竟成法律事務所のブログ

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【憲法】統治行為論に関するメモ

■今回のテーマ

本日(2020/06/13),以下のような報道に接しました。 

砂川事件、判決原案を批判する「調査官メモ」見つかる:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASN6D7R9QN61UTIL03G.html

「極めて政治性の高い国家行為は、裁判所が是非を論じる対象にならない――。この『統治行為論』を採用した先例と言われる砂川事件最高裁判決で、言い渡しの直前に、裁判官たちを補佐する調査官名で判決の原案を批判するメモが書かれていたことがわかった。」

 

 砂川事件 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%82%E5%B7%9D%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 

上記記事に登場する「統治行為論」は憲法の勉強をする際に必ずと言ってよいほど登場する概念です。

そのため,司法試験受験生であれば皆,知っている知識と言って良いと考えられます。

 

他方で,多くの法曹は,普段の業務で憲法をあまり取り扱いません。

そのため,司法試験受験時代に学んだ知識は劣化していってしまうこともあります。

 

というわけで(笑),今日は,備忘録を兼ねて「統治行為論」について情報等を整理しておきたいと思います。

 

尚,統治行為論に関する近時の興味深いご論考として,例えば,東大の石川健治先生による『憲法を学問する第4回 第1分科会「統治と行政」②』法教449号(2018年)46頁以下などがあります。

 

 

 

■定義

「『統治行為』とは,一般に,政治部門の行為のうち,法的判断が可能であっても,その高度の政治性の故に,司法審査の対象とされない行為であると定義されてきた。」*1

 

統治行為論とは「国家の統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為については、たとえ法的判断が可能であつても、司法審査をすべきではないという考え方」*2

 

「これに関連して、しばしば問題になるのは、フランスで「統治行為」(acte de gouvernement)、アメリカで「政治問題」(political questions)と呼ばれる一連の行為である。わが憲法上の国会の召集、衆議院の解散、国務大臣の任免、恩赦の決定などが、それに数えられる。これらの行為は、広い意味では行政に属するが、その高度の政治性のゆえに、裁判所による法的価値判断の対象とするには適しないものであり、またたとえ、裁判所で判決をくだしても、それを執行することは困難であって、むしろ、それを行う機関の政治的責任とそれに対する一般の政治的批判に委ねるほうが、合理的であるから、裁判所の審査から除かれるべきものであるとせられる。」*3

 

 

 

■メモ

「概念上は法律上の争訟に当たる場合でも、一般に司法審査の対象とならないとされているものとして、統治行為のカテゴリーがある。高度の政治性のある行為を統治行為として捉えるか、裁量問題として捉えるかについては議論のあるところであるが、最高裁判所衆議院の解散を統治行為論によって裁判所の審査権の及ばないところとした(最大判昭和35・6・8民集14巻7号1206頁、行政判例百選Ⅱ 〔5版〕152事件)。しかし、法律上の争訟である以上、日本国憲法の下では、司法権の範囲内にあるのであって、統治行為一般論で司法権の制約を論ずるのは妥当ではなく、自律権や裁量論など、より具体的な論拠によるべきものと思われる。」*4

 

「ところで、苫米地事件判決は、『司法権憲法上の本質に内在する制約』といういい方をしている。しかし、もし『司法権の本質』を、具体的訴訟の妥当な解決を通して訴訟当事者の権利を保護するところにある、と考えるとすると、統治行為論はそのような『本質』に反する結果をもたらす、ということに注意する必要がある。たとえば刑事事件で、統治行為論によって憲法適合性審査の外におかれた法令は、そのまま適用され、もし統治行為論が適用されなければ法令の違憲無効ゆえに無罪となったかもしれない被告人が、有罪とされることになるからである。その点で、同じく司法権の自制を意識した技術として問題になるものでも、憲法判断回避のルールとよばれるもの(略)は、正反対の効果をもたらすであろう。」*5

 

「 このように,『統治行為』論は,『高度の政治性』ということをその基本的属性とするが,その属性はいかにも明確を欠き,その捉え方いかんでは重大な憲法問題はすべて『統治行為』となりかねず,ひいては憲法違憲審査制を導入した趣旨そのものを没却する結果になる。」*6

 

 

 

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*1:佐藤幸治日本国憲法論』(成文堂,2011年)643頁。

*2:足立哲憲法』(教育システム,第6版,令和2年)231頁。

*3:清宮四郎『憲法Ⅰ』(有斐閣法律学全集3,昭和32年)280頁。

*4:塩野宏行政法Ⅱ』(有斐閣,第6版,2019年)297頁。

*5:樋口陽一憲法』(創文社,第3版,2007年)443頁。

*6:前掲・佐藤645頁。