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法律事務所ミライト・パートナーズのブログ

大阪市北区梅田1‐1‐3 大阪駅前第3ビル31階にある金融法や民事事件を重点的に取り扱う法律事務所です(TEL 06-6341-0135)

失火責任法の基礎知識と裁判例

■今回のテーマ

平成28年12月22日,新潟県糸魚川市で大規模な火災が発生しました。

糸魚川市大規模火災 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B3%B8%E9%AD%9A%E5%B7%9D%E5%B8%82%E5%A4%A7%E8%A6%8F%E6%A8%A1%E7%81%AB%E7%81%BD 

 

報道によれば,今回の火災の原因は,飲食店の空焚きが原因ではないかと考えられているようです。

糸魚川大規模火災】鍋の空だき原因か、出火元店主「こんろに火を付けたまま自宅に戻った」 - 産経ニュース
http://www.sankei.com/affairs/news/161223/afr1612230033-n1.html


こういった火事の場合,法律上は,失火責任法という法律がしばしば問題になります。

 

というわけで,今回は,失火責任法に関する基礎知識について,ご説明したいと思います。

 

 

 

■失火責任法の条文

失火責任法は,正式には「失火ノ責任ニ関スル法律」といいます。

そして,失火責任法は,以下の1条しかありません。

ごくごく短い法律です。

民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス

 

ちなみに,民法709条とは「不法行為」の基本となる条文で,以下のような内容になっています。

不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

 

 

■失火責任法の立法趣旨

「失火については,『失火ノ責任ニ関スル法律』(略)があり,軽過失による免責が認められている。日本の家屋には木造家屋が多く,火災が発生すると燃え広がって,莫大な損害が生じる場合が多いことと,失火の際には加害者自身も焼け出されている場合が多いことにかんがみ,加害者の賠償責任が発生する場面を限定する趣旨で制定された立法である。」*1

 ただ,この立法趣旨については,批判もあります*2

 

 


■失火責任法のポイント

失火責任法によって,「重大ナル過失」(重過失)がなければ,失火した者の責任(正確には,民法709条に基づく不法行為責任)は免責されます。

 

つまり,今回の糸魚川の火災が,仮に報道されているように飲食店店主の失火が原因だとした場合,店主の方に「重大ナル過失」がなければ,店主の方は,不法行為責任を負いません。

 

 


■「重大ナル過失」とは?

では,「重大ナル過失」とは,具体的にどういう意味なのでしょうか?

 

この点については,有名な最高裁判決があり,この判決で示された考え方が現在でも妥当しています。

最判昭和32年7月9日民集11巻7号1203頁
「ここにいう重大な過失とは,通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解するのを相当する(略)。」

 

ただ,正直,これだけではよく分かりません。

 

また,不法行為法をご専門の1つとされる京大の潮見佳男先生は以下のように指摘されます。

「下級審裁判例では,形式的には『故意に近い著しい注意欠如』という枠組みを用いながらも,具体的な判断に際して故意との対比を試みて重大な過失の有無を判断したものはない。むしろ,行為義務自体が高められている場合,とりわけ,業務上の注意義務違反がある場合に,その違反をもって重過失と判断する傾向にあるされる。」*3

 

そのため,以下では,実際の下級審裁判例を一部引用し,裁判所が実際にどのような判断をしているのかご紹介したいと思います。

 

 

■「失火」とは

ちなみに,「失火」の意義についても争われることがあり,以下のような下級審裁判例があります。

東京地判平成22年4月20日判タ1335号143頁
「原告らは,本件は,木造家屋における火災の事案ではなく,立体駐車場における車両出火の事案であり,その被害の範囲も外部に延焼することなく,立体駐車場の内部にとどまっているのであって,失火責任法の立法趣旨は妥当しないから,本件に失火責任法は適用されないと主張する。」


「しかし,失火責任法にいう『失火』とは,『人ノ過失ニ因リ火災ヲ惹起スノ意』であって,『過テ火ヲ失シ火力ノ単純ナル燃焼作用ニ因リ財物ヲ損傷滅燼セシメタル場合ハ総テ其中ニ包含ス』る(大審院大正2年2月5日判決・民録19輯57頁参照)ところ,本件火災は,前記のとおり,本件車両からの出火により,本件車両が焼損したのみならず,本件駐車場のパレットの一部が延焼により焼損し,本件駐車場内に駐車中の複数の車両に煤を付着させて部品の交換等を余儀なくさせて,これを損傷したものであるから,仮に被告らの過失により本件火災が発生したとしても,本件火災は,失火責任法にいう『失火』に当たるものというべきであり,本件火災における被告らの行為には失火責任法の適用があると解するのが相当であって,被告らは,『重大な過失』がある場合に限り,不法行為責任を負うものといわなければならない。」

 

山形地判平成11年12月7日判時1713号99頁
「本件爆発の原因である被告組合の注水行為について失火責任法の適用があるか検討するに、失火責任法にいう失火とは、『誤テ火ヲ失シ火力ノ単純ナル燃焼作用ニ因リ財物ヲ損傷滅燼セシメタル』ことをいうから(大判大正二年二月五日民録一九号六一頁参照)、火を失した者が延焼の過程でガスなどを誘爆させた場合と異なり、本件のように、当初の失火とその後の延焼に至る因果の過程から別個独立した第三者の行為があって初めて爆発と爆発自体による財産的損害が生じた場合には、右第三者の行為は失火にはあたらないというべきである。」

 

 


■「重大ナル過失」を肯定した裁判例

東京高判平成15年8月27日判タ1163号263頁
「ところで,控訴人は,本件石油ストーブに給油する際に,本件石油ストーブの火を消さずにカートリッジタンクを抜き取り,屋外に出てカートリッジタンクに給油したが,給油後にカートリッジタンクのネジ式の蓋をしたものの,ネジ山が完全にかみ合わないまま本件石油ストーブのところまで運び,これを本件石油ストーブに差し込もうとして,カートリッジタンクを本件石油ストーブ上で逆さまにし給油口の蓋を下に向けたところ,その弾みで蓋が外れ,火のついたままの本件石油ストーブやその周辺にカートリッジタンク内の石油をまき散らしたため,本件石油ストーブの火がこぼれた石油に着火して燃焼拡大し本件火災が発生したことは当事者間に争いがない。」


「以上の事実に照らすと,本件石油ストーブに給油をするには石油の入ったカートリッジタンクの給油口を下に向けることになるのであるから,控訴人としては,本件石油ストーブの火を消さないまま給油を行う場合には,カートリッジタンクの給油口から石油がこぼれると,それが本件石油ストーブの火に引火する危険があることは,わずかな注意をすれば容易に予見することができたというべきである。また,あえて本件石油ストーブの火を消さずに給油を行うときは,上記の危険を回避するために,控訴人としては,カートリッジタンク内の石油が外にこぼれないように厳に注意する義務があることはいうまでもないところ,カートリッジタンクの蓋がネジ穴にかみ合わず,きちんと締まっていない状態になっていると,カートリッジタンクの給油口を下に向けたときに,その弾みで蓋が外れ,その給油口から石油がこぼれるということも,わずかな注意をすれば容易に予見することができたというべきである。」

 

「それにもかかわらず,控訴人は,本件石油ストーブへの給油に際して,事前に本件石油ストーブの火を消すこともなく,かつ,カートリッジタンクの蓋の締まり具合を確認しないまま,漫然石油の入ったカートリッジタンクを本件石油ストーブの上で逆さまにして給油口の蓋を下に向けたため,その弾みで蓋の外れた給油口から飛び散った石油に本件石油ストーブの火が着火して本件火災を発生するに至らしめたのであって,控訴人には,本件火災について,失火ノ責任ニ関スル法律ただし書の規定する『重大ナル過失』があるというべきである。」

 

東京地判平成58年10月13日判タ517号134頁
「被告は前同日午前一〇時頃から本件家屋と被告方家屋の間にある空地の一角で不用となつたダンボール箱類の焼却を始めたが、その焚火の場所の周囲近距離のところに堆肥小舎(出火個所との距離一・三五メートル)、自動車の車庫(同じく約三メートル)、物置(同じく五・一メートル)、被告方母屋(同じく二・三メートル)等があつて、もともと焚火をするには危険性が大きく、不適当な場所であつた。」

 

「しかし、被告は、当時風がほとんど吹いていなかつたこと等から危険はないものと判断し、念のため水を入れたバケツを準備したうえ焼却作業を実施し、同日午前一一時頃これを完了した。ところが、焼棄したはずのダンボール箱は実は完全に燃えつきておらず、まだ火が残つていたところ、同日午前一一時四〇分頃、折から強い風が吹き始めたのに煽られて、燃え残つていた火が前記物置に飛び移り、たまたま付近にはむしろ等の燃え易い物が置かれていたこともあつて、まず右物置が火を発し、次いで隣接の車庫、本件家屋等に燃え移り、遂に本件家屋は全焼するに至つた。なお当日は空気が乾燥しており、前橋地方気象台から異常乾燥注意法が出されていた。」


「以上の認定事実から考察すれば、先ず前記のように周囲を建物で囲まれた狭い場所で焚火をした被告の所為はそれ自体危険が大きいといわなければならないばかりでなく、ダンボールのように軽くて風に飛ばされ易い物を燃やすのであるから、焼却を終えたのち十分に注水を行うなどして、完全に火が消えるのを確認すべきであつたというべきである。しかるに被告はこれらの注意義務を怠り、漫然と火は消えたものと考えて現場を去つたため、燃え残りの火が周囲の建物に飛び移つて本件火災を招来したのであつて、その過失の程度、態様から考えるに、被告には重過失があつたと解するのが相当である。」

 



■「重大ナル過失」を否定した裁判例

さいたま地判平成16年12月20日判時1904号122頁
「認定した事実によれば、被告Aが本件焼却行為をした本件土盛り部分は、幅約一一・四メートル、長さ約二八・四メートルの広さの本件庭の南西端に近く、本件建物まで約二五メートル離れており、周囲に芝生が植えられていたものの、他に燃え易い物はなかったこと、本件火災が発生した当時の気象条件は、天候は晴れ、南の風二メートル、気温一八度、実効湿度六五パーセント、警報発令無しであったことからして、被告Aが本件焼却行為をするにつき、場所及び気象条件の点において特段危険な状況があったとはいえない。被告Aは、近くに焼却炉があるにもかかわらず、これを使用せず、また事前にジョウロやバケツに水を汲んで万一の場合の消火の用意をしておかなかった点において、万一の場合の備えを欠いたとの指摘はできるが、被告Aが燃やそうとしたものが、ちりとり一杯程度のケヤキの枯れ葉等であり、大量のゴミを燃やそうとしていたものではないことから、飛び火の危険がそれほど懸念されるものではないこと、これに上記の場所や気象条件の点において特段危険が予測される状況がなかったことを合わせて考慮すれば、この点のみを捉えて重大な過失があるとまでは認められない。」*4

 

 

 

■公式サイト

※大変申し訳ないのですが,無料法律相談は行っておりません

法律事務所ミライト・パートナーズ
TEL 06-6341-0135

http://milight-partners.wix.com/milight-law#!contact/c17jp 

*1:潮見佳男『不法行為法1』(信山社,第2版,2009年)257頁。太字は引用者によります。

*2:例えば,窪田充見『不法行為法』(有斐閣,2007年)67頁以下。

*3:前掲・潮見259頁。

*4:尚,本件では,一旦消化した後に再燃したという事実関係があり,その点についても検討されていますが,重過失は否定されています。