竟成法律事務所(旧 法律事務所ミライト・パートナーズ)のブログ

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公正証書による遺言が無効とされた諸事例(裁判例)のご紹介

■今回のテーマ

2016年1月24日,次のような判決があったという報道に接しました。

家政婦は見た! 「全遺産はあなたに」の遺言有効 3000万相当持ち去った実娘2人敗訴(1/4ページ) - 産経ニュース
http://www.sankei.com/affairs/news/160124/afr1601240011-n1.html

「平成23年に死去し「遺産は全て家政婦に渡す」としていた資産家女性=当時(97)=の遺言に反し、実娘2人が遺産を不当に持ち去ったとして、家政婦の女性(68)が遺産の返還を実娘側に求めた訴訟の判決が東京地裁であった。」

 

ところで,遺言書は自分(自筆)で作成することができますが,方式が厳格に決まっています。方式に反すると,その遺言は無効になる危険性が高いです。

 

そのため,確実な遺言書を作成されたい方は,通常,公正証書による遺言を用います。

遺言 日本公証人連合会
http://www.koshonin.gr.jp/yu.html

 公正証書遺言とはどのようなものですか? そのメリットとデメリットを教えて下さい。

 公正証書遺言は,遺言者が,公証人の面前で,遺言の内容を口授し,それに基づいて,公証人が,遺言者の真意を正確に文章にまとめ,公正証書遺言として作成するものです。
 遺言者が遺言をする際には,さてどんな内容の遺言にしようかと思い悩むことも少なくないと思いますが,そんなときも,公証人が親身になって相談を受けながら,必要な助言をしたりして,遺言者にとって最善と思われる遺言書を作成していくことになります
 公証人は,多年,裁判官,検察官等の法律実務に携わってきた法律の専門家で,正確な法律知識と豊富な経験を有しています。したがって,複雑な内容であっても,法律的に見てきちんと整理した内容の遺言にしますし,もとより,方式の不備で遺言が無効になるおそれも全くありません。公正証書遺言は,自筆証書遺言と比べて,安全確実な遺言方法であるといえます。
 また,公正証書遺言は,家庭裁判所で検認の手続を経る必要がないので,相続開始後,速やかに遺言の内容を実現することができます。さらに,原本が必ず公証役場に保管されますので,遺言書が破棄されたり,隠匿や改ざんをされたりする心配も全くありません。(後略)

 

公正証書による遺言が無効とされることは「ほとんど」ありません。

しかし,実際の裁判例では,公正証書による遺言が無効となることもあります。

 

と言うわけで,今回は,公正証書による遺言が無効となった最近の事例をいくつかご紹介したいと思います(尚、弊所では公正証書遺言の事件を複数取り扱っておりますが、以下の裁判例は弊所が受任した事案ではありません。あくまで過去の裁判例のご紹介です。)。

 

■東京地判平成30年1月30日公刊物未登載(ウェストロー)

 ①遺言者については,平成25年7月に成年後見開始の審判が為されているところ,同審判で用いられた鑑定書には重度のアルツハイマー認知症に罹患した旨が記載されており,かつ,この鑑定書の信用性は揺らいでいないこと,②入所していた施設において,平成24年3月~10月にはトイレ以外の場所で排泄するなどの言動に及び,同年6月からは夜間徘徊を繰り返し行っていたこと,③公証人との問答において的確な回答ができていないこと,④介護認定において意思決定困難な状態等が認定されていることなどからすると,平成24年10月の遺言時には遺言能力がなかったとして,公正証書による遺言を無効とした事例。

 

 

 

 

甲府地判平成29年7月26日公刊物未登載(ウェストロー)

①遺言者は平成25年1月ころから認知症の症状を見せ始め,同年8月の長谷川式スケールの検査結果は30点中15点であったこと,②平成26年3月,見当識を喪失し記憶を保持できない様子だったこと,③同月,遺言者の主治医が,遺言者について日常的な買物等にも支障が生じる状態であり,遺産分配は困難で後見人が必要である旨を述べていたこと,④公証人の質問に対して的確な回答ができなかったこと,⑤公正証書の署名は判読できるが乱れて枠をはみ出していることなどを踏まえると,「本件遺言の主な内容が,被相続人の有する一切の財産を原告らに各2分の1の割合で遺贈するという比較的単純なものであることを考慮しても,被相続人は,本件遺言をした当時,本件遺言の内容及び効力を理解してこれを行う遺言能力を有していなかった」とした事例。

 

 

  

■東京高判平成29年6月26日公刊物未登載(ウェストロー,TKC

原告が,被告に対して,公正証書遺言作成時に遺言能力がなく,「口授」も不可能な状態であり方式違背があるとして,遺言無効を求めた事案です。

本件では,地裁と高裁で判断が分かれました。

地裁(東京地判平成28年11月17日,関根規男裁判官)は遺言を無効としましたが,高裁(安浪亮介裁判長)は遺言は有効であるとしました。

高裁は,遺言者のことを記憶していない旨の公証人の認識を根拠として,仮に遺言者が公正証書作成時に不穏な言動等をしていれば却って公証人の記憶に残っていたはずであるとして,遺言作成当時,夜間・早朝にある程度の譫妄の症状が存在していたとしても,日中にまで遺言能力を欠くような精神上の障害があったと認めることはできないとしました。

 ※遺言が最終的に無効とされた事例ではありませんが,裁判所の判断が分かれた最近の事例としてご紹介した次第です。

 

 

 

■東京地判平成28年8月25日判時2328号62頁 

①遺言者の生前に遺言者をアルツハイマー認知症であると診断していた医師が,遺言時の遺言者は高度の認知症に罹患しており遺言するに足りる意思能力はなかったと証言していること(尚,同医師は専門医で,かつ,裁判所における鑑定経験が豊富という特殊性もあります。),②遺言能力は存在したと述べる公証人の意見は医学的根拠がないこと,③公証人が遺言書作成に採用していた質問方針はアルツハイマー認知症患者の「取り繕い」に手を貸すことになってしまう危険性がある旨の医師の指摘があることなどからすれば,遺言者が遺言時に遺言能力を有していたとは認められないとして,公正証書による遺言を無効とした事例。

ちなみに,余談ですが,この事件の原告ら訴訟代理人のお1人は難波孝一先生(元東京高裁部総括)で,被告ら訴訟代理人のお1人は河合弘之先生(ダグラス・グラマン事件で国会の証人喚問に同席された弁護士)でした。

 

 

■東京地判平成28年3月4日公刊物未登載(TKC)  

①遺言者は,自己が代表取締役を務めていた会社の経営を孫に継がせたいと強く望んでいたこと,②その一方で,遺言者は相続人らに相続させる財産の価値については相続人間の平等を保ちたいと配慮していたこと,③ところが,本件遺言は全ての財産を他家に嫁いだ相続人に相続させるという内容になっており,遺言者がこのような翻意をした合理的な理由が見当たらないこと,④本件遺言は会社の経営権争いの過程で作成されており,不自然な点があること,⑤遺言書作成時,遺言者は94歳という高齢であり,遺言書作成から12日後の時点ではせん妄とみられる状態に陥ることがあったことなどからすれば,遺言者に遺言能力は認められないとして,公正証書による遺言を無効とした事例。

 

 

■東京高判平成27年8月27日判時2352号61頁

①遺言者は,公証役場訪問前の時点で高度の意識障害になることがあり,役場訪問後には意識障害を生じ肝性昏睡と診断されるなど,具体的な応答を為し得る程度の意識状態や身体状況にあったと見るには相当の疑義があった上,②遺言者は,公証人及び証人に対して遺言内容について具体的に発言していないことなどに照らすと,遺言者が「口授」をしたとは認められず,方式違背が存在するとして,公正証書による遺言を無効とした事例。

 

東京高裁は,本件で,民法969条2号所定の「遺言者が遺言者の趣旨を公証人に口授すること」について,以下のように規範を定立しています。

「遺言者自らが,自分の言葉で,公証人に対し,遺産者の財産を誰に対してどのように処分するのかを語ることを意味するのであり,用語,言葉遣いは別として,遺言者が上記の点に関し自ら発した言葉自体により,これを聞いた公証人のみならず,立ち会っている証人もが,いずれもその言葉で遺言者の遺言の趣旨を理解することができるものであることを要するのであって,遺言者が公証人に自分の言葉で遺言者の財産を誰に対してどのように処分するのかを語らずに,公証人の質問に対する肯定的な言辞,挙動をしても,これをもって,遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授したということはできないものと解するのが相当である。」

 

尚,本件では,原審(東京地判平成27年1月16日判時2352号67頁)も公正証書遺言は無効であると判断していました。

 

 

■大阪高判平成26年11月28日判タ1411号92頁

①公証人が事前に遺言内容が遺言者の意思に合致しているか遺言者に直接確認したことはないこと,②遺言の内容からすれば,遺言を行うには相応の記憶喚起及び計算能力を必要とするにもかかわらず,公正証書作成時の遺言者は認知症等によって記憶力や特に計算能力の低下が目立ち始めていたのであって,公証人の説明に対する「はい」という返事が遺言内容を理解・認容する趣旨の発言であったかは疑問があることなどからすれば,適法な口授があったとは言えないとして,公正証書による遺言を無効とした事例。

 

 

■東京地判平成26年11月6日公刊物未登載 

複数の病院の診療録や看護記録に,見当識障害の存在や現状認識力不足等の記載があり,遺言者に遺言能力があったとは認められないことを主たる理由として公正証書による遺言を無効とした事例。

 

 

■東京高判平成25年8月28日判タ1419号173頁

①進行癌による疼痛緩和のために麻薬鎮痛剤の処方を受けており,少なくとも公正証書作成の約2週間前からは同薬剤による傾眠傾向や精神状態が頻繁に見られるようになっていたこと,②公正証書作成時の遺言者は公証人の問いかけに受動的に応じるのみであり,しかも,読み上げ中に目を閉じてしまったり,自分の年齢を間違えていたり等したこと,③遺言者は,公正証書作成の前月に遺言内容を大きく変える旨の考えを大学ノートに記載していた(にもかかわらず,公正証書の内容はこれと異なる)ことなどからすれば,遺言者に遺言能力があったとは認められないとして,公正証書による遺言を無効とした事例。

尚,この事例の判例タイムズ解説は,「本件は公証事務のあり方に警鐘を鳴らすものであり,病状が悪化して入院中の場合,高齢者で認知症が疑われる場合等に公正証書遺言を作成するに当たっては,作成依頼者の言い分だけでなく,場合によっては医師の意見を聴取するなどして,作成に当たる等の配慮が必要と思われる。」と指摘しています。

 

 

■高知地判平成24年3月29日判タ1385号225頁

公正証書による遺言が作成される約2ヶ月前に,成年後見開始の関係で医師が家裁から鑑定の依頼を受けており,同医師が「アルツハイマー認知症を発病しており,程度は中等度以上」等と鑑定しており,かつ,公正証書作成日の約3週間後に当該鑑定結果に基づいて成年後見が開始された等の事実関係に照らせば,遺言者に遺言能力がなかったと認められるとして,公正証書による遺言を無効とした事例。


尚,この判決は,「公証人が遺言の作成に関与したということだけでは,遺言者に遺言能力があったはずであるとはいえない」と明示的に指摘しています。法令上,当然のことではありますが。

 

 

■東京地判平成20年11月13日判時2032号87頁

公正証書作成日の約10日前から意識障害を引き起こしかねない病態が重なって徐々に意識レベルが低下し,遺言書作成日の約1週間前には、閉眼して傾眠傾向の状態になり、呼びかけてもあまり反応しないような意識レベルに陥っていたこと,②遺言書作成日の前日にも傾眠傾向にあって,努力様の呼吸を続けており,同日夜には見当識障害が認められたこと,③遺言書作成当日には,遺言者は酸素マスクと上肢と手指に抑制器具を装着して酸素供給を受けながら,公証人により遺言公正証書の案文を読み聞かされている最中に,首を大きく横に振って非常に苦しそうな態度をしてそのまま眠ってしまい,公証人が一旦は遺言公正証書の作成を断念するほどの状況になり,遺言者は妻から何度も揺すられ声をかけられてようやく目を覚ましたこと,④遺言書作成日の翌日には,遺言者の意識レベルは,刺激に応じて一時的に覚醒するが,開眼しても自分の名前や生年月日が言えない状態であったことなどの事実関係からすれば,遺言者に遺言能力がなかったというべきとして,公正証書による遺言を無効とした事例(ちなみに,口授の要件も充たしていないと判断されました)。

 

 

■横浜地判平成18年9月15日判タ1236号301頁

①遺言者は中等度から高度に相当するアルツハイマー型の認知症にり患しており,そのため恒常的な記憶障害,見当識障害等があり,しかも,記憶障害については,それまでに短期的な記憶障害だけでなく,子の数や病歴などの長期的な記憶についての障害も発生しており,また,会話についても,話しかければ応答はあるが簡単な会話のみに応答する程度であったこと,②遺言作成の約半年前に実施された遺言者の知的機能検査では,見当識及び記銘力のいずれの項目についても成績が芳しくなく,医師によって高度の痴呆が認められるとの診断がされていたこと,③遺言の内容は比較的複雑なものであったこと,④公証人は,銀行において作成された遺言の原案を条項ごとに読み上げて遺言者にその確認をしたが,遺言者の答えは「はい」,「そのとおりで結構です。」などの簡単な肯定の返事をするにとどまったというものであったことなどに照らすと,遺言能力があったとは認められないとして,公正証書による遺言を無効とした事例。

 

 

 

■2016年11月18日追記

以下のような報道が為されました。この遺言書も公正証書で作成されていたようです。 

杉原千畝の妻の遺言「無効」 地裁、四男の主張認める:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASJCL3K6QJCLUTIL011.html?iref=comtop_8_04
「判決によると、遺言は千畝の妻が入院していた2001年12月に公証人が作成。」


「判決は千畝の妻に意識障害があったと認め、『遺言の作成は長男の妻と子の発案で、当時の千畝の妻は遺言の内容を理解できる状態ではなかった』と判断した。」

 

 

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