竟成法律事務所のブログ

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【メモ】勾引とは何か,どのような手続か

■今回のテーマ

このような報道に接しました。

“号泣元県議”野々村被告、強制出廷へ…あす初公判、神戸地検係官が自宅へ 勾引状執行へ手続き着手  - 産経WEST
http://www.sankei.com/west/news/160125/wst1601250034-n1.html

 

News Up “号泣”元県議 出廷に向けた奥の手 NHKニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160125/k10010385101000.html

 

 

被告人に対して勾引が為されることは,珍しいです。

自分が刑事弁護を担当していた被告人の方が勾引された経験がある弁護士は少ないと思います。

 

というわけで,今回は,「勾引」に関する基本的な知識をご説明したいと思います。

 

 

 

■定義 ――勾引とは何か

「勾引とは,特定の者を一定の場所に引致する裁判及びその執行であり,一時的に身体を拘束することになる。」*1

 

行刑事訴訟法は,被告人に対する勾引(58条),証人に対する勾引(152条*2,身体検査を受ける者に対する勾引(135条)を定めています。*3

第58条 裁判所は、次の場合には、被告人を勾引することができる。
一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
二  被告人が、正当な理由がなく、召喚に応じないとき、又は応じないおそれがあるとき。

第152条 召喚に応じない証人に対しては、更にこれを召喚し、又はこれを勾引することができる。

第135条 第132条の規定による召喚に応じない者は、更にこれを召喚し、又はこれを勾引することができる。

 

今回の事件では,刑事訴訟法58条2号に基づく勾引が為されたものと考えられます。

したがいまして,神戸地裁は,「正当な理由」が存在しないと判断したことになります。

 

 

ちなみに,「勾引」とよく似た制度として,「勾留」というものがあります。

「勾留とは,被疑者または被告人の身柄を拘禁する裁判およびその裁判の執行を指す。」*4

勾留には,起訴前勾留(207条以下)と起訴後勾留(60条以下)の2種類があります。

 

勾引も勾留も,身体を拘束するという点では共通しています。

 

違いは,その目的です。

勾引の目的は,公判廷への被告人等の出頭を確保する点にあります。

他方,勾留の目的については,民事事件ではありますが,判例では,次のように説明されています。

「未決勾留は、刑事訴訟法の規定に基づき、逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として、被疑者又は被告人の居住を監獄内に限定するもの」*5

 

 

 

■勾引の効力

勾引の効力は,「裁判所に引致した時から24時間」しか認められていません(59条)。

第59条 勾引した被告人は、裁判所に引致した時から二十四時間以内にこれを釈放しなければならない。但し、その時間内に勾留状が発せられたときは、この限りでない。

 

尚,今回のように,被告人に対する勾引の場合,「被告人が公判廷に在留する期間もこの24時間に算入されるのか?」という論点があります。*6

多数説は「算入される」,つまり,被告人が公判廷に引致された後も勾引の効力が継続していると考えています。*7

 

 

 

■勾引された後,被告人はどこに行くのか?

被告人は,裁判所に引致された後,必要があるときは,刑事施設に留置されます(75条)。

裁判所にも,いわゆる仮監(実務上「たまり」とも呼ばれます。)はありますが,これは,公判廷に出廷する前の被告人等が一時的に滞在するための施設ですので,宿泊等には適していません。

したがいまして,勾引された被告人は,必要があれば,通常は,拘置所や警察署の留置場に行くことになると考えられます。*8

第75条 勾引状の執行を受けた被告人を引致した場合において必要があるときは、これを刑事施設に留置することができる。 

 

 

  

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*1:池田修=前田雅英刑事訴訟法講義』(東京大学出版会,第2版,2006年)227頁。

*2:証人に対する勾引については,裁判所も解説しています。

http://www.courts.go.jp/saiban/qa_keizi/qa_keizi_24/index.html

*3:その他に,220条4項が被疑者に対する勾引を予定しています。

*4:三井誠『刑事訴訟法⑴』(有斐閣,新版,1997年)17頁。 

*5:最判昭和58年6月22日民集37巻5号793頁。太字は当ブログによります。

*6:佐藤正信「勾引した被告人の裁判所内の留置,刑事施設への留置,釈放の手続」髙麗邦彦=芦沢政治『令状に関する理論と実務Ⅱ』(判例タイムズ社,平成25年)72頁参照。

*7:少数説は,公判開始時に勾引の効力は失効するが,288条1項を根拠として在廷義務が発生すると考えるようです。

*8:例えば,冒頭に紹介した事件では,被告人は神戸拘置所に収監されていたようです。

元県議の野々村被告、起訴内容を否認 強制出廷で初公判:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASJ1T7KRZJ1TPTIL032.html?iref=comtop_6_01