竟成法律事務所のブログ

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【民法】Twitterで他人の投稿をそのままRTした場合,それは原則として賛同を示す行為になるのか?

■今回のテーマ

今回のテーマは,Twitterで他人の投稿をそのままRTした場合,それは原則として賛同を示す行為になるのか?」です。

 

この点がテーマとなった裁判例があり*1,裁判所は,「原則として賛同を示す行為になる」という判断を示しました。

 

今回は,その判決をご紹介し,若干のコメントを付したいと思います。

 

 

 

■問題となった事案

本件は,元大阪市長橋下徹氏が,ジャーナリストの岩上安身氏に対して,岩上氏がTwitterで行なったリツイートで名誉を毀損されたとして,110万円の損害賠償を求めた事案です*2

 

 

 

■論点の法的な位置づけ

ここから先は,少し専門的な話になります。

 

今回のテーマは,法律的には「名誉毀損に及んだ行為主体は誰か?」という論点に帰着します。

 

すなわち,岩上氏ご自身は元々の投稿をした訳ではなく,岩上氏はリツイートをしただけであることから,岩上氏は行為主体でない(名誉毀損に及んだのは元の投稿者だけ)とも考えられるため,法律上,問題となります。

※ 尚,元々の投稿をした人物が名誉毀損の行為主体になり得ることは争いはありません。

 

そして,行為主体の有無を判断するためには,当然,リツイートという行為の性質を考える必要があります。

つまり,リツイートについて,積極的・能動的な意思に基づく行為であると考えることができるならば,当然,リツイートをした人は行為主体になります。

 

 

では,これらの点について,裁判所はどのように考えたのでしょうか?

 

 

■裁判所の判断

この点について,大阪地方裁判所末永雅之裁判長)は,以下のような判断を示しました(大阪地判令和元年9月12日判時2434号41頁)。

やや長くなりますが,引用いたします(尚,段落分け,太字・青字は引用者によります。)。

判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=89004

 

「前提事実(2)のとおり,本件投稿は,リツイートの形式で,何ら被告によるコメントを付すことなく投稿されたツイートであるところ,被告は,この点を指摘して,本件投稿は本件元ツイートの投稿者の発言とみるべきであると主張する。」

 

「そこで検討するに,ツイッターにおいては,投稿者は,自己の発言を投稿するのみならず,他者の投稿(元ツイート)を引用する形式で投稿(リツイート)することができるところ,リツイートの際には,自己のコメントを付して引用することや,自己のコメントを何も付さずに単に元ツイートをそのまま引用することもできる。そして,投稿者がリツイートの形式で投稿する場合,被告が主張するように,元ツイートの内容に賛同する目的でこれを引用する場合や,元ツイートの内容を批判する目的で引用する場合など,様々な目的でこれを行うことが考えられる。」

 


「しかし,他者の元ツイートの内容を批判する目的や元ツイートを他に紹介(拡散)して議論を喚起する目的で当該元ツイートを引用する場合,何らのコメントも付加しないで元ツイートをそのまま引用することは考え難く,投稿者の立場が元ツイートの投稿者とは異なることなどを明らかにするべく,当該元ツイートに対する批判的ないし中立的なコメントを付すことが通常であると考えられる。」

 

「したがって,ツイッターが,140文字という字数制限のあるインターネット上の簡便な情報ネットワークであって,その利用者において,詳細な説明や論述をすることなく,簡易・簡略な表現によって気軽に投稿することが想定される媒体であることを考慮しても,上記のような,何らのコメントも付加せず元ツイートをそのまま引用するリツイートは,ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,例えば,前後のツイートの内容から投稿者が当該リツイートをした意図が読み取れる場合など,一般の閲読者をして投稿者が当該リツイートをした意図が理解できるような特段の事情の認められない限り,リツイートの投稿者が,自身のフォロワーに対し,当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当である


「そうすると,本件投稿においては,本件投稿前後のツイートに被告が本件元ツイートを引用した意図が読み取れるようなものはなく(甲5),他に一般の閲読者をして投稿者が当該リツイートをした意図が理解できるような上記特段の事情は認められないから,本件投稿で引用された本件元ツイートの内容は,本件投稿の投稿者である被告による,本件元ツイートの内容に賛同する旨の意思を示す表現行為としての被告自身の発言ないし意見でもあると解するのが相当であり,被告は,本件投稿の行為主体として,その内容について責任を負うというべきである

 
「被告は,本件投稿について,本件元ツイートを情報提供の趣旨でリツイートしたに過ぎないから,本件投稿は本件元ツイートの投稿者の意見とみるべきである旨主張するが,仮に,被告が本件投稿を行った主観的意図がフォロワーに対する情報提供という点にあったとしても,前記のとおり,一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすると,何のコメントも付さないままリツイートするという本件投稿の態様からすれば,その情報提供には本件元ツイートの内容に賛同する被告の意思も併せて示されていると理解されるというべきであるから,この点に関する被告の主張は採用できない。」

 

 

 

■コメント1

お読みいただければお分かりのとおり,上記判決の論理の根幹は以下のような経験則*3にあります。

 

① 他者の元ツイートの内容を批判する目的や元ツイートを他に紹介(拡散)して議論を喚起する目的で当該元ツイートを引用する場合

 ↓

② 何らのコメントも付加しないで元ツイートをそのまま引用することは普通はない(批判的・中立的なコメントを付けるはず)。

 ↓

③ そうだとすれば,何のコメントも付加しないリツイートは,原則としてリツイートの投稿者が自身のフォロワーに対し,当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と言える。

 

ただ,このような経験則は果たして成立するのでしょうか?

 

確かに,批判目的であれば,裁判所の指摘は妥当する場面はあると考えられます。

批判が目的であれば,批判対象を摘示するだけでなく,当該対象のどこに問題点があるかを指摘しなければならないからです。

 

しかし,特に,議論喚起のための情報拡散や紹介目的の場合,上記の経験則が妥当するという確たる根拠は見当たりません。むしろ,このような場合は,何らのコメントを付さないことも少なくないのではないでしょうか?*4 つまり,「①⇒②」という経験則は成立しないのではないかと考えられます

 

また,「②⇒③」も論理の飛躍であるように考えられます

判決文を形式論理だけで読んではならないのですが,「①⇒②」の対偶命題は,「何らのコメントを付加しないでリツイートしたのであれば,そのリツイートは批判や議論喚起のためのものではない」というものに過ぎません。直ちに賛同を意味することにはなりません。

 

したがいまして,結論は別として,大阪地裁の論理には疑問があります。

 

 

 

■コメント2

ここから先は全くの推測ですが,裁判所は,ひょっとすると新聞記事やビラといった有体物のコピーと同様の論理で判断をしているのかもしれません。

 

例えば,Aさんの名誉を毀損するような新聞記事やビラがあったとします。

そして,Bさんが,この記事やビラを,その内容に着目した上で,そのままコピーして不特定多数に頒布した場合,そこには確かにBさんによる積極的・確定的な情報複製行為と情報伝播行為があります(わざわざ時間と手間とお金を掛けて行為に及んでいます。)。

このような場合,Bさんの意思に基づく能働的な行為を認めることができますから,Bさんを名誉毀損の主体とみなすことに通常,支障はありません。

 

裁判所は,Twitterにおけるリツイートについて,上記のコピー&頒布行為と同視しているのかもしれません。

 

 

 

■コメント3

尚,念の為に申し上げれば,Twitter上で,他人の名誉を毀損する(or その危険性のある)ツイートを軽々にリツイートすること自体は,決して望ましいことではありません。

それは,客観的に見れば(主観的意図は別として),名誉を毀損する言説の拡大行為に他なりません。

この点については,争いはないと考えられます*5

 

問題は,このような拡大行為を防止するための手段として,上記の大阪地裁のような論理で単なるリツイートに対する損害賠償を肯定することが,果たして妥当なのか,という点にあります。

 

むしろ,名誉を毀損する投稿に関するリツイートの問題の本質は,リツイートが賛同を示すものか否かという点ではなく*6名誉毀損という法益侵害行為を拡大・再生産しかねないという点にあると考えられます。

 

そうだとすれば,この点にフォーカスした論理を展開すべきだったのではないかと考えられます。

 

つまり,大阪地裁は,「賛同」という中間項を入れることによって行為の主体性を肯定している(言い換えれば,「賛同」か否かによって損害賠償責任の成立範囲を限定している。)のですが,主体性については,「リツイート=自己の意思に基づいた情報の拡大再生産」と捉え,端的に肯定し得たのではないでしょうか。

そして,その上で,他の要件で慎重に判断する――リツイートという表現行為に対する萎縮効果を防止する――という枠組みの方が有益だったのではないでしょうか(この点については追記するかもしれません)。

 

 

 

■公式サイト

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*1:裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

*2:尚,岩上氏は,橋下氏の提訴はスラップ訴訟であるとして,300万円の損害賠償を求める反訴を提起しています。

*3:経験則とは「経験から帰納された事物に関する知識や法則であり、一般常識に属するものから、職業上の技術、専門科学上の法則まで含まれる。経験則は、ここでは、具体的な事実ではなく、事物の判断をする場合の前提となる知識ないし法則をいう。」(新堂幸司『新民事訴訟法』(弘文堂,第6版,2019年)581頁)。

*4:例えば,誤っていると考えられる言説について,コメントを付すことなくそのまま摘示し,不特定多数の議論を喚起する「さらしあげ」という事象が,少なくとも一時期の2chには存在したと考えられます。同様の事象がTwitter上でも存在する可能性があります。

*5:尚,本件とは事案等を全く異にしますが,配信サービスによって配信された情報を新聞社がそのまま掲載した場合に,配信社ではなく新聞社に名誉毀損による損害賠償責任が成立し得ることについて,例えば,最三小判平成14年1月29日民集56巻1号185頁参照。

*6:今回の判決について,Twitter上の多くの方々が違和感を覚えたのは「賛意」という点だったのではないかと考えています。