは,「婚姻関係にない父母の間に生まれた子(婚外子)」*2を意味します。
■嫡出か否かで何か変わるの?
ある子供が嫡出子か否か――正確に言えば,婚姻関係にある夫婦間で産まれた子と,婚姻関係にない男女間で産まれた子の最大の差は,「嫡出推定」という法律の推定を受けるか否かという点にあります。*3
嫡出推定とは,民法772条が定める推定のことを言います。
具体的に説明しますと,ある子供が婚姻関係にある夫婦間で産まれた子である場合,「通常」,その子供は,夫の子と推定される(法律上の父子関係が推定される)のです。
つまり,結婚して200日を経過して出産をすると,民法772条2項によって,その子供は「婚姻中に懐胎した」と推定されます。そして,「婚姻中に懐胎した子」については,民法772条1項によって,「夫の子」と推定されます。*4
(嫡出の推定)第772条
1 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
そして,この推定は,「嫡出否認の訴え」(民法774条,775条)という特殊な訴え以外では覆すことができません(親子関係不存在確認請求は許されません。)。
しかも,嫡出否認の訴えは,夫が子の出生を知った時から1年を過ぎると,提訴することができません(民法777条)。
(嫡出の否認)第774条
第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
(嫡出否認の訴え)第775条
前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。
(嫡出否認の訴えの出訴期間)第777条
嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない。
つまり,ある子供が嫡出子とされた場合,夫は,1年以内に嫡出否認の訴えを提起しない限り,法律上の父親とされます。そして,法律上の父子関係が存在するということは,その子は原則として,父親の財産を相続することができるということです。
言い換えれば,子の出生を知った時から1年間が過ぎてしまった場合,たとえDNA鑑定等で父子関係がないことが明らかであったとしても,夫は,父子関係を否定することはできません。
この点については,判例があります。
最高裁は,科学的(生物学的)に父子関係が存在しないことが科学的証拠により明らかな事件において,次のように述べました。
「夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。このように解すると,法律上の父子関係が生物学上の父子関係と一致しない場合が生ずることになるが,同条及び774条から778条までの規定はこのような不一致が生ずることをも容認しているものと解される。」*5
■今回の事件の特殊性
ところで,今回の事件では,大沢さんと喜多嶋さんの間の18歳の長男さんについて,親子関係がないという判断が出されています。
長男さんは大沢さんと喜多嶋さんが婚姻関係にある時に産まれた子です。そして,大沢さんが長男さんの出生を知った時からとっくに1年間が経過しています。
嫡出否認の訴えを提起することはできないはずです。当然,親子関係不存在確認請求も提起できないはずです。
それにもかかわらず,大沢さんは,どのようにして親子関係不存在確認を裁判所に求めたのでしょうか?
実は,大沢さんと喜多嶋さんの長男さんは,婚姻成立からちょうど200日目に出生した子のようなのです。
そのため,民法772条2項が適用されません(2項は201日目以降に出生した子を対象としています。)。
(嫡出の推定)第772条
1 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
その結果,「婚姻中に懐胎した子」であることを別途,何らかの方法で立証できなければ,772条1項の推定(つまり,嫡出推定)を受けません。そして,「婚姻中に懐胎した子」であることを立証するための,端的な方法はDNA鑑定です。
このような経緯に基づいて,大沢さんと喜多嶋さんの長男さんについて,DNA鑑定が為され,鑑定結果が家庭裁判所に提出されたのではないかと推測されます。
■追記(2016/11/28)
【衝撃事件の核心】「性交渉の有無」争点のドロドロ訴訟 「おれの子じゃない!」原告の嫡出否認に元妻が持ち出した意外な証拠(1/4ページ) - 産経WEST
http://www.sankei.com/west/news/161128/wst1611280003-n1.html「ある日、自分の戸籍を見て驚愕した。知らない名前が自分の『長女』として記載されていたのだ。西日本在住の30代男性が、妻と別れたのは数カ月前。民法772条の嫡出推定により、離婚後に元妻が出産した女児が自らの子供とされていた。男性は『おれの子じゃない』と家裁に『嫡出否認』を申し立てた。」
■公式サイト
申し訳ないのですが,無料法律相談は実施しておりません。
竟成法律事務所
TEL 06-6926-4470
http://milight-partners.wix.com/milight-law#!contact/c17jp
*1:但し,これは「伝統的」な定義ですので,LGBT関係の諸制度を踏まえて,今後は変わる余地があります。尚,伝統的定義については,例えば,最決平成25年12月10日民集67巻9号1847頁の岡部喜代子裁判官は,「嫡出子とは,本来夫婦間の婚姻において性交渉が存在し,妻が夫によって懐胎した結果生まれた子である」と述べられます。
*2:道垣内弘人=大村敦志『民法解釈ゼミナール5 親族・相続』(有斐閣,1999年)75頁。
*3:かつては,嫡出子か否かで相続分が違っていましたが,平成25年にこの部分は改正されました。現在は,嫡出子でも非嫡出子でも相続分は同じです。 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00143.html
*4:裏を返せば,いわゆる「できちゃった婚」で産まれた子の場合,婚姻関係にある夫婦の子ではありますが,200日以内に産まれたときは,嫡出推定は受けません。