■今回のテーマ
刑事事件で,国選 or 私選弁護人が付されている場合,その弁護人の権限はいつ消滅するのでしょうか?
時々,このような質問を受けることがあります(被告人の方から質問を受けることもありますし,被害者の方から質問を受けることもあります。)。
というわけで,今回のテーマは「弁護人の権限の終期はいつ?」です。
■法律では明確には定められていません
実は,弁護人の権限の終期については法律に明確な定めがありません。
ただ,関連する規定として,刑事訴訟法32条2項があります。
刑事訴訟法第32条
1 公訴の提起前にした弁護人の選任は、第一審においてもその効力を有する。
2 公訴の提起後における弁護人の選任は、審級ごとにこれをしなければならない。
刑事訴訟法32条2項の定められ方からすると,弁護人を選任した効力は,その「審級」においては有効と解釈できます。
言い換えれば,その「審級」が終了すれば,弁護人選任の効力が失われることになります。
そのため,弁護人の権限の終期はいつなのかという問題については,この「『審級』の意義,具体的にはそれがいつ終了するかということによって,規定されると一般に考えられて」います*1。
■ 学説も分かれています
この問題に関する学説は幾つか存在します。
大別すると以下のとおりです*2。
- 当該審級の終局裁判の言渡しまでとする説
- 上訴期間の満了(終局裁判の確定)又は上訴の申立てによって移審の効果が生ずるまでとする説
- 基本的には2の立場によりながら,上訴の申立てがあった場合には訴訟記録を上訴裁判所に送付したときまでとする説
- 移審の時期の問題と審級代理の原則とを切り離して個別具体的に検討すべきであるとする説
■判例の考え方も不明です
この問題に関する判例の立場は明らかではありません。
ただ,判例が,「当該審級の終局裁判の言渡しまでとする見解」を採用していないことは明らかになっています。
すなわち,旧法時代の決定ですが,最決平成4年12月14日刑集46巻9号675頁は,次のような判断を示しています(太字は引用者によります。)。そして,この理は,現行法においても妥当すると考えられています。
「なお、職権をもって判断すると、記録によれば、申立人は、有印公文書偽造等被告事件の被告人として国選弁護人を付されて審理を受け、判決を宣告された翌日に、当該裁判所に対し、上訴申立てのため必要であるとして、同事件の公判調書の閲覧を請求したが、これを許されなかったことが認められるところ、弁護人選任の効力は判決宣告によって失われるものではないから、右のような場合には、刑訴法四九条にいう『弁護人がないとき』には当たらないと解すべきである。したがって、申立人の公判調書閲覧を許さなかった処置に違法はないとした原判断は、正当である。」
■実際の現場ではどのように考えられているのか?
あくまで弊所の認識している限りですが,実際の現場では,上述の2の考え方(上訴期間の満了(終局裁判の確定)又は上訴の申立てによって移審の効果が生ずるまでとする説)に基づいて運用されていると考えられます。
要するに,現場では,上訴期間の満了 or 上訴の申立てによって弁護人の権限は消滅する,と考えられています。
例えば,才口千晴裁判官は,最決平成18年12月19日集刑290号741頁の補足意見で次のように述べられています。
「弁護人選任の効力の終期については,審級代理の原則(刑訴法32条2項)との関係で論議があり,従来の実務では,その終期を上訴期間の満了又は上訴の申立てによって移審の効果が生ずるまでとする上訴申立説に基づきおおむね運用されている。」
したがいまして,冒頭の質問に対する回答としては,
「弁護人選任の終期は,実務上,上訴期間満了時 or 上訴申立時と考えられている。」
というものになると考えられます。
■公式サイト
※大変申し訳ないのですが,無料法律相談は行っておりません
竟成法律事務所
TEL 06-6926-4470
http://milight-partners.wix.com/milight-law/contact