法律事務所ミライト・パートナーズのブログ

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「朝型勤務」や「仕事の持ち帰り」に残業代は発生しますか?

■今回のテーマ

政府による「ゆう活」の導入もあり,最近,朝型勤務(早朝勤務)を推奨したり,夜の残業を禁止したりしている会社も少なくないようです。

 

夏の生活スタイル変革(ゆう活)について|厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/summer/

 

早朝勤務なぜ広がる 残業減のほか思わぬ経済効果も:日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO84745930T20C15A3TJP001/

 

ところで,朝型勤務の場合,会社員の方は元々の始業時刻より早い時間から勤務を始めることになりますが,会社は「残業代」(時間外手当)を支払う必要はあるのでしょうか?

また,朝型勤務を導入している会社は,しばしば,一定時刻以降の残業を禁止していますが,会社員の方が仕事を自宅に持ち帰って,自宅で「残業」をした場合,会社は「残業代」を支払う必要はあるのでしょうか?

 

今回は,「朝型勤務と残業代」「持ち帰り残業と残業代」という2つのテーマを取り上げます。

 

※ 尚,上掲記事で紹介されている伊藤忠さんは,「午前5時から9時まで(8時以降は始業時刻の条件付き)は深夜勤務と同様の割増賃金で、早朝勤務を促している。」そうです。

  

 

 

■朝型勤務と残業代

とりあえず,ここでは,「朝型勤務=始業時刻前から仕事(労務提供)を始めること」と定義しておきます。

 

残業代との関係で,法律上,まず,ここで考えなくてはいけないポイントは,

「始業時刻前に働いた時間が『労働基準法上の労働時間』に当たるか」*1

ということです。

 

分かりやすく言えば,

始業時刻前に働いた時間が「会社から始業時刻前に仕事をすることを命じられた or 始業時刻前の仕事を余儀なくされた時間」に当たるか

が最初のポイントになります。

 

なぜならば,会社は,会社員の方に対して,始業時刻前の労務提供を明示的には義務付けていないからです。

 

ですから,「会社が会社員の方に対して始業時刻前の労務提供を求めたのだ」と言える事情が存在しなければ,始業時刻前の仕事時間は会社員の方が自分の意思で作業をしていた時間に過ぎず,「労働基準法上の労働時間」には当たりません。

 

そして,「労働基準法上の労働時間」に当たらなければ,残業代が発生する余地はありません。

 

 

実際に,ある裁判例は次のように述べます*2

この事件では,結局,始業時刻前の作業時間は「労働基準法上の労働時間」には当たらないとされ,この部分の残業代請求は否定されました。

「そもそも,労働基準法上の労働時間に該当するか否かは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり,使用者の指揮命令下にあるか否かについては,労働者が使用者の明示又は黙示の指示によりその業務に従事しているといえるかどうかによって判断されるべきである。」

「そして,終業時刻後のいわゆる居残残業と異なり,始業時刻前の出社(早出出勤)については,通勤時の交通事情等から遅刻しないように早めに出社する場合や,生活パターン等から早く起床し,自宅ではやることがないために早く出社する場合などの労働者側の事情により,特に業務上の必要性がないにもかかわらず早出出勤することも一般的にまま見られるところであることから,早出出勤については,業務上の必要性があったのかについて具体的に検討されるべきである。 」

 

また,残業代ではなく,過労死(業務の過重性)が問題になった事件ですが,大阪のある事件では,亡くなった会社員の朝の早出勤務は「業務上の必要に迫られてなされていたものであったとは認められない」とされました*3。 

報われぬ「朝型勤務」に警鐘 過労自殺遺族、17日に講演(1/2ページ) - 産経WEST

http://www.sankei.com/west/news/150616/wst1506160049-n1.html

 

 

逆に,始業時刻前の作業時間について,「会社から始業時刻前に仕事をすることを命じられた or 始業時刻前の仕事を余儀なくされた」と言える場合は,その作業時間は「労働基準法上の労働時間」に含まれますから,残業代(時間外手当)が発生する余地があります。

 

実際に,ある裁判例*4では,会社が定めた始業時刻は午前9時だったのですが,当日の予定確認などのミーティングが午前8時45分から開始されており,上司もそのミーティングの存在を認識していたことなどを理由として,始業時刻前の作業時間は「労働基準法上の労働時間」に含まれると判断されました。

 

 

■持ち帰り残業と残業代

裁判実務上,持ち帰り残業は,「労働基準法上の労働時間」に該当しないのが原則です。

 

なぜならば,自宅や家庭には会社の指揮監督が及ばない上,会社が会社員の方に対して持ち帰り残業を命じたとしても,会社員はこれに応じる義務がない,と考えられいるからです*5

 

言い換えれば,会社が,会社員の方に対して,自宅での業務の遂行を指示した場合には,自宅での作業時間が「労働基準法上の労働時間」に例外的に該当します*6

 

ただ,理論的にはこのようになるのですが,実際には自宅での作業時間を,プライベートの活動時間をはっきりと区別した上で主張立証することは現実的にかなり困難だと考えられます。

例えば,自宅で「●時●分から●時●分まで仕事をしていた。プライベートなことはしていなかった」と主張立証することは通常は困難です。自宅からSkypeで会議をしていたなどの場合は別でしょうが……。

 

 

■まとめ

今回のテーマの結論を簡単にまとめますと,以下のとおりです。

 

朝型勤務 ⇒ 「会社から始業時刻前に仕事をすることを命じられた or 始業時刻前の仕事を余儀なくされた」と言えれば,残業代が発生する可能性あり。

 

持ち帰り残業 ⇒ 事実上,残業代の発生を認めることは難しい。

 

 

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*1:ここで言う「労働基準法上の労働時間」とは,労務提供債務の履行行為と認められる行為が為された時間を意味します。(1)労務提供義務を負っているか(使用者の指揮監督下のもとにあるか等),(2)債務の本旨に従った労務の提供と言えるか(業務性・職務性の有無等)という2つの観点から捉えるべき時間です(藤井聖悟「残業代請求事件の実務(中)」判タ1366号24頁〔2012年〕)。

*2:東京地判平成25年12月25日労判1088号11頁。太字は引用者によります。

*3:ちなみに,記事では明示されていませんが,記事で取り上げられている判決は,大阪高判平成26年7月17日判時2235号27頁だと考えられます。

*4:東京地判平成27年4月14日公刊物未搭載。

*5:前掲・藤井28頁。

*6:このことを示唆する裁判例として,東京地判平成26年1月10日などがあります。