竟成法律事務所のブログ

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遺産分割における預貯金の取扱いに関する判例変更について

■今回のテーマ

次のようなニュースに接しました。 

相続トラブル、不公平感を解消 「預貯金は遺産分割対象外」判例変更の公算 最高裁大法廷で弁論 - 産経ニュース
http://www.sankei.com/affairs/news/161019/afr1610190030-n1.html
最高裁は昭和29年や平成16年の判決で、預貯金など分けることのできる債権は『(法定)相続分に応じて分割される』としたため、預貯金は遺産の分け方を話し合う遺産分割の対象にならず、法定相続分に基づいて自動的に分けられるとされてきた。」

 

最高裁:預貯金は遺産分割の対象 判例変更し高裁差し戻し - 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20161219/k00/00e/040/214000c
「亡くなった人の預貯金を親族がどう分けるか争った相続の審判を巡り、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は19日の決定で、「預貯金は法定相続の割合で機械的に分配されず、話し合いなどで取り分を決められる『遺産分割』の対象となる」との判断を示した。」

 

 

 

というわけで,今回は「遺産分割におけるこれまでの預貯金の取扱いと今回の判例変更の意義」について,ごく簡単に――本当にごく簡単に――ご説明したいと思います。

 

 

 

■これまでの判例の考え方

判例最高裁判所)は,古くから,亡くなられた方(被相続人)が持っていた預貯金については,死亡と同時に自動的に相続人に振り分けられるという考え方を採用しています。

最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁
「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とするから、所論は採用できない。」

 

最判平成16年4月20日判時1859号61頁
「相続財産中に可分債権があるときは,その債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり,共有関係に立つものではないと解される(最高裁昭和27年(オ)第1119号同29年4月8日第一小法廷判決・民集8巻4号819頁,前掲大法廷判決参照)。したがって,共同相続人の1人が,相続財産中の可分債権につき,法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には,当該権利行使は,当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから,その侵害を受けた共同相続人は,その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるものというべきである。」

 

例えば,太郎が 600万円の預金,不動産や絵画を残して亡くなったとします。

遺族は,妻である花子と,子供である一郎,二郎,三郎だったとします。

法定相続分は,花子が2分の1,3人の子供達はそれぞれ6分の1です。

 

この場合,「不動産や絵画を誰が相続するか」を決めるためには,遺産分割協議は必要です。

 

他方,これまでの判例の考え方によれば,「預金を誰が相続するか」を決めるためには,遺産分割協議は不要でした。

つまり,自動的に以下のような結論になると考えられていました。

妻・花子 …… 300万円取得

子・一郎 …… 100万円取得

子・二郎 …… 100万円取得

子・三郎 …… 100万円取得

 

これが,これまでの判例の考え方に従った場合の結論です。

 

 

判例がこのような考え方を採用していた理由は,民法の条文にあります。

具体的には,民法898条民法264条民法427条です。

(共同相続の効力)
民法第898条
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

 

(準共有)
民法第264条
この節の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。

 

(分割債権及び分割債務)
民法第427条
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。

 

複数の相続人がいる場合,遺産は,複数の相続人の「共有」に属することになります(民法898条)。 やや専門的な話になるのですが,通説によれば,民法898条の「共有」は,民法249条以下の「共有」と同意義とされています。

 

そのため,遺産に含まれる預貯金についても,民法264条が適用されることになります。

 

つまり,預貯金について相続人が複数いる場合は,民法264条によって,その複数の相続人が預貯金という債権を取得することになります(これを「準共有」といいます。)。

 

複数の相続人が預貯金を取得するということは,つまり,それぞれの相続人が金融機関に対して「払い戻してくれ」と請求できるということです。

これは,法律的には,「数人の債権者がいる」ということになります。

 

そして,民法427条は「数人の債権者がいる」場合に適用される規定です。

 

その結果,民法427条の効力によって,預貯金が相続人に等分に割り振られるということになります。

「つまり,遺産分割を経るまでもなく,当然に分割承継されるということになるのだから,可分債権は『遺産分割の対象となる遺産』を構成しないということになる。」*1

 

 

判例がこのような考え方を採用していたため,現在の実務でも,この考え方がベースになっていました。

但し,これまでの実務も,この判例理論をそのまま適用している訳ではありません。預貯金を対象とした遺産分割を成立させることもできると考えられています。

 「このように預金債権は相続開始と同時に分割されるとの理論を推し進めると,預金債権は家庭裁判所の遺産分割手続における分割対象に含まれないことになるはずである。しかし,実務では,相続人間において,預金債権を遺産分割対象に含める旨の合意が成立すれば,合意に従い,預金債権を分割対象に含めて審理をする取扱いをしている。」*2 

 

 

 

■新しい判例

決定文がまだ公開されていないため,詳細は不明ですが,今回の大法廷決定は,これまでの判例の考え方を改めました。

 

つまり,判例

  1. 預貯金といえども自動的に分割されない
  2. どのように分割するかは遺産分割で決める

 という考え方を採用するに至りました。

 

もっとも,上述のとおり,これまでの実務においても,遺産分割調停で預貯金を取り扱ってきています。

 

また,金融機関は,従来から亡くなった方の預貯金を遺族が引き出される場合,遺産分割協議書を求めてきていました。

言い換えれば,金融機関は,今回の大法廷決定と同様の考え方に立脚していました。

 

そのため,今回の大法廷決定は実務に大きな影響を与えますが,遺産分割実務の「全て」に決定的な影響を与える訳ではないと考えられます。

 

 

 

■公式サイト

※大変申し訳ないのですが,無料法律相談は行っておりません

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TEL 06-6926-4470

http://milight-partners.wix.com/milight-law#!contact/c17jp

 

*1:窪田充見『家族法』(有斐閣,2011年)430頁。

*2:上原裕之ほか編『リーガル・プログレッシブ・シリーズ 遺産分割』(青林書院,改訂版,2014年)303頁