竟成法律事務所のブログ

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【刑事】大阪高裁が公訴を棄却した道路交通法違反被告事件の解説

■今回のテーマ

昨年12月,以下のような報道が為されました。

信号無視の男性、公訴棄却=「警察対応、不誠実」-大阪高裁:時事ドットコム
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016120600802&g=soc
「赤信号を無視したとして道交法違反罪に問われた大阪府枚方市の男性(60)の控訴審判決で、大阪高裁は6日、罰金9000円とした枚方簡裁判決を破棄し、公訴を棄却した。」

 

 

また,今年に入ってからも以下のような追加の報道が為されました。

警察と検察の“不誠実”断罪 信号取り締まり逮捕めぐり空前の逆転劇:イザ!
http://www.iza.ne.jp/kiji/events/news/170106/evt17010616140020-n1.html

「信号無視の取り締まりで大阪府枚方市の不動産業の男性(60)が車載カメラの映像を要求して抗議したところ、その場で現行犯逮捕されてしまう。1審は罰金刑だったが、2審判決では空前の逆転劇となる裁判打ち切りの「公訴棄却」を勝ち取った。司法が断罪したのは、警察と検察の“不誠実”だった。」

 

 

というわけで,今回は,大阪高裁のこの判断について,簡単な解説をしたいと思います。

但し,判決文が公開されていませんので,一部,推測に基づく記述もあります。ご了承ください。

 

 

 

■公訴棄却とは?

公訴棄却とは,訴訟条件が欠落している場合に,検察官の公訴を棄却して,訴訟を途中で打ち切ることを言います。

 

そして,訴訟条件とは,「訴訟を有効に成立させて維持し,実体判決(略)を下すための条件」を言います*1

 

公訴棄却には,公訴棄却の「判決」(刑事訴訟法338条)と公訴棄却の「決定」(刑事訴訟法339条)があります。

 

公訴棄却の「判決」は,「訴訟条件の欠缺が比較的重大で,かつ,必ずしも一見して明白でない場合」になされます。

公訴棄却の「決定」は,「訴訟条件の具備の有無が容易に発見でき,その存否を調査するにあたって必要な資料を入手することもような場合」になされます*2

 

 

 

刑事訴訟法の条文

第338条 左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
 一  被告人に対して裁判権を有しないとき。
 二  第340条の規定に違反して公訴が提起されたとき。
 三  公訴の提起があつた事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。
 四  公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。

 

第339条 

1 左の場合には、決定で公訴を棄却しなければならない。
 一  第271条第2項の規定により公訴の提起がその効力を失つたとき。
 二  起訴状に記載された事実が真実であつても、何らの罪となるべき事実を包含していないとき。
 三  公訴が取り消されたとき。
 四  被告人が死亡し、又は被告人たる法人が存続しなくなつたとき。
 五  第10条又は第11条の規定により審判してはならないとき。
2  前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

 

 

 

■今回の大阪高裁の判断

報道された情報を読む限り,今回,大阪高裁は,刑事訴訟法338条4号に基づいて公訴を棄却したと考えられます。

 

今回の事件では,道路交通法違反(信号無視)を理由として,公訴が提起されたようです。

 

しかし,このような反則行為を理由として公訴を提起する場合,原則として,事前にいわゆる通告手続を済ましておく必要があります(道路交通法130条)。

例外は,反則した人が,書面の受領を拒んだりした場合です。

(反則者に係る刑事事件)
第130条 反則者は、当該反則行為についてその者が第127条第1項又は第2項後段の規定により当該反則行為が属する種別に係る反則金の納付の通告を受け、かつ、第128条第1項に規定する期間が経過した後でなければ、当該反則行為に係る事件について、公訴を提起されず、又は家庭裁判所の審判に付されない。ただし、次の各号に掲げる場合においては、この限りでない。

 一  第126条第1項各号のいずれかに掲げる場合に該当するため、同項又は同条第四項の規定による告知をしなかつたとき。
 二  その者が書面の受領を拒んだため、又はその者の居所が明らかでないため、第126条第1項若しくは第4項の規定による告知又は第127条第1項若しくは第2項後段の規定による通告をすることができなかつたとき。

 

報道によれば,この運転手の方は,現場では反則切符を受領しなかったようです。

他方で,この運転手の方は,検事調べの段階では,反則金の納付を申し出たようです(反則金が納付された場合は公訴を提起できません。道路交通法128条2項)。

 

しかし,検察官は,納付を認めませんでした。

そして,検察官は,この状況で公訴を提起(起訴)したようです。

「28年1月、書類送検された男性は、大阪地検でも否認を維持したが、2度目の聴取で状況が一変した。検察官が差し出したパソコンの画面に、赤信号を通過する男性の車が映し出されたからだ。車載カメラの映像だった。男性は翻意し、反則金の納付を申し出た。しかし検察官の返答は『それはできない』。男性は4月に略式起訴され、枚方簡裁で罰金9千円を言い渡された。」
http://www.iza.ne.jp/kiji/events/news/170106/evt17010616140020-n2.html

 

 

阪高裁は,本件の逮捕に至る経緯と検察官調べにおける状況を踏まえ,公訴提起が道路交通法130条に違反していると判断し,刑事訴訟法338条4号に基づき,公訴棄却の判決をしたのだと考えられます。

 

尚,事案が異なるのですが,判例上,道路交通法130条に違反する公訴提起は刑事訴訟法338条4号に基づいて公訴が棄却される,とされています(最判昭和48年3月15日刑集27巻2号128頁)。

 

 

  

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*1:寺崎嘉博ほか『刑事訴訟法』(有斐閣,2001年)129頁。

*2:以上につき,松本時夫ほか編著『条解 刑事訴訟法』(弘文堂,第4版増補版,2016年)951頁。