■今回のテーマ
台風5号の関係で,以下のような投稿に接しました。
午前7時30分までにご連絡を取らせていただけないでしょうか?また、午前8時の放送までにご返答がない場合、上記の理由により使用させていただきたく存じます。放送させていただいた場合は、追って当方より
— とくダネ!スタッフ (@tokudane_info) 2017年8月7日
ご連絡いたしますので何卒ご理解のほど、お願い申し上げます。
そして,上記番組では,動画の撮影者の方の承諾を得ることなく放送が行われたようです。
そのため, このような放送は著作権法上問題ではないのか,という指摘がネットでなされました。
すると,以下のような指摘が為されました。
著作権法41条により、時事の事件の報道のための利用には著作権者の許諾が不要です。今回は「台風被害の動画」なので、41条が適用される可能性はあります。とすると、とくダネ!の対応は本来不要な許諾を得ようとしており、むしろ丁寧だと思います。https://t.co/ZWxwUvPVAt
— Murakami Ryuhei (@mryuhei) 2017年8月8日
とくダネ!がSNSの台風動画「返答なくても使用」、弁護士「違法とまではいえない」 - 弁護士ドットコム
要するに,これらの記事・投稿では,著作権法41条によって,テレビ局の放送は著作権法違反にはならないと書かれています。
他方で,著作権法41条の適用はない,とする弁護士の方々の指摘もあります。
明らかな誤解。
— 向原総合法律事務所 弁護士向原 (@harrier0516osk) 2017年8月8日
著作権法41条の要件である、その事件を「構成した著作物」ではないし、他方、その事件の過程で「見られたり聞かれたりした著作物」を利用しているわけではないから。
誤った解釈が流布されるとそれに影響されて今後も同じ過ちを繰り返すことになります。 https://t.co/Z2jPE9T1EJ
事件を構成していないし、事件において見聞きされるわけでもないので、解釈適用の誤り。 https://t.co/bRhruHJ4Vq
— 弁護士 野田隼人 (@nodahayato) 2017年8月8日
というわけで,今回は著作権法41条について,簡単にご説明いたします。
■条文
(時事の事件の報道のための利用)
著作権法第41条
写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。
■著作権法41条が適用される典型的な場面
知的財産法の大家である中山信弘先生は,著作権法41条が適用される典型的な場面について,以下のように説明されます。
「スポーツ大会入場式で流れる行進曲,あるいは事件現場の報道の際に偶然流れていた音楽が放送されたとしても,本条により合法となる。」*1
■著作権法41条の趣旨
著作権法41条について,中山先生は次のように述べられます。
「本条がなければ事件の正確な報道が不可能になり,民主主義の根幹にも関わる問題となる。その反面,このような制限規定が設けられても,著作物のマーケットにはほとんど影響を与えることはなく,権利者の受ける不利益は少ない。その限りでは当然の制限規定といえるが,その限界は定かではない。」*2
■要件
条文から分かるように,著作権法41条の適用が認められるためには,以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 時事の事件を報道する場合であること
- 著作物が,当該事件を構成する or 当該事件の過程において見られる or 聞かれるものであること
- 報道の目的上,正当な範囲内であること
冒頭の事例の場合,この「2」の要件を満たすかどうかが問題になります。
そして,この「2」の要件のうち,「当該事件を構成する」という文言の意味については,次のように説明されています。
「事件を構成する著作物とは,事件の主題となっている著作物のことでありまして,例えば,美術館からルオーの『道化』が盗まれたという場合(ルオーの著作権は切れていますが,仮に著作権があると想定した場合),何がルオーの『道化』であるかということを公衆に知らせるために,その絵画の像をテレビで放映する,その絵画の複製写真を新聞に掲載するということが,これであります。つまり,盗まれた絵そのものが事件を構成するものでありますから,利用が認められるのであります。」*3
このような条文の意義や過去の裁判例からすると,台風の報道において,一般の方が撮影されてTwitter上にアップされた風雨の動画*4は,当該事件を構成するものに当たる(著作権法41条の要件を満たす)とは考えにくいのではないかと思われます。*5
ちなみに,この問題を考えるに際しては,問題となっている「時事の事件」が何か,を検討することが重要です。
後述する山口組5代目承継式事件の判決では,この点が明確に意識されています。
■裁判例
著作権法41条の適用が争点となった事案としては,以下のようなものがあります。
大阪地判平成5年3月23日判事1464号139頁
本件は,いわゆる山口組5代目承継式事件で,著作権法41条関係の裁判例では最も有名な事件です。今回紹介する裁判例の中では,最も関連性があり参考になるものです。
本件は,原告である故・宅見勝氏が,被告であるテレビ局に対して,原告が著作権を有するビデオについて被告がその一部を放送したことによって,公衆送信権が侵害されたとして,損害賠償を求めた事案です。本件ビデオには,山口組5代目承継式の様子が撮影されていました。
被告は,原告の主張に対し,著作権法41条の適用があるとして反論しました。
この点について,大阪地裁は,次のように述べて,著作権法41条の適用を肯定しました(太字は引用者によります。)。
「被告は、本件番組において、『当日、大阪府警察本部が、500人の捜査員を投入して、山口組系列の団体の構成員(組員)47人を逮捕し、系列の組事務所など28か所の捜索を行うなど、3年半ぶりに山口組系の暴力団の一斉摘発を行つた』という時事の事件を報道するとともに、これに関連して、『右事件は、山口組が同年4月に、懸案だつた5代目組長を選んで以降、全国規模での勢力拡大を図つていることに対する大阪府警察本部による先制攻撃といえる』という視点に立つて、同年4月の渡辺芳則5代目組長の決定とそれに関連する構成員増加、昼食会と称する集会の開催、抗争事件の発生といつた勢力拡大の動きや同年7月20日の本件継承式の実施を概括的に報道したうえで、アナウンサーが、『新組長の威光を末端組員に対しても周知徹底させようと、この襲名式の模様をビデオに収め、そのビデオを系列の組に配付しました。やくざ映画ばりに華々しい音楽の入つたビデオのダイジェスト版です。』と発言して、本件放送を行い、本件放送中には、キャスター及びアナウンサーが、画面に写し出された本件継承式について感想を述べたり解説を加えたりし、本件放送を終えた後に、キャスターが本件継承式を行つたことに関する感想を述べるとともに、評論家の暴力団組織の存在に関する意見を紹介」した。
「これらの事実によれば、被告の本件番組担当スタッフは、本件ビデオの製作及び複製ビデオテープの配付は、新組長の威光を末端組員(系列の団体の構成員)に対しても周知徹底させるために行われたものであり、勢力拡大の動きの一環であると位置付けて、『山口組が、渡辺芳則5代目山口組組長の威光を末端組員(系列の団体の構成員)に対しても周知徹底させるために、本件継承式の模様を撮影して本件ビデオを作成し、その複製物を系列の団体に配付したこと』を時事の事件として報道したことが認められ、また、本件ビデオは、右事件を構成する著作物であり、被告は、本件ビデオを右事件の報道に伴つて利用したと認められるから、本件放送は、著作権法41条所定の、放送の方法によつて時事の事件を報道する場合における、当該事件を構成する著作物を、当該事件の報道に伴つて利用することに該当するというべきである。」
東京地判平成10年2月20日判タ974号204頁
本件は,いわゆるバーンズコレクション事件と言われるもので,絵画の著作権者である原告が,新聞社である被告に対して,被告がバーンズコレクションの展覧会の開催に際して,その絵画が新聞,入場券,書籍等に掲載したことによって複製権が侵害されたとして,損害賠償や差止めを求めた事案です。
被告は,原告の主張に対し,新聞への掲載は著作権法41条で許されると反論しました。
この点について,東京地裁は問題となった5つの新聞記事のうち,1つについては著作権法41条の適用があるが,他の4つについては適用がない,と判断しました。以下では,41条の適用を認めた部分を引用します。
「右事実によれば、右記事は、優れた作品が所蔵されているが、画集でも見ることのできないバーンズコレクションからよりすぐった作品を公開する本件展覧会が平成6年1月から東京の国立西洋美術館で開催されることが前日までに決まったことを中心に、コレクションが公開されるに至ったいきさつ、ワシントン、パリでも公開されること、出品される主な作品とその作家を報道するものであるから、著作権法41条の『時事の事件』の報道に当たるというべきである。」
「そして、本件記事中で、本件展覧会に出品される80点中に含まれる有名画家の作品七点が作品名を挙げて紹介されている中の1つとして本件絵画三が挙げられているから、本件絵画3は、同条の『当該事件を構成する著作物』に当たるものというべきである。また、複製された本件絵画三の大きさが前記の程度であること、右記事全体の大きさとの比較、カラー印刷とはいえ通常の新聞紙という紙質等を考慮すれば、右複製は、同条の『報道の目的上正当な範囲内において』されたものと認められる。」
東京地判平成24年9月28日判タ1407号368頁
本件は,宗教法人である原告が,その代表役員の配偶者である被告に対し,原告が著作権を有する「霊言」の動画映像の著作権(複製権,頒布権)を侵害する行為を行ったとして,差止めや損害賠償を求めた事案です。
被告は,原告の主張に対し,著作権法41条を根拠として反論しました。
しかし,東京地裁は,以下のように述べ,被告について,著作権法41条の適用はない,と判断しました。
「そこで検討するに,著作権法41条は,時事の事件を報道する場合には,その事件を構成する著作物を報道することが報道目的上当然に必要であり,また,その事件中に出現する著作物を報道に伴って利用する結果が避け難いことに鑑み,これらの利用を報道の目的上正当な範囲内において認めたものである。このような同条の趣旨に加え,同条は『写真,映画,放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合』と規定するのであるから,同条の適用対象は報道を行う者であって,報道の対象者は含まれないと解するのが相当である。
そうすると,被告は,本件記者会見を行ったことが認められるものの,本件記者会見についての報道を行った者ではないから,著作権法41条の適用はないというべきである。」
東京地判平成21年11月26日裁判所ウェブサイト
本件は,美術品の著作権者である原告らが,被告に対して,被告においてオークションのカタログ等に原告らが著作権を有する美術品の画像を掲載し,その一部をインターネットで公開したことによって,複製権や公衆送信権が侵害されたとして,損害賠償を求めた事案です。
被告は,原告の主張に対し,「本件オークションは,国内オークション会社としては史上初めて香港で開催するオークションであるという歴史的意味を有し,重大なトピックであって,『時事の事件』に当たる」として,著作権法41条の適用があると反論しました。
しかし,東京地裁は以下のように述べ,著作権法41条の適用はない,と判断しました。
「しかしながら,前記認定事実のとおり,本件パンフレットには,『国内オークション史上初,香港オークション開催』の見出しが付けられ,『国内オークション史上初の海外開催となるエスト・ウエスト香港オークション。』との記載があるものの,その他は,開催日時や開催場所に関するものや,本件オークション等の宣伝というべき内容で占められており,被告が『時事の事件』であると主張する初の海外開催という事実に関連する記述は見当たらない。
上記記載の内容に照らすと,本件パンフレットは,被告の開催する本件オークション等の宣伝広告を内容とするものであるというほかなく,時事の事件の報道であるということはできない。被告の主張は採用することができない。」
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