竟成法律事務所のブログ

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結局,オンラインカジノは適法なんですか? ――違法です!

■今回のテーマ

先日,「日本でオンラインカジノをしたら犯罪なんですか?」という質問を受けました。

 

と言うわけで,今回のテーマは「日本国内でオンラインカジノをした場合の賭博罪の成否」です。

 

このテーマについては,ネットで,色々な情報が流れているみたいですね……。

 

 

 

■問題になる犯罪類型

わが国の刑法では,賭博をすることは刑法185条で犯罪とされています。

(賭博)第185条
賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

 

そして,賭博罪は,「相手方の存在を前提とする必要的共犯である」と解されています。*1

 

必要的共犯」とは「構成要件の性質上,初めから二人以上の行為者による実現を予定して規定されている犯罪」を言います。*2

この言葉,後で出てきますから,覚えておいてくださいね(笑)。

 

 

 

■日本の刑法が適用されるのはどんな場合?

わが国の刑法は,世界中の行為に対して当然に適用されるわけではありません(刑法1条)。これを属地主義と言います。

(国内犯)第1条
1 この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。
2 日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする。

 

そして,実務・学説上,行為や結果,共謀のいずれかが国内で生じていれば,「日本国内で罪を犯した」(刑法1条1項)とされ,刑法が適用されると考えられています。*3

これは,幇助犯や教唆犯の場合も同じです。

 

 

 

■外国で賭博行為をした場合

外国で犯罪に及んだ場合(犯罪地が国内にない場合)を国外犯と言います。

国外犯の場合,行為や結果,共謀の全てが外国で生じています。

そのため,国外犯については,特別の規定(国外犯処罰規定)が置かれていない限り,処罰されません。*4

 

そして,実は,賭博罪については国外犯処罰規定がありません。

 

そのため,例えば,ラスベガスのカジノで日本人が賭博をしたり,ラスベガスに行ってカジノをするツアーを国内で企画したとしても,賭博罪や賭博幇助罪は成立しません。*5

 

 

 

■外国に設置・管理されているカジノのサーバーに日本国内からアクセスしてネット上で賭博をした場合

これが,ネット上で色々と言われているパターンです。

 

ネット上でよく見かける指摘は以下のような論理構成をとっています。

  1. 賭博罪は必要的共犯(対向犯)である。
  2. 賭博罪については,国外犯処罰規定はない。
  3. サーバーは外国で設置・管理されている以上,業者(胴元)に日本の刑法を適用して処罰することができない。
  4. 賭博罪は必要的共犯(対向犯)である以上,業者(胴元)を処罰できない場合には,日本国内の利用者を処罰することもできない。

 

……もっともらしく思えますが,法的には正しくないと考えられます。

 

つまり,刑法の論理を素直に展開すれば,この場合の日本国内の利用者の行為には賭博罪が成立すると考えられます。

 

 

そもそも,上記のネット上の論理は,賭博罪が「必要的共犯」であるという点をもって,賭博罪不成立の最大の論拠としています。

 

確かに,賭博罪は必要的共犯です。

しかし,必要的共犯であるということの意味は,上述したように,「構成要件上複数の行為者の関与が予定されている」*6という点にあるに過ぎません。

 

 

つまり,必要的共犯の一方について犯罪が成立しないとしても,他方について犯罪は成立し得ます。

 

 

例えば,亀山継夫・元最高裁判事(執筆当時は検事)は次のように述べられます(太字は引用者によります。)。

 「必要的共犯は,必要的関与者が相互に犯罪の成立に協力することとなる点において,共同正犯ないしは正犯・幇助犯的実質を有しており,そのため,国外犯の関連においても共犯類似の問題を生ずる。この関係で,まず留意すべきは,必要的共犯の各必要的関与者にとっての構成要件は『自己の行為+他の必要的関与者の行為』であって『自己の行為+他の必要的関与者の犯罪』ではないから,必要的関与者の一方について犯罪が成立し,他方について成立しないという場合も当然に生じうるということである。」*7

 

 そもそも,賭博罪の保護法益は「国民一般の健全な経済観念・勤労観念」とされています。*8そして,外国に設置・管理されているサーバーに対するものであっても,賭博行為が日本国内で行われれば,この法益が侵害されることは明らかです。

 

そして,法益侵害の有無と,外国の行為者に関する犯罪の成否は,別の次元の問題です。

したがって,外国に設置・管理されているサーバーに対する日本国内からの賭博行為であっても,賭博罪は成立するという結論が,判例・学説の帰結ではないかと考えられます。

 

 

 尚,本件に直接妥当する判例ではありませんが,参考になるものとして,外国に置かれたサーバーによるわいせつ動画の頒布等が問題になった事件があります(最決平成26年11月25日刑集68巻9号1053頁)。

 

また,捜査機関をはじめとする行政も,上述した結論と同様の立場をとっていると考えられます。

賭博罪及び富くじ罪に関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a185017.htm

  

衆議院議員階猛君提出賭博罪及び富くじ罪に関する質問に対する答弁書
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b185017.htm
一般論としては、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条の賭博罪が成立することがあるものと考えられ、また、賭博場開張行為の一部が日本国内において行われた場合、同法第百八十六条第二項の賭博開張図利罪が成立することがあるものと考えられる。」

 

 

■追記(2016年2月16日)

 以下のような報道に接しました。

賭博容疑で役員ら逮捕=ネットカジノ初適用—千葉県警 - WSJ
http://jp.wsj.com/articles/JJ11892287079563333291717946174800794292697

 「同容疑者らの口座サービスを通じ、顧客が海外のサーバー上に常設されたオンラインカジノで賭け金などをやりとりしていた。」

 

 

 

 

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*1:大塚仁ほか編著『大コンメンタール刑法 第9巻』(青林書院,第三版,2013年)123頁。

*2:裁判所職員総合研修所監修『刑法総論講義案』(司法協会,平成16年)302頁。

*3:山口厚『刑法』(有斐閣,平成17年)192頁以下。

*4:前掲・山口193頁。

*5:前田雅英ほか篇『条解 刑法』(弘文堂,第3版,2013年)521頁,西田典之『刑法各論』(弘文堂,第3版,平成17年)363頁など。但し,その理論的構成については,違法性阻却か刑法不適用なのか,争いがあります。

*6:前掲・山口148頁。

*7:亀山継夫「国外犯 ――外国の宝くじ」判タ443号42頁(1981年)

*8:前掲・大塚117頁。