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刑事事件に関する基礎知識 ――特に性犯罪が不起訴になった場合の議論のために

■今回のテーマ

ある事件が不起訴となったときに,色々と議論や批判が為されることがあります。

そうした議論や批判をする際の前提となる基礎知識について,簡単にご説明いたします。

 

【関連する拙稿】

「処分保留」・「不起訴」って何ですか? 将来,起訴されることはあるんですか?
http://milight-partners-law.hatenablog.com/entry/2015/08/12/104909

 

 

 

 

■過失犯は原則として処罰されません

刑法は,故意犯処罰を原則としています。過失犯処罰は例外です。

「故意に基づいて行われる犯罪を故意犯,過失に基づいて行われる犯罪を過失犯という。刑法38条1項は,故意犯を原則とし,過失犯は『法律に特別の規定のある場合』に限って例外的に処罰することとしている。」*1

 

刑法では次のように定められています。

刑法
(故意)第38条

1 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。 

 

 

例えば,強姦罪刑法177条)には 過失犯を処罰する旨の規定がありません。

そのため,行為者に故意がなければ,強姦罪は成立しません。

刑法
(強姦)第177条
暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。

 

 

 

■故意,過失とは何か

故意とは何か,過失とは何か,という点については,刑法の体系的理解とも関係して,非常に複雑な議論があります。

ただ,そのような複雑な議論を度外視して説明すれば次のような説明になると考えられます。

「刑法38条1項によれば,故意とは,『罪を犯す意思』をいう。これは犯罪事実の認識・予見といい換えることができよう。」*2

 

「過失とは,不注意により,犯罪時事の認識又は予見を欠いて,一定の作為・不作為をすることである。」*3

 

そして,この故意と過失は,行為者(≒犯罪者)の非難可能性を基礎付けるために必要とされています。

「およそすべての犯罪は故意又は過失のいずれかを構成要件要素としており,過失の存在すら必要としないような犯罪は絶対にあり得ないと言ってよい。犯罪は本質的に非難可能な行為でなければならないことはさきに述べたとおりであり,そのためには,行為者の主観においても,故意又は過失といういずれか非難可能な要素がなければならないのである」*4

 

 

 

■ 犯罪ごとに成立のための条件(構成要件等)は異なります

例えば,強姦罪刑法177条)は性的自由を保護するための犯罪類型です。

このような類型の場合は,被害者の承諾の有無が犯罪の成否に影響を与えます。そのため,強姦罪の場合,以下のような指摘が妥当します。

「本罪の性質上,13歳未満の女子に対する場合を除き,被害者の真意に基づく承諾があれば,本罪は成立しない。被害者の承諾は構成要件該当性を阻却する事由と解されるから,承諾があると誤信した場合には故意を欠くことになる」*5

 

「被害者が自由な意思決定による真意の承諾をしたものと誤信したときは,故意を欠くことになる。しかし,犯行を著しく困難にする程度の暴行・脅迫を自ら行った場合に,被害者の真意の承諾があると誤信したと認められるには,特別の客観的事情が必要である」*6。 

 

 

 

 

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*1:裁判所職員総合研修所『刑法総論講義案』(司法協会,三訂版,平成16年)55頁。

*2:山口厚『刑法』(有斐閣,平成17年)101頁。

*3:前掲・裁判所職員総合研修所54頁。

*4:前掲・裁判所職員総合研修所54頁。

*5:前田雅英ほか編『条解 刑法』(弘文堂,第3版,2013年)504頁。

*6:前掲・前田505頁。