竟成法律事務所のブログ

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養育費に基づくお給料等の差押えには特別な規定があります

■今回のテーマ

「調停 or 審判で,子供が成人するまで,毎月3万円の養育費を支払うことになったのに,相手が全然支払ってくれません。相手は,一流企業に勤めていますが,今後も支払う気がなさそうです。どうすれば良いのでしょうか……?」

 

このような場合には,1度の申立てで,相手の勤務先である会社から,養育費を毎月支払ってもらうようにするという方法があります。

 

ただし,この方法を使うためには一定の条件(要件)をクリアする必要があります。

 

というわけで,今回のテーマは,「養育費に基づくお給料等の差押え」です。

 

 

■差押えをするための大前提 ――債務名義をお持ちですか?

差押えをするためには,一定の書類が必要です。この書類のことを,法律の世界では「債務名義」と言います。

 

具体的には,家庭裁判所の調停の際に作成した「調停調書」や,公証役場で作成した「公正証書」などがこの「債務名義」に該当します。

 

「債務名義」がない場合は,「差押え」をすることはできません*1

 

その代わり,「債務名義」がない場合は,養育費に関する審判前の保全処分(家事事件手続法105条以下,157条1項3号)を利用することが考えられます*2

 


■養育費に基づく差押えには特別の定めがあります

養育費に基づく差押えについては,民事執行法151条の2第1項3号に特別の定めが置かれており,支払期限がまだ来ていない養育費についても差押えをすることができます。

つまり,いわゆる「予備差押え」が認められています。

具体例を挙げて,少し,詳しくご説明します。

 

【設例】 
2015年1月から2020年12月まで,毎月末に,2万円を養育費として支払ってもらうという調停が成立していたとします。ところが,2015年7月1日の時点で,相手は,1度も養育費を支払っていなかったとします。しかも,相手は,「養育費なんか絶対に支払わない!」と言っています。

 

実は,民事執行法の原則民事執行法30条)からすると,上掲の例のように,相手がこの先,養育費を支払うとは考えられない状況であっても,2015年1月~6月の養育費・合計12万円分しか差し押さえることができません。

 

なぜならば,2015年7月1日の時点では,2015年7月以降の養育費の支払時期は来ていないからです。

「支払時期が来たのに支払っていないじゃないか!」と言えなければ差押えはできないのが原則なのです。

そのため,2015年7月以降の養育費については,差押えの手続(債権執行手続)を始めることができないのが原則です。

 

しかし,養育費については,例外的に,2015年7月の時点で,2015年7月~2020年12月の養育費についても差押えの手続(債権執行手続)を開始することができるとされています。

 

つまり,

「この予備差押えをしておけば,債権者は毎月差押えの申立てをしなくても,給料日ごとに債務者の勤務先から差押えに相当する分を支払ってもらえる」*3

ということです。

 

なお,よくある勘違いなのですが,この特別な手続を利用しても,2015年7月の時点で,2015年7月~2020年12月の養育費全てを一気に取り立てることができる訳ではありません。

誤解を恐れずに言えば,この特別な手続は,毎月の申立てを省略することができるという制度に過ぎないのです。

 

地味な制度に思えるかもしれませんが,「養育費なんて支払わない!」と言っている相手の勤務先から,毎月養育費を支払ってもらえるようになるということは,子供を育てる上で,大きな安心に繋がります。

 

 

 ■特別な定め(民事執行法152条の2)を利用する際の注意点

ただ,この特別な定めを利用するためには以下の2つの条件(要件)を満たさなければなりません。


第1に,債務名義に「養育費として」という単語が書かれていなければなりません*4

 

実務家向けの法律上の細かい話になるのですが,強制執行においては,民事執行法152条1項各号に定める債権であることが債務名義上,一義的に明らかでなければ,執行機関が執行できません。

もちろん,調停調書の場合,通常は「養育費として」という文言が書かれていると思います。

注意が必要なのは,債務名義に,様々な問題を総合的に解決するために「本件和解金として」と書かれている場合や,「養育費及び慰謝料として金●円」と書かれている場合です。

前者の場合,債権の性質が養育費債権であるか否かが不明ですし,後者の場合,養育費の金額が不明です。そのため,これらの場合,特例を利用することはできないと解されています*5

 

第2に,あくまでこの特別な手続は,相手が養育費を「今,支払っていない」場合にのみ使えます*6

ですから,昔,相手が養育費を支払わなかったことがあったとしても,現時点で,その不払い分は支払い済みである場合は,この特別な手続を利用することはできません。

 

 

■最後に

養育費は,子供の成長・教育にとって重要なお金です。

しっかり払ってもらうことも重要ですが,それを,子供のためにどうやって使うか考えることもとても大切です。

 

 

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*1:「差押え」とよく似た言葉に「仮差押え」というものがありますが,「仮差押え」と「差押え」は別物ですので注意してください

*2:家事事件手続法になって,調停が係属していれば保全処分を行えることになりました。家審法時代に比べると便利になりました。

*3:平野哲朗『実践 民事執行法 民事保全法』(日本評論社,2011年)256頁。

*4:民事執行法152条の2第1項柱書の「定期金債権を有する」という要件の関係で問題になります。

*5:東京地方裁判所民事執行センター『民事執行の実務 債権執行編(上)』(きんざい,第3版,平成24年)163頁以下。

*6:民事執行法152条の2第1項柱書の「その一部に不履行があるときは」という要件の関係で問題になります。