■今回のテーマ
あなたが刑事事件で逮捕・勾留*1された場合,検察官は,勾留満期までに,あなたを起訴するか(公訴提起),不起訴にして釈放するか(不起訴処分),処分保留として釈放しなければなりません(刑事訴訟法208条1項)。
刑事訴訟法第208条
1 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から10日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて10日を超えることができない。
そして,被疑事実について不起訴 or 処分保留になった場合,よく受けるのが,「処分保留って何ですか?」,「処分保留の場合,今後,起訴されることはあるんですか?」,「不起訴処分なら,今後,起訴されることはないんですか?」という質問です。
というわけで,今回のテーマは「処分保留や不起訴処分の意義と将来の公訴提起の可能性」です。
■意義
処分保留*2とは,(1)検察官が勾留期間内に被疑者について公訴を提起するかあるいは不起訴にするかの決定ができない場合,または(2)被疑者が逃亡したり罪証隠滅をしたりする危険性がなくなった場合に*3,勾留期間経過前に,検察官が被疑者を釈放することをいいます。
不起訴処分とは,「検察官の行う終局処分のうち,公訴を提起しない処分」のことをいいます。*4
■処分保留でも不起訴処分でも将来起訴される可能性はあります
処分保留の場合でも,不起訴処分の場合でも,将来起訴される可能性は残っています。
そもそも,処分保留は,起訴するか不起訴にするかを決定する前に勾留期間が満期を迎えてしまったので被疑者を釈放したという状態に過ぎません。
ですから,起訴はあり得ます。
他方,不起訴処分の場合,検察官が起訴しないという判断を一旦はしています。そのため,不起訴処分が為されれば起訴はされないかのように思えます。
しかし,不起訴処分には,将来の起訴を禁じるような効力は与えられていませんので,不起訴処分の場合も起訴はあります。
この点について,起訴される可能性が無いかのような説明をしている記事がありますが,これは制度の説明としては誤りです。
最高裁は,不起訴処分にした犯罪を後日起訴した事件について,次のように述べます。
「その余の論旨は憲法39条のいわゆる二重処罰禁止違反をいうにあると解されるが、検察官が一旦不起訴にした犯罪を後日になつて起訴しても同条に違反するものでないことは、当裁判所の判例の趣旨に照して明らかである。」*5
また,例えば,『検察講義案』や刑事訴訟法の基本書は次のように説明しています。
「不起訴処分は,判決のように既判力を生ぜず,これによって公訴権を消滅させるものではない。したがって,不起訴処分後,新たな証拠を発見し,又は訴訟条件をを具備させるに至り,あるいは起訴猶予を相当としない事情が生じた場合などは,時効が完成しない限り,いつでも再起して公訴を提起することができる。」*6
「不起訴処分には確定力がないから,検察官は必要に応じていつでも捜査を再開し,公訴を提起することができる。」*7
このように,不起訴処分は,その後の起訴の可能性をゼロにするものではありません。
但し,特別な事情がないにもかかわらず,一旦不起訴処分にした事件を自由に起訴できるということになれば,法的安定性が害されてしまいます。
そのため,実務でも,学説でも次のように解されています。
「起訴猶予処分は実体裁判のような確定力は生じないので,検察官,裁判官を羈束しない(略)が,特別の事情もないのに,起訴猶予処分を取り消して起訴するのは相当でない。」*8
「何らの特別な理由もないのに不起訴処分を恣意的に取り消して起訴するようなことがあれば,悪意の訴追として公訴権の濫用を問題としうるであろう。」*9
■【参考1】不起訴処分の種類
詳細は,事件事務規定75条2項参照。
実際に多い不起訴処分は,訴訟条件も満たされているし,嫌疑もあるが,諸々の事情を考慮して今回は起訴をしないことにする「起訴猶予」というものです。
●訴訟条件を欠く場合
●訴訟条件を具備する場合・その1(被疑事件が罪とならない場合)
- 刑事未成年
- 心神喪失
- 罪とならず
●訴訟条件を具備する場合・その2(犯罪の嫌疑がない or 不十分な場合)
- 嫌疑なし
- 嫌疑不十分
●訴訟条件を具備する場合・その3(犯罪の嫌疑があるとき)
- 刑の免除
- 起訴猶予
■【参考2】不起訴処分告知書
検察官が事件について不起訴処分とした場合は,被疑者 or 弁護人は,検察官に対して「不起訴処分告知書」の交付を請求することができます(刑事訴訟法259条)。
請求の方式や時期に制限はありません。実務上,口頭で請求しても交付してくれます。*10
1枚物の書類ですが,不起訴処分が為されたことを証明してくれる公的書類ですから,忘れずに請求しておきましょう。
■【参考3】起訴されたことの意味
当たり前のことですが,起訴されたからといって,その被告人が当然に真犯人であるということにはなりません。この点について,ある裁判例は次のように述べます。
「起訴は検察官の意見の表明であって,我が国の刑事裁判においては無罪推定の原則が採られていることからすれば,その有罪率がいかに高いものであったとしても,未だ起訴されたにとどまる段階で,直ちにその者が犯人であると判断できるものでないことはいうまでもない。」*11
■公式サイト
不起訴処分や処分保留など,刑事事件に関するお問合せはお電話 or 公式サイトの送信フォームからどうぞ!
※ 大変申し訳ありませんが,無料法律相談は実施しておりません。
竟成法律事務所
TEL 06-6926-4470
http://milight-partners.wix.com/milight-law#!contact/c17jp
*1:「勾留とは,被疑者又は被告人を拘禁する裁判及びその執行」をいいます(三浦正晴=北岡克哉『令状請求の実際101問』〔立花書房,改訂版,平成14年〕82頁)。要するに,拘置所や警察署の留置場に収容・拘束される処分のことです。
*2:正確には「処分保留による釈放」ですが。
*3:「検察官が勾留の理由または必要がないと考えるときは,勾留の取消の裁判をまつまでもなく自ら釈放でき,また,釈放しなければならないと解すべきであるのは本条1項の文言によれば当然である。実務上もこのように行われている。」松本時夫ほか編著『条解 刑事訴訟法』(弘文堂,第4版,平成21年)399頁以下。
*4:司法研修所検察教官室『検察講義案』(平成18年版)87頁。
*7:池田修=前田雅英『刑事訴訟法講義』(東京大学出版会,第2版,2006年)168頁。
*8:前掲・松本494頁。
*9:田口守一『刑事訴訟法』(弘文堂,第3版,平成13年)138頁。
*10:前掲・松本527頁。
*11:横浜地判平成22年8月27日公刊物未登載。