法律事務所ミライト・パートナーズのブログ

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親の不倫相手に対して子供が損害賠償を請求をすることはできますか?

■今回のテーマ

よくあるご相談の1つとして,「自分の夫 or 妻が不倫をしているようなんですが,不倫相手に対して慰謝料を請求することができますか?」というものがあります。

 

このご相談に対する実務上の回答としては,「慰謝料請求できます」というものになります。

 

こうしたご相談の場合に,時々,追加で質問されるのが,「私達夫婦の間には子供がいるのですが,その子供が不倫相手に慰謝料を請求することもできるのですか?」というものです。

 

というわけで,今回のテーマは,「親の不倫相手に対する子の損害賠償請求権の可否」です。

 

……やや長めの記事です(笑)。

 

 

■子供が未成年である場合については最高裁判例があります

「妻と未成年の子供がいる男性が,他の女性と肉体関係をもち同棲するに至った場合,その未成年の子供は,他の女性(不倫相手)に対して不法行為に基づく損害賠償を請求することができるか」というテーマが取り扱われた判例として,最判昭和54年3月30日民集33巻2号303頁があります。

 

最高裁は,次のように述べて,この事件では*1,不倫相手に対する未成年の子供の損害賠償請求を認めませんでした。

「妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持つた女性が妻子のもとを去つた右男性と同棲するに至つた結果、その子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなつたとしても、その女性が害意をもつて父親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、右女性の行為は未成年の子に対して不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」

「けだし、父親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思によつて行うことができるのであるから、他の女性との同棲の結果、未成年の子が事実上父親の愛情、監護、教育を受けることができず、そのため不利益を被つたとしても、そのことと右女性の行為との間には相当因果関係がないものといわなければならないからである。」

 

つまり,最高裁は,原則として未成年の子供の損害賠償請求は認められないが,不倫相手が子供に対する害意を有していたような場合等は例外的に損害賠償が認められるとしています。

 

ちょっと話が複雑ですので,話を整理して説明します。

 

  

■【前提知識】損害賠償(慰謝料)請求権の根拠は民法709条

不倫相手に対する損害賠償請求権の根拠は,親が請求する場合でも子が請求する場合でも,民法709条を用いるのが通常です。

不法行為による損害賠償)
民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

つまり,不法行為に基づく損害賠償請求が認められるには,

  1. 加害者に故意または過失があること
  2. 加害者が他人の権利または法律上保護される利益を侵害したこと
  3. 損害が発生したこと
  4. 侵害行為と損害との間に相当因果関係があること

が必要です。*2

 

したがって,この1~4のどれかが欠けると,不法行為に基づく損害賠償請求は認められません。

つまり,上述した最高裁判例は,不倫相手に対する未成年者の損害賠償請求権については,この1~4のどれかが欠けていると判断した,ということになります。

 

 

最判昭和54年3月30日民集33巻2号303頁の立場

まず,最高裁は,今回問題になっている権利(被侵害権利)は「未成年者が親から愛情を注がれ,監護,教育を受けることができる地位」であると捉えました。*3

 

その上で,最高裁は,親が子供に対して愛情を注ぐか否か等は,父親自らが自分の意思で決めるものであるから,不倫相手とは無関係であるとして,4の「侵害行為と損害との間に相当因果関係があること」という要件を満たしていないと判断しました。

 

尚,この最高裁判決については,本林譲裁判官の反対意見が付されており,本林裁判官は相当因果関係はある,という意見を表明されています。

 

ここから先は,少し専門的な話になります。

 

 

■学説の立場

学説については,損害賠償請求権を肯定する見解も,否定する見解もあります。

 

ただ,少なくとも,被侵害権利を「未成年者が親から愛情を注がれ,監護,教育を受けることができる地位」と捉えるのであれば,否定説に至るのが論理的ではないかと思われます。

なぜならば,「親からの監護,教育,愛情を受ける点について子が有する利益は,親に対して向けられているものであっても,第三者に対して向けられたものではない」からです。*4

言い換えれば,第三者は,親から子へ十分な監護や教育等が為されるようにすべき義務を子に対して負っている訳ではありません。

 

そして,被侵害権利を上述のように捉えるのであれば,相当因果関係の問題に入るまでもなく,権利侵害の事実が認められないと考えられるからです。

 

 

■相当因果関係の問題なのか? そもそも,被侵害権利の設定の仕方は適切だったのか? 

出発点に立ち戻って考えると,そもそも,不倫相手に対する未成年の子供の損害賠償請求の可否は,相当因果関係の問題なのでしょうか?

 

この点について,神戸大学の窪田充見先生は次のように指摘されます。

判例では,相当因果関係を否定することで結論を導いているものが見られる。しかし,そのような否定の実質的な理由は相当因果関係にではなく,配偶者の損害賠償請求の出発点に置かれている保護法益が『家庭生活の平和の維持』ではなく,『婚姻共同生活の平和の維持』であるという点に見出されると思われる。つまり,判例は,家庭生活の平和といったものを当然に保護法益と見ているのではなく,貞操権といった生々しい表現は避けながらも,婚姻関係における利益に焦点を当てて考えているのである。だからこそ,子供の問題は間接的なものとして,相当因果関係の問題(相当因果関係が及ばないもの)として解決されるのだと考えられる。」*5

 

また,京都大学の潮見佳男先生も,ニュアンスは異なりますが,同趣旨の指摘をされています。*6

 

 

■結局,今回のテーマに対する結論は何?

以上,色々と述べてきましたが,要するに私が申し上げたいことは, 被侵害権利の設定方法・内容を変えれば,上掲の最高裁判例は当然には及ばず,不倫相手に対する子の損害賠償請求権が認められる余地もあるのではないか,ということです。

 

繰り返しになりますが,上掲の最高裁判例は,被侵害権利を「未成年者が親から愛情を注がれ,監護,教育を受けることができる地位」を捉えています。

そして,この判決を担当された榎本調査官は,被侵害権利をこのように捉える場合でさえ,「相当因果関係があるとする反対意見も,あながち説得力がないとすることもできないように思える。」とされています。*7

つまり, 被侵害権利を「未成年者が親から愛情を注がれ,監護,教育を受けることができる地位」という本来的に第三者に向けられてはいない権利・利益として捉えた場合でも,不倫相手に対する子の損害賠償請求権が認められる余地が全くない訳ではありません。

 

そうだとすれば,例えば,被侵害権利を,窪田先生が指摘されているような「家族生活の平和の維持」と設定した場合,不法行為が論理必然に否定されるとは考えれません。

 


もちろん,「家族生活の平和の維持」という権利・利益が,(1)具体的にどのようなものなのか,(2)法的保護に値するものなのか,(3)未成年の子だけでなく成人した子も有しているのか,などの点を検討する必要は残されています。*8

しかし,少なくとも,上掲の最高裁判例が「ある」からと言って,直ちに不法行為の成立が否定されることにはならないはずです。

 

また,「家族生活の平和の維持」という権利・利益の要保護性が類型的に低いと判断されたとしても,侵害行為や害意の有無などの「違法性」の強弱によって不法行為の成否を検討するというスキームを採用する余地はあるはずです。

むしろ,判例は,柔軟な対処ができるこのようなスキームを好む傾向にあるのではないかと考えられます。*9

 

*1:後述するように,この判例の射程は限定的ではないかと思われます。実務家としては,この判例を極端に重視すると危険だと考えられます。

*2:説明の便宜のために,理論上の細かい論点や議論は捨象しています。

*3:「家族の平穏や婚姻共同生活の維持といった視点からの法益の把握ではない」(潮見佳男『不法行為法1』〔信山社,2008年〕230頁)。したがいまして,この判例は,あくまでこのような「未成年者が親から愛情を注がれ,監護,教育を受けることができる地位」を前提としていることになります。射程もこの範囲に留まるはずです。

*4:潮見・前掲書231頁。

*5:窪田充見『不法行為法』(有斐閣,2007年)281頁。太字部分は原典では傍点部分。

*6:潮見・前掲書231頁

*7:榎本恭博「妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持ち同棲に至った女性の行為と右未成年の子に対する不法行為の成否」『最高裁判所判例解説 民事篇 昭和54年度』179頁以下。

*8:特に,(2)については,「単なる事実上の期待に過ぎない。」という反論が考えられます。

*9:尚,上掲の最高裁判例がこのスキームを採用しなかった理由は,このスキームは要保護性が低い権利・利益に適していると考えられるところ,「未成年者が親から愛情を注がれ,監護,教育を受けることができる地位」は子の人格形成や人間性の本質に深くかかわるものであり,要保護性が低いとは言いがたいと考えられた点にあるようです。榎本・前掲書180頁以下。