竟成法律事務所のブログ

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「疑わしい取引」を理由とする預金口座の凍結等について

■今回のテーマ

楽天銀行さんの対応とそれに関連する山本さん(隊長)の記事が話題になっています。

楽天銀行の対応が雑過ぎる | YONEZO-NET
http://yonezo.biz/?p=4405

 

ネット銀行経由での詐欺が多発している件で: やまもといちろうBLOG(ブログ)

http://lineblog.me/yamamotoichiro/archives/2999756.html

米蔵さんの記事を拝見すると,恐らく,楽天銀行さんは,米蔵さんが利用されている口座又はその関連取引先が「疑わしい取引」に関わっている「可能性」があるとして,口座を凍結されていたのではないかと考えられます。

 

というわけで,今回は,この「疑わしい取引」について簡単にご説明したいと思います。

 

ちなみに,弊所の代表弁護士山田は,この「疑わしい取引」を含む法令等遵守態勢を検査する金融証券検査官として2年間,財務省近畿財務局に奉職しておりました。

 

 

  

■そもそも「疑わしい取引」って何?

実は,法令上,「疑わしい取引」について明示的な定義規定が置かれている訳ではありません。

 

ただ,一般的には,犯罪による収益の移転防止に関する法律(いわゆる「犯収法」)8条1項が対象とする「疑い」が認められる取引のことを「疑わしい取引」と呼んでいます。

(疑わしい取引の届出等)
第8条
1 特定事業者(第2条第2項第43号から第46号までに掲げる特定事業者を除く。)は、取引時確認の結果その他の事情を勘案して、特定業務において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあり、又は顧客等が特定業務に関し組織的犯罪処罰法第10条の罪若しくは麻薬特例法第6条の罪に当たる行為を行っている疑いがあると認められる場合においては、速やかに、政令で定めるところにより、政令で定める事項を行政庁に届け出なければならない。

2 特定事業者(その役員及び使用人を含む。)は、前項の規定による届出(以下「疑わしい取引の届出」という。)を行おうとすること又は行ったことを当該疑わしい取引の届出に係る顧客等又はその者の関係者に漏らしてはならない。
※3項以下省略

 

それを踏まえて敢えて定義づけをすれば,以下のような内容になると考えられます。

「疑わしい取引」とは,

  1. 当該取引において特定事業者が特定業務として収受する財産について犯罪による収益である疑いがあると認められる取引 または
  2. 顧客等が特定業務に関して組織的犯罪処罰法10条の罪もしくは麻薬特例法6条の罪に当たる行為を行っている疑いがあると認められる取引

をいう。

 

……小難しいですね(笑)。

具体例を挙げておきますと,「当該取引において特定事業者が特定業務として収受する財産について犯罪による収益である疑いがあると認められる取引」の典型例は,詐欺グループが,いわゆるオレオレ詐欺で得た財産を銀行口座に振り込むような取引です。

 

また,金融庁自身も疑わしい取引の参考事例を公表しています。

疑わしい取引の参考事例:金融庁
http://www.fsa.go.jp/str/jirei/

 

 

 

金融庁の監督指針

金融庁は,全国の金融機関に対して,この「疑わしい取引」について,届出に関する内部管理態勢を構築し,適切に運営することを強く求めています。*1

 

また,実際に金融証券検査官が金融機関の立入検査を行った際にも,検査官によって「疑わしい取引」に関する抽出基準(システムの内容),抽出結果,抽出結果に対する対応、届出の有無なとが検査されます。*2

 

金融庁がこのような姿勢を採用しているため,金融機関は,「疑わしい取引」を抽出するためのシステム基準をそれぞれ設定し,対応しています。どのような基準を設定しているかは金融機関ごとによって異なり,厳格な基準を設定しているところもあれば,緩めのところもあります。

 

  

■身に覚えがないのに「疑わしい取引」認定されて口座が凍結されたんだけど,これって違法じゃないの!?

 上述したように,金融機関は,「疑い」がある場合には疑わしい取引の届出を金融庁をはじめとする行政庁に対して行うことが義務付けられています(犯収法8条1項)。

そして,「疑わしい取引」については,犯罪収益に対する厳格対応という世界的な傾向もあり,取りこぼしのないように,幅広く抽出・対応することが求められています。

 

そのため,実際には,高度の「疑い」がなくても,「疑わしい取引」と認定されています。*3

そして,金融庁は,金融機関に対して,「疑わしい取引」を認定した場合には,その取引に使われた口座の停止を事実上求めています。*4

例えば,今回話題になった楽天銀行さんの場合,「楽天銀行口座取引規定」12条3項9号に法令違反や公序良俗に反する(おそれのある)場合の取引停止・解約の規定が置かれています。

 

 

特に,口座の解約や完全凍結ならともかく,口座の一時停止(一時凍結)は,「犯罪による収益の移転防止を図り,併せてテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約等の的確な実施を確保」(犯収法1条)するという大きな公益からすれば許容されやすい,という考え方が金融行政・金融実務では一般的ではないかと考えられます。

 

このような状況からすれば,全く身に覚えがないのに,お使いになっている口座が一時停止されたとしても,それだけでは直ちに違法とは言えないと考えられます。

 

 

ネットビジネスを展開されている場合に実際にあり得る事例としては,自分の事業用の口座(完全にクリーンな口座)に,代金の振込みとして,第三者が犯罪に使っている口座(ブラックな口座)からの入金がある場合があります。

 

これは, 山本さんがまさにブログでご指摘されている事例なのですが,このような入金がありますと,「この口座に振り込まれたお金は犯罪収益であり,これは『疑わしい取引』ではないか?」と認定されてしまう可能性が高いと考えられます。少なくとも,一時凍結の可能性はあります。

 

不幸にしてこのような一時凍結になってしまった場合には,金融機関に対して,凍結解除のための手続をするしかありません。

ただ,実務上,金融機関が,凍結の理由について顧客に対して説明することはほとんどありません。

ですから,迅速な凍結解除のためには,このような金融機関の対応や内情に詳しい弁護士等の専門家の助力を得られた方が効率的だと考えられます。

 

 

【2016/01/04 追記】

山本さんの記事で紹介していただいたお陰か,楽天銀行さんが凍結された口座の解除に関するご依頼を頂くことがございます。

やまもといちろう 公式ブログ - フジテレビ系ネット放送ホウドウキョク『真夜中のニャーゴ』の放送時間が一時間繰り上がりました - Powered by LINE
http://lineblog.me/yamamotoichiro/archives/2999758.html

 

上述のとおり,楽天銀行さんが口座を凍結される理由は様々ですので,結果的に口座の解除に至る案件もあれば,解除していただけない口座もございます。

弊所にご依頼いただく際は,この点をお含み置きいただければ幸いです。

 

 

 

■関連する拙稿

銀行とトラブルになったとき,金融庁に連絡すれば解決してくれますか?
http://milight-partners-law.hatenablog.com/entry/2015/07/31/193230

 

 

 

■参考文献

沖野眞已「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律を巡る私法上の問題」金融法務研究会第2分科会『近時の預金等に係る取引を巡る諸問題』69頁以下
http://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news270130.pdf  

 

 

 

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*1:主要行については監督指針III -3-1-3-1,中小・地域金融機関については監督指針II -3-1-3-1

*2:例えば,金融検査マニュアル(平成27年4月)60ページ以下参照。

*3:ちなみに,ある書籍は次のように述べます。「ここにいう『疑いがある」とは,金融機関の職員が,金融業務における一般的な知識と経験に基づき,取引の形態,種類,金額,顧客の属性(職業,事業内容)や資産収入,取引時の事情や状況から客観的,総合的に判断して行うものであるが,判断の際には特定の犯罪の存在まで認識している必要はなく,犯罪収益等であると疑わせる程度の犯罪の存在を認識していれば足りるものである。」廣渡鉄『金融機関のためのマネー・ローンダリング対策Q&A』(きんざい,改訂版,平成25年)200ページ。

*4:金融検査マニュアルは,「疑わしい取引と判断した場合の取決め(例えば、疑わしい取引の届出や、必要に応じ、口座の取引停止や既存契約の解除を行う旨の取決め等) 」の策定を事実上求めています。