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簡易裁判所判事の釈明権の行使態様が違法であるとされた事例

■今回のテーマ

兵庫県弁護士会所属の弁護士・蔭山文夫先生のブログで,以下のような記事が紹介されていました。

blog.livedoor.jp

 

詳細については,上記ブログをご覧いただきたいのですが,要するに,簡易裁判所判事の釈明権の使い方がおかしい,ということで,国家賠償法に基づく損害賠償を請求し,それが一部認められたという事案です。

 

蔭山先生は,上記ブログに判決書をアップされているのですが,その中でも,簡易裁判所判事の釈明権行使の違法を認定した部分を以下で引用し,ご紹介させていただきます。

 

 

 

■判決文抜粋

4 公平な裁判かつ公開の法廷における適正手続を受ける権利を侵害した違法について
⑴ 原告は,本件釈明が,被告代理人を翻意させてまで別件損害賠償請求権に係る消滅時効を援用させたものであって,もはや釈明権行使に当たるものではなく,これが口頭弁論終結後の原告代理人が退廷した非退席の場で行われていることからすれば,安藤裁判官は,訴外会社に一方的に肩入れし,訴外会社を勝訴させるという違法・不当な目的をもって,原告代理人を退廷させた上,被告代理人を翻意させて消滅時効を遠洋させることを意図していたことが明らかであると主張し,これにより公平な裁判かつ公開の法廷における適正手続を受ける権利を害されたと主張する。


⑵ そこで検討すると,憲法は32条において,裁判を受ける権利を定めるが,具体的な訴訟制度をいかなるものにするかということに関しては,同法81条,82条の規定するところを除き,立法の定めるところに委ねていると解されるから(最高裁平成13年2月13日第三小法廷判決・裁判集民事201号95頁参照),適正な裁判を受ける権利の内容は,具体的には民事訴訟法その他の法令によって定まるものと解される。そして,口頭弁論終結後に本件釈明の内容の釈明権を行使すること自体は,民事訴訟法149条に定める裁量の範囲を逸脱したものではなく,本件釈明は,その時期や内容において,同条に反して釈明を受けることのない原告の訴訟法上の利益を侵害するものではなかったし,その結果として,誤った裁判がされることにより,原告の財産権を侵害するものでなかったことは,前記2及び3で説示したとおりであって,これらの点は,被告が主張するとおりである。


⑶ もっとも,民事訴訟法は,判決手続を,原則として,憲法82条の定める対審で行い,利害が相反し相対立する原告・被告双方を平等に取り扱い,攻撃防御方法の提出について対等の機会を与える双方審理主義を貫いているところ(同法87条1項,例外として,78条,140条,290条,316条,319条,355条1項。なお,124条~132条参照),これは,当事者主義の下で公平な手続保障を実現することによって,紛争解決及び正義の実現という民事訴訟の目的に資するためにほかならない。
 ところが,別件訴訟において,安藤裁判官は,口頭弁論終結時に釈明権の行使が予定されていることは通常ななく(前記2⑵),本件全証拠によっても,同終結前の退席の場で本件釈明をすることに特段の支障があったとは認められないのに,別紙のとおり,他に主張立証がないことを確認した上で口頭弁論を終結しておきながら,これを受けて原告代理人が退席したところで,公平性の観点から実務上消極的な考えも多い積極的釈明(前記2⑶イ)を,時効利益を受ける被告側に対して行い,その結果,直前まで時効を援用していなかった被告代理人が直ちに援用のための口頭弁論の再開を求め,本件援用に至っているものである。前記2⑶イ説示のとおり,別件訴訟の事案の具体的状況の下で最も直裁的な釈明は,原告の主張する継続的不法行為の構成のの不明瞭を質す消極的釈明であって,まずは当該消極的釈明を行うか,または,当該消極的釈明及び時効援用の有無を質す積極的釈明を同時に行うことが自然であるにもかかわらず,安藤裁判官が,退席の場で原告に対する消極的釈明をせずに口頭弁論を終結し,原告代理人の退席後,直ちに被告代理人に対する当該積極的釈明を行っていること,しかも,その内容が,訴外会社に有利な結論に直結するものであったこと,さらに,別紙記載4・5頁のとおり,安藤裁判官が,本件釈明後,被告代理人を洲本簡易裁判所に待たせたまま,執務室に戻り,弁論を再開する旨判断し,短答書記官に原告代理人の都合を確認させ,口頭弁論期日を指定していることからすると,客観的に見て,安藤裁判官は,もともと本件釈明を予定して口頭弁論を終結し,本件釈明の結果,訴外会社が別件損害賠償請求権に係る消滅時効の援用をすめこととなり,口頭弁論を再開することになることを当初から予定していたとみられてもやむを得ない。そして,客観的にそのように見られてもやむを得ない本件釈明の態様は,通常の相手方当事者から,原告主張の評価,すなわち,一方当事者に一方的に肩入れし,同当事者を勝訴させる目的で,原告自身の代理人を退廷させた上,相手方代理人を翻意させて消滅時効を援用させることを意図したとの評価を受けてもやむを得ないものというべきである。


⑷ 被告は,原告主張の上記評価を争うものの,本件釈明が民事訴訟法149条に反するものでなく,本件釈明が正当で,別件第一審判決に取消されるべき瑕疵がなかったことなどを理由として,当裁判所の釈明に対し,具体的な反論をしない(被告第4準備書面第1の2参照)。そして,確かに,民事訴訟法149条には,釈明権の行使の態様を制限するような規定はないから,その態様が同条に直接違反するわけではないし,原告の財産権を侵害してもいないことはこれまで説示したとおりである。しかし,その態様は,訴訟指揮の一環として,裁判官の裁量に委ねられていると解されるのであり,かかる裁量もまた,紛争解決及び正義の実現という民事訴訟の目的を達成するために付与されていると解される以上,釈明権の行使が,時期,対席の有無及び内容において直接同法149条に反せず,結果として裁判を誤らせない以上は,どのような態様で行使しようとも当事者の訴訟法時用の利益を侵害することはなく,完全に裁判官の自由裁量に委ねられているとまで解し得ない。
 そして,当事者の平等取扱いに係る利益が,前記説示のとおり,紛争解決及び正義の実現という民事訴訟の目的を達成する上での根幹に関わる利益であることからすれば,たとえ裁判官にとって結論が一見明らかであったとしても(本件解釈に立つ裁判官にとってみれば,別件損害賠償請求権が時効消滅しており,別件訴訟における原告の主張が失当であることは,一見明らかなことであったと考えられる。),対席での釈明に特段の支障があるわけではないのに,相手方当事者から上記の評価を受けるような態様で,一方当事者に対して有利な結論に直結する内容の釈明をすることまでが裁判官の自由に委ねられており,相手方当事者は受忍しなければならないと解することは,裁判官の独立といった裁判制度の本質をどのように考慮しても,やはり困難なことといわざるを得ない。


⑸ 以上によれば,本件釈明は,その態様において,訴訟指揮における裁判官の裁量を逸脱したものとして,民事訴訟法上保護された原告の平等取扱いに係る利益を侵害するものというべきである。
 そして,上記のような本件釈明の態様は,民事訴訟の根幹に関わる当事者の平等取扱いに係る利益に対し,裁判官が職務上必要とする配慮を明らかに欠いたものといえるから,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認めうる特別の事情があるというべきである。
 そうすると,前記1⑵に説示したところに照らし,本件釈明には国賠法1条1項にいう違法があると認められる。

 

 

 

■関連する判例・裁判例

長野地飯田支判平成26年1月30日訟月61巻1号51頁

裁判官が,原告の主張に対して,顔を赤らめて怒り,語気荒く,「今更そんな主張をされても困る。今日,結審する予定だった。」,「あなたの審理が終わらないので,私は上司から怒られているんだ。いつまで裁判をやっているんだ。私の左遷の話まで出ている。私の将来に影響するかもしれない。」と述べたこと関する国家賠償法に基づく損害賠償請求(3万円)が認められた事案。

但し,この判決は控訴審で取り消され,原告の請求は棄却されています(東京高判平成26年5月29日訟月61巻1号39頁)。

 

 

最判昭和57年3月12日民集36巻3号329頁

「裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によつて是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによつて当然に国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があつたものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく、右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもつて裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。」

 

上記昭和57年判決の調査官解説

国家賠償責任の要件としての裁判の違法とは,その裁判時又は措置時における訴訟状態を前提としての担当裁判官の職務行為基準違反ないし行為義務違反であると解してよいと思われ,本件上告審判決もこれを当然の前提としているものであることは明らかである。」

「そして,以上に検討したところから明らかなとおり,それへの違背が国家賠償責任の要件としての裁判の違法性の要件を充足するような行為規範の違反,裁判の違法とは,法が裁判をうける者に対する関係において裁判の職務権限を与えられた裁判官に対し職務の遂行,権限の行使について遵守すべきことを要求している規範に違反して裁判行為がなされたという意味での違法性でなければならないのである。」 *1

 

  

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*1:村上敬一「争訟の裁判と国家賠償責任」『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和57年度』211頁,214頁。