■今回のテーマ
今回は,以前,別のサイトでも書いたことがあるのですが,クラウドファンディングに関する法規制について簡単に説明したいと思います。
■クラウドファンディングの定義
法令で定義が定まっているわけではありませんが,通常,クラウドファンディングは次のように説明されています。
「新規・成長企業等と資金提供者をインターネット経由で結び付け,多数の資金提供者から少額ずつ資金を集める仕組み」*1
「資金需要者がインターネットを通じて多数の資金提供者(群衆=crowd)から少額ずつ資金を集める手法」*2
■クラウドファンディングのリスク
上記定義にも書かれているように,クラウドファンディングでは,インターネットを通じて多数の方々が資金提供することが予定されています。そして,これらの方々の中には必ずしも「自己防衛力」が高くない一般投資家も多数含まれるため,投資家保護を図る必要性は高いと言えます。
しかし,クラウドファンディングを必要とする企業の多くは,新規企業や成長企業です。
これらの新規企業・成長企業は倒産する可能性も十分にありますから,これらの企業が発行する有価証券は,一般論としては「ハイリスク」であり,一般投資家が損失を被ることもしばしばあります。*3
また,気軽に多数の者が参加するマーケットでは,詐欺的行為が行われるリスクもあります。*4
つまり,クラウドファンディングは,その構造上,本質的にこのようなリスクを抱えていると言えます。
他方で,クラウドファンディングの活用を促進し,新規・成長企業へのリスクマネー供給を増大させるという観点からすれば,参入要件を緩和する必要性があります。リスクが高いからと言って,参入要件を無闇に厳しくすることはできないのです。
そこで,平成26年の金融商品取引法の改正では,募集総額1億円未満・1人当たり投資額50万円以下という規模のクラウドファンディングに限って,参入要件を緩和することとしました。
つまり,この定義の規模であれば,損失が発生した場合の被害は小さいと考えられ,投資家保護が図られるというわけです。
■クラウドファンディングによる選別システム
クラウドファンディングでは,資金提供者と資金需要者がダイレクトに繋がることは少なく,多くの場合,仲介者が介在します。
資金提供者 ―― 仲介者 ―― 資金需要者
また,クラウドファンディングでは,募集期間内に資金提供表明の総額が目標金額に達した場合のみ資金が提供される仕組み(All or Nothing方式)が採られることも多いです。
このAll or Nothing方式が採られる趣旨は,質の悪い案件を「群衆の知恵」で排除するという点にあります。*5
言い換えれば,「群衆の知恵」の活用こそがクラウドファンディングの本質の1つです。
したがって,クラウドファンディングに関する法制度を設計する際には,「群衆の知恵」が発揮されるような法体制整備(情報開示等)が必要となります。
■クラウドファンディングを行う際に必要な登録等
クラウドファンディングは以下のように大別することができます。*6
┌─ 寄付型
|
├─ 購入型
|
└─ 投資型 ─┬─ 株式型
└─ ファンド型 ─┬─ 基本型
└─ ソーシャル・レンディング型
このうち,現在最も事業者の数が多いのは購入型です。
なぜならば,購入型は,金融商品取引法などの規制に服さず,簡単に始めることができるからです。
但し,購入型の場合,利用者(お金を出す人)は物品やサービスを購入することしかできません。新規・成長企業に少額で投資を行い,配当や利益を受けるという形の活動は購入型では実現できません。
そのため,現在,最も活用が期待されているのは,投資型です。
ちなみに,投資型のうち,ファンド型は,さらに,資金需要者と資金提供者との間で単純に匿名組合契約等を締結する「基本型」と,貸金業登録を受けた会社などを仲介させる「ソーシャル・レンディング型」の2つに分かれます。
投資型で注意すべきポイントは,「株式型」でも,「基本型」でも,「ソーシャル・レンディング型」でも,投資型のクラウドファンディングを「業として」行う場合には,金融商品取引法上の登録が必要ということです。*7
したがって,投資型のクラウドファンディングを無登録で「業として」行えば,行政処分が課されたり,刑罰が科される危険性があります。
クラウドファンディングを「業として」行う場合に必要な金融商品取引法上の登録等は,具体的には以下の通りです。
まず,投資型において,流動性の高い株式(上場株式)等を利用するクラウドファンディングを行う場合――つまり,上記の株式型をとる場合――は,第1種金融商品取引業者*8の登録をしなければなりません。
しかし、第1種金融商品取引業者の登録要件はかなり厳しい上、非上場株式の募集又は私募の取扱いは、日本証券業協会の自主規制規則により原則として禁止されています。
したがって、第1種商品取引業者登録をしてクラウドファンディングを行うことは現実的ではありません。
他方,流動性の低い集団投資スキーム持分等を利用するクラウドファンディングを行う場合――つまり,上記のファンド型をとる場合――は,第2種金融商品取引業者の登録が必要です。
第2種金融商品取引業者については,第1種金融商品取引業者ほどの高いハードルはないと一般的には説明されています(但し,実際には第2種の登録もそう簡単には認められていません。)。
したがって,投資型のクラウドファンディングを行うのであれば,第2種金融商品取引業者登録をするのが現実的です。
実際に,第2種金融商品取引業者の登録をしているクラウドファンディングの会社としては,ミュージックセキュリティーズ株式会社(基本型),maneo株式会社(ソーシャルレンディング型),SBIソーシャルレンディング株式会社(ソーシャル・レンディング型)などがあります。*9
■関連する拙稿
「為替取引」とは何か?
http://milight-partners-law.hatenablog.com/entry/2015/12/16/142044
■公式サイト
弊社の代表弁護士山田祥也は,近畿財務局で金融証券検査官として,貸金業法や資金決済法の業務に携わっていましたし,現在は金融商品取引法に関する事件も重点的に取り扱っております。
お問合せはお電話 or 公式サイトの送信フォームからどうぞ!
竟成(きょうせい)法律事務所
TEL 06-6926-4470
http://milight-partners.wix.com/milight-law#!contact/c17jp
*1:平成25年12月25日付け『金融審議会 新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に対するワーキンググループ報告』2頁 http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20131225-1/01.pdf 。この定義は齋藤通雄ほか監修『逐条解説 2014年金融商品取引法改正』(商事法務,2015年)20頁でも使われています。
*2:雨宮卓史『投資型クラウドファンディングの動向 ―JOBS 法と我が国の制度案―』調査と情報819号(2014.3.14)1頁以下 http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8433769_po_0819.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
*3:前掲・雨宮9頁。
*4:「現代のパトロン」クラウド・ファンディングの落とし穴 | 瀧口範子 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト http://www.newsweekjapan.jp/column/takiguchi/2013/12/post-776.php
*5:上掲・雨宮2頁。
*6:上掲・金融審議会2頁,雨宮2頁。
*7:尚,金融商品取引法上の「業」概念については,その内容について争いがある。詳細は,金融法委員会『金融商品取引業における「業」の概念についての中間論点整理 』 http://www.flb.gr.jp/jdoc/publication41-j.pdf 参照。
*8:ちなみに、第1種金融商品取引業者の典型例は証券会社です。
*9:尚,ソーシャル・レンディング型の場合は,第2種金融商品取引業者としての登録だけでなく貸金業者としての登録も必要になります。