竟成法律事務所(旧 法律事務所ミライト・パートナーズ)のブログ

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『FinTech革命』感想&コメント(追記あり)

■今回のテーマ

弊所の代表弁護士山田が、年末年始に拝読した書籍の1つに日経BPムックの『FinTech革命 テクノロジーが溶かす金融の常識』があります。 

FinTech革命(日経BPムック)

FinTech革命(日経BPムック)

 

弊所の代表弁護士山田は、財務省近畿財務局に2年間出向し、金融証券検査官として金融庁所管業務の仕事をしておりました。その関係もあって、弊所は金融法を重点的に取り扱っており、本書についても興味深く拝読しました。

 

また、金融庁も、『平成27年度 金融行政方針』においてFintechについて言及しており、注目している旨を述べています。*1

「FinTech とは、金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語であり、主に、IT を活用した革新的な金融サービス事業を指す。特に、近年は、海外を中心に、IT ベンチャー企業が、IT 技術を武器に、伝統的な銀行等が提供していない金融サービスを提供する動きが活発化している。」

金融庁としては、我が国が、FinTech の動きに速やかに対応し、将来の金融ビジネスにおける優位性を確保するため、民間部門と協働しつつ、海外事例の調査や内外の担い手との対話等を通じて FinTech の動向を出来る限り先取りして把握していく。その上で、利用者保護等の金融行政上の課題と両立させつつ、将来の金融業・市場の発展と顧客利便性の向上につなげていくとともに、内外の専門家の知見を積極的に活用し、技術革新が我が国経済・金融の発展につながるような環境を整備する。」 

――金融庁『平成27事務年度 金融行政方針』2頁、27頁。

  

というわけで、今回は、本書の中で印象的だった部分や刺激的だった部分、興味を惹かれた部分について、簡単に紹介、要約、コメントをしたいと思います。

 

尚、以下の引用部分のページ番号は、特に断りがないかぎり、本書のページ番号を指します。

 

 

 

■FinTechのポイントはビットコインではない

FinTech関係の用語で、一般人の方にとって最もなじみ深い言葉は「ビットコイン」だと思われます。

 

しかし、ビットコインなどの暗号通貨(仮想通貨) そのものが世界、少なくとも日本に大きな影響を「直ちに」与えることはないでしょう。

なぜならば、日本の場合、法定通貨である「円」に対する高い信用力と、全銀ネットをはじめとする堅牢な決済システムが既に整備されているからです。

「金融システムが成熟している日本では、"円"への信頼は強い。決済手段も整備されているため、ビットコインへのニーズは直近では限定的だろう」(大石哲之日本デジタルマネー協会理事。本書136頁) 

 

 

 

■FinTechの核心はブロックチェーン

しかし、ビットコインなどの暗号通貨を支えるブロックチェーンという技術は、今後、社会を大きく変えていく可能性があります。  

「インターネットが登場した当時を振り返ると,まずメディアがEC(電子商取引)で革命が起きました。同じようにブロックチェーンは,これから契約書や資産譲渡などの分野をテクノロジーの力で変革していく可能性があります。」

「インターネットが登場した最初の時点と同じ状況なんですよ。何に使うかみんな最初は分からなかったでしょう? しかしインターネットが普及した結果,広告やECなどに対して大きな衝撃を与えていきました。ブロックチェーンもインフラとして,法律や契約,銀行の姿に幅広い影響を与えると思っています。」(以上につき、伊藤穣一MITメディアラボ所長。本書28頁)。

 

つまり、FinTechという文脈において注目すべきは、暗号通貨(仮想通貨)そのものではなく、その基盤となるブロックチェーンという技術です。*2

「ブロックチェーンの『24時間停止しない』『改ざん不能』という特性は,ビットコイン以外のFinTech領域への応用が期待されている。例えば,取引所に代わる証券取引システムや不動産の登記・閲覧システム,契約管理システムなどに適用すべく研究が進んでいる。」(本書33頁)。

 

「私は、ブロックチェーン技術こそがFintechの本命と考えています。というのは、金融の基本動作であるトランザクション(取引処理)を扱う技術だからです。」(加納裕三bitFlyer代表取締役。本書71頁)。

 

 

例えば、ブロックチェーンが法律分野で機能する場面例について、森・濱田松本法律事務所の増島雅和先生は次のように述べられます。

ビットコインの基盤技術であるブロックチェーンについて、双方が合意した契約をブロックチェーン上に記載し、ブロックチェーンに契約を自動履行させる『スマート契約』などへの応用が期待されています。例えば、『タイムカードに規定通り打刻されていれば、従業員に自動的に給与を支払う』契約をプログラムし、自動的に執行させられます。」(増島雅和弁護士。201頁)。

 

 

 

メガバンクもブロックチェーンの技術には注目している

本書22頁の図8「日本にも押し寄せるFinTech革命の余波」で指摘されているように、わが国の三菱UFJフィナンシャル・グループとみずほフィナンシャル・グループは、ブロックチェーン団体であるR3R3CEV LLC)に参加しています。

プレスリリース『R3’s distributed ledger initiative adds 13 additional bank members』

http://static1.squarespace.com/static/55f73743e4b051cfcc0b02cf/t/560a9988e4b0fd75c4407a3c/1443535240611/R3+Press+Release+-+09292015.pdf  

 

また、ビットコインがその基礎とするブロックチェーンとはやや異なりますが、Ripple(リップル)という暗号通貨(仮想通貨)を採用する欧米の銀行もあります。

Rippleは「Ripple Labsが開発・運用しており、米グーグルも出資する。取引対象は"借用証書"で、円やドルなどの送金が可能。銀行の送金・決済システムを代替できると期待されている。ドイツや米国の銀行が採用を発表している。」(本書46頁)。

 

 

では、FinTech台頭という潮流の中で銀行の存在意義はどこにあるのかでしょうか。

この点について、米シティグループのヘザー・コックスCMOは、次のようにはっきりと指摘されます。 

「消費者にとって銀行サービスは必要だが,必ずしも銀行が必要なわけではない」(本書38頁以下)。

 

コックス氏のご指摘は基本的には正鵠を射ていると考えられます。

但し、わが国においては「銀行」は社会のインフラとして、様々な法制度で保護されているだけでなく、多くの国民の特別の信頼を獲得しています。

「金融の根本にあるのは『信頼』『信用』『安心』『安全』です。」(三菱東京UFJフィナンシャル・グループ 柏木英一デジタルイノベーション推進部長。本書50頁)。

 

FinTechにおいても、信頼、信用、安心、安全が重視されることは間違いありません。

その意味では、銀行には、少なくとも一日の長があり、FinTechに伴う新サービスが銀行を直ちに凌駕するということは無いといって過言ではありません。

結局、FinTech関係の新サービスを提供する企業・事業者が長期的な拡大充実を望むのであれば、既存の銀行と共存する(銀行を利用する)方策が現実的ではないかと考えられます。

 

もちろん、銀行としても、FinTechが発展していく流れの中で、従来と同じような業務を提供していては取り残されるだけです。そのような銀行は淘汰されていくでしょう。特に、従来のバンカーは技術系の知識・素養に乏しい方が多いです。人事面でも、技術的要素を重視する必要があります。 

「米ゴールドマン・サックスがここまで成長した背景には,ファイナンスのことを理解した技術者がいたからです。僕は金融の人にテクノロジーを教えるのは無理だと思っています。むしろ技術者に金融の知識を植え付けるほうが簡単なのではないでしょうか。」伊藤穣一MITメディアラボ所長。本書30頁)。

 

 

 

■その他気になった点

金融商品は、免責事項の説明が長く、よく分からないものが多い。にもかかわらず、サインしなければ申し込めません。金融業界の慣行は『危ないから利用しないでください』と言わんばかりの告知が多すぎる。米ウーバーが提供する配車サービス『Uber』を利用するたびに、『乗車中に運転手が何かするかもしれませんが、そのリスクを負った上で利用しますか?』などと言われたらどうでしょう。誰も利用しないですよね。UXを阻害することは最小限にとどめるべきでしょう。」

 

「消費者保護に走りすぎていると思うんです、金融は。」(以上につき、佐々木大輔freee代表取締役。本書65頁)。

日本人が一般的に金融に対して、不要な不安感や警戒心を抱いている、あるいは金融に対する基本的知識が乏しいというご趣旨であれば、佐々木氏のご指摘は的を射ていると思います。

しかし、佐々木氏の上記ご発言は(引用部分がご発言どおりの表現であれば)、非論理的で、詭弁を弄しているに過ぎませんね。誤解を招きやすいご発言だと思います。

上記ご発言を「過激」に要約すると「いちいちリスクを考えないで行動しろよ。但し、実際にケガしてもうちは知らないけどね。」という点に至ると思いますが、そのような方向性では、金融活動に対する一般国民の意欲を活性化させることはできないでしょう。

 

 

「創法律事務所の創設者であり、日本政府に対してビットコインの規制に関する助言をしてきた斎藤創氏は『2014年6月に日本ではビットコインを規制しないという結論を出した』と語った。理由は、大きなポテンシャルを秘めているビットコインを規制すれば、日本が経済的に遅れてしまうと政府が判断したからだという。」(本書140頁)。

本当に斎藤先生が上記のようなご発言をされたのか疑わしいのですが(編集者の不適切な要約ではないかという気がします。)、仮にこのようなご発言をされたのであれば、この内容は誤っています。

 

脚注でも述べましたように、通貨というものは国家にとって極めて重要な要素です。このような現実通貨の地位を脅かす危険性がある暗号通貨(仮想通貨)を、日本政府をはじめとする各国が、文字通り「野放し」にしたり、「規制しない」ことにしたりすることはあり得ません。

ビットコイン取引を規制へ 金融庁、仮想通貨の監視強化 朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/ASH7862Z3H78ULFA02F.html

 

ビットコインなど仮想通貨規制へ 金融庁、利用者保護も検討 産経新聞
http://www.sankei.com/economy/news/151116/ecn1511160004-n1.html

 

金融庁、仮想通貨取引所の登録制導入へ 来年の通常国会に改正法案 ロイター通信
http://jp.reuters.com/article/fsa-to-introduce-virtual-money-regulatio-idJPKBN0U01PA20151217

 

 

以上、長々と書いてまいりましたが、FinTechの流れは社会を大きく変える可能性があります。また、当然ながら大きなビジネスチャンスでもあります。

本書でも次のように指摘されていましたので、ご紹介します。

「0から1を生み出すのと、1を10に育てるのと、どちらが好きかと言われれば、答えは両方だ。もちろん、1を10に育て上げるより、0から1を生み出す方がベストであることには間違いない。だが、往々にして1を10に育てる過程で、0から1を生み出す"何か"を見つけることができる。」(ジャック・ドーシースクエアCEO。本書113頁)。

 

「独占には、悪いイメージを持つかもしれないが、やはり企業はそこを目標に据えなければならない。米グーグルは好例だ。今では検索分野において競合相手はいない。政府当局はもちろんナーバスになるが、独占こそが会社の成功を決める。競争をするのではなく、だれもやっていないことをやれということだ」(投資家ピーター・ティール氏。本書117頁)。

 

 

 

■関連記事

(日銀レビュー)「デジタル通貨」の特徴と国際的な議論 :日本銀行 Bank of Japan
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2015/rev15j13.htm/

 

 

 

■追記(2016.02.01)

 以下のような報道に接しました。メガバンク自体が仮想通貨の開発に着手しているというのは初耳です。

三菱UFJ銀、独自の仮想通貨を開発中 コスト減へ期待:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASJ1W4RWKJ1WULFA012.html

「同行幹部らによると、独自の仮想通貨は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)から『MUFGコイン』と名付けた。昨秋から開発に着手し、コインをスマートフォンに取り込むアプリケーションの試作品がほぼ完成。」

 

注目集める仮想通貨の中核技術 「フィンテックの本命」:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASJ1W4RZFJ1WULFA013.html?iref=comtop_list_biz_n04

 

 

 

 

 

 

■公式サイト

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法律事務所ミライト・パートナーズ
TEL 06-6341-0135

http://milight-partners.wix.com/milight-law#!contact/c17jp

*1:ちなみに、松井証券社長の松井道夫氏は、2016年の年頭のご挨拶の中で、FinTechの本質について「金融分野でのIT活用というにすぎません。」と述べられた上で、「FinTechの進展は、大量の人員を擁してサービスを提供している伝統的金融ビジネスをDisrupt(破壊)するイノベーションに繋がります。」と指摘されています。http://www.matsui.co.jp/company/matsui/2016.html 

*2:もちろん、暗号通貨(仮想通貨)それ自体のインパクトも十分にありますが、国家における通貨の重要性に鑑みれば、主要国が暗号通貨(仮想通貨)を野放しにしておくとは到底考えられません。暗号通貨(仮想通貨)は必ず国家によって管理されると考えられます。