■今回のテーマ
今回は,タイトルにあるような離婚に関する東京高裁の裁判例(東京高判平成28年5月25日判タ1432号97頁)を紹介したいと思います。
まずは,判決文そのものを御覧いただいた方が早いと思いますので,一部を抜粋します(太字は引用者によります。)。
■判決文
「前記認定事実によれば,控訴人と被控訴人とは,平成14年●月に婚姻し,その後同居生活を続けたものの,遅くとも平成18年●月頃からは言い争うことが増えたこと,その後,控訴人は,被控訴人の帰宅時間が近づくと息苦しくなるようになり,平成23年●月頃から神経科を受診しはじめたこと,そのような中,同年●月,長男が所在不明となる出来事を契機に,その際の被控訴人の対応に失望した控訴人が長男を連れて本件別居に至ったことを認めることができる。」
「以上のとおり,本件別居の期間は,現在まで約4年10か月間余りと長期にわたっており,本件別居について被控訴人に一方的な責任があることを認めるに足りる的確な証拠はないものの,上記の通りの別居期間の長さは,それ自体として,控訴人と被控訴人との婚姻関係の破綻を基礎づける事情といえる。」
「被控訴人は,原審における被控訴人本人尋問において,控訴人との関係修復の努力をするとの趣旨の供述をしたが,本件別居後,被控訴人が,婚姻関係の修復に向けた具体的な行動ないし努力をした形跡はうかがわれず,かえって,前記認定事実のとおり,別件婚姻費用分担審判により命じられた婚姻費用分担金の支払いを十分にしないなど,被控訴人が婚姻関係の修復に向けた意思を有していることに疑念を抱かせるような事情を認めることができる。」
「以上のとおり,別居期間が長期に及んでおり,その間,被控訴人により修復に向けた具体的な働き掛けがあったことがうかがわれない上,控訴人の離婚意思は強固であり,被控訴人の修復意思が強いものであるとはいい難いことからすると,控訴人と被控訴人との婚姻関係は,既に破綻しており回復の見込みはないと認めるべきであって,この認定判断を左右する事情を認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって,控訴人の離婚請求には理由がある。」
■解説
本件の判断について,判例タイムズの匿名解説は,次のように指摘します。
「本件の別居期間4年10か月間余りを長いとみるかどうかについては,異なる複数の見方があり得ると思われ,そもそも別居期間の長短について一義的な評価基準があるわけではない。」
「しかし,別居はそれまでの婚姻生活を大きく変更するいわば異常事態であり,このような異常事態が年単位で続いてるのであれば,婚姻関係の破綻を基礎づける事情(評価根拠事実)の一つとなり得るのではないかと思われるところである。」
但し,本件は,別居期間の長さだけをもって,当然に離婚を認めたものではありません。この点は注意が必要です。*1
本件で,被控訴人は,婚姻費用分担金の支払いを裁判所から命じられていたにもかかわらず,支払っていませんでしたし,控訴人の離婚の意思は強固でした。
東京高裁は,これらの諸事情を総合考慮して今回の判断を示しました。
事例判断として1つの参考になると思われます。
■公式サイト
※大変申し訳ないのですが,無料法律相談は行っておりません
竟成法律事務所
TEL 06-6926-4470
http://milight-partners.wixsite.com/milight-law/contact
*1:念のために付言しますと,客観的に婚姻関係を修復することが著しく困難である状況が存在すれば,「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法第770条1項5号)が認められます。そして,「客観的に婚姻関係を修復することが著しく困難である状況」を基礎付ける中核的な要素は「相当期間の別居」です。相当期間の別居 → 客観的に婚姻関係を修復するのが著しく困難 → 婚姻を継続し難い重大な事由という論理の流れです。ですから,別居期間そのものは,離婚の可否を判断する上で重要な要素です。注意すべきは,「4年10ヶ月」離婚すれば,それだけで当然に「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして,離婚が裁判で認められるわけではないということです。この点については,阿部潤「『離婚原因』について ――裁判実務に於ける離婚請求権を巡る攻防――」東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会編『平成17年度専門弁護士養成連続講座 家族法』(商事法務,2007年)12頁以下が参考になります。