竟成法律事務所のブログ

大阪市北区西天満2-6-8 堂島ビルヂング409号室にある金融法や民事事件を重点的に取り扱う法律事務所です(TEL 06-6926-4470、大阪弁護士会所属)

冤罪対策3か条 ――やってもいない罪で逮捕されたら

■今回のテーマ

もし,あなたが,まったく身に覚えのない理由で逮捕されたら――。

 

とりあえず,これからご説明する3つの作業を行ってください。この3つの作業をしていただくだけで,弁護士は,格段にあなたを弁護しやすくなります。

 

逮捕されると,混乱したり,不安になったりしてしまうと思いますが,この3つの作業は難しいことではありません。落ち着いて実行してください。

 

 

 

■その1 弁護士を呼んでください

まず,何はともあれ,すぐに弁護士を呼んでください。

誤解を恐れずに言えば,逮捕されたときは,弁護士だけが,捜査機関に対抗できる唯一の味方です

 

そして,あなたには弁護人選任権があります(刑事訴訟法30条)。

刑事訴訟法30条1項に定められているように,あなたはいつでも弁護人に弁護を依頼することができます。 

刑事訴訟法第30条

1 被告人又は被疑者は、何時でも弁護人を選任することができる。

2 被告人又は被疑者の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹は、独立して弁護人を選任することができる。

 

ですから,あなたを取り調べる警察官,留置場の警察官,どの警察官にでもいいですから,一刻も早く,「弁護士を呼んでください。」と伝えてください。

 

弁護士の知り合いがいなくても大丈夫です。

弁護士会が運営している当番制度という制度があります。当番弁護士制度を利用すれば,弁護士が無料であなたに1回会いに来てくれます。そのときに,不安なことを相談したり,知りたいことを質問したりしてください。

日本弁護士連合会│Japan Federation of Bar Associations:逮捕されたとき

http://www.nichibenren.or.jp/contact/on-duty_lawyer.html

  

また,経済的に余裕のない方については,(1)被疑者国選弁護という制度や(刑事訴訟法37条の2),(2)刑事被疑者弁護援助という制度もあります。 

 

詳細な説明は省略しますが,被疑者国選弁護制度とは,国が,逮捕されたあなたのために弁護人を選任してくれる制度です*1*2。全ての犯罪について被疑者国選弁護制度の利用が認められているわけではありませんが,被疑者国選弁護の対象はかなり広いです。

 

被疑者国選弁護の対象外の場合であっても,日弁連*3弁護士費用を立替払してくれます。これが「刑事被疑者弁護援助制度」です。

 

 

刑事事件であなたを守ってくれるのは,弁護士だけです。

警察や検察という組織は,あなたが思っている以上に大きくて強い組織です。

あなたは,「自分なら大丈夫」と思っているかもしれませんが,弁護士なしで警察や検察に立ち向かうということは,訓練を受けていない一般市民が立体機動装置なしで超大型巨人に突撃するようなものです。

 

ですから,まずは,何はともあれ,弁護士を呼んでください。

大切なことなので,何度も繰り返しますが,「逮捕されたら,まず,弁護士」です。分かりましたか?

 

  

■その2 調書に署名・捺印はしないでください

弁護士があなたに会いにくるまでの間に,あなたは,取調べを受けると思います。

警察官は,あなたを取り調べる際に,あなたに対して,黙秘権の告知はすると思います。

 

しかし,このとき,警察官が, あなたに対して,もう1つの重要な権利を説明することはあまりありません。

それは,調書*4に署名や押印をしなくて良いという権利(署名・押印拒否権。刑事訴訟法198条5項。)です。

 

そして,身に覚えのない事件で逮捕された場合は,少なくとも弁護士があなたに会いにくるまでの間は,黙秘権やこの権利を行使して,何もしゃべらず,かつ,調書に署名・捺印しないでください*5

 

 

なぜならば,調書は,「あなた=犯人」と思っている捜査機関が作成する書類だからです。そのような書類に,あなたの「有利」になるようなことが書いてあると思いますか?

 

また,捜査官は,あなたの言い分を一言一句,そのまま記載してくれるわけではありません。捜査官は,プロです。捜査官は,あくまで,必要と思った情報だけを調書に記載します。*6

あなたに対して,親切丁寧に接してくれる捜査官が作成した調書であっても,署名・捺印はしないでください。その捜査官の方に対する感謝は,事件終了後に別の形で行えば良いのです。あなたが調書に署名・捺印するという形で感謝する必要はありません。

 

この点について,刑事弁護に関するある有名な書籍は,次のように述べます。。

「なお,供述調書の類(被疑者作成の供述書,上申書を含む。)は,否認事件であれば一通も作らせない覚悟で臨むべきである。供述調書の内容が否認の内容であっても,である。」*7

「弁護人としては,否認の場合はとくに,いかに供述調書を作らせないようにするかがポイントとなる」*8

 

尚,これらの点については,大阪の高名な秋田真志先生の解説がありますので,是非,御覧ください。

『もし突然逮捕されたら…  取調べを受ける心がまえ 弁護人の立場からの連絡事項』
http://www.m-akita-lawoffice.com/miwa-akitanote.pdf

 

 

 

■3 勾留質問のときに裁判官に対して「やっていない」と伝えてください

一般的な事件の場合,あなたは警察官に逮捕されて取調べを受け,その後に,検察官の取調べを受けます(警察署の留置場から,検察庁に連れて行かれます。)。そして,検察官があなたの身体をさらに拘束し続ける必要があると考えた場合,検察官は,裁判官に対して「勾留」を請求します*9

検察官の請求を受けた裁判官は,あなたに対して,あなた降りかかっている容疑(被疑事実)を説明し,それに対するあなたの回答を聴いた上で(これを「勾留質問」といいます。),あなたの身体を拘束し続ける必要があるかどうかを判断します(ちなみに,勾留質問のときは,裁判所に連れて行かれます。)。

 裁判所|勾留とは何ですか。
http://www.courts.go.jp/saiban/qa_keizi/qa_keizi_11/index.html

 

一連の流れを 図示(?)すると,次のとおりです。

警察官による逮捕・取調べ → 検事による取調べ&勾留請求 → 裁判官による勾留質問

 

この勾留質問のとき,あなたは,裁判官から「この事実に何か間違いはありますか?」などの質問を受けます。

 

そして,ここがポイントですが,身に覚えのない事件で逮捕されている場合は,必ず,質問をしてきた裁判官に対して,「この事実は間違いです。私は,やっていません。」とはっきり伝えてください。

 

なぜかと言いますと,勾留質問の際のやりとりは,公平中立の立場である裁判所の勾留質問調書として記録されるからです(刑事訴訟法61条刑事訴訟規則69条,39条,42条)。そして,勾留質問調書は,刑事訴訟法322条1項によって,証拠能力を持ちます*10

 

勾留質問のときから一貫して「身に覚えがない」と主張していたという事実は,一定の意味を持ちます。

 

裏を返せば,逮捕された直後や勾留質問の時には「自分がやりました」と自白していた場合,それが事実に反するものであったとしても(真実は冤罪であったとしても),その自白を覆すにはかなりのエネルギーが必要になります。しかも,最悪の場合,その自白を覆せません。

 

裁判官は必ずしもあなたの「味方」ではありませんが,決して「敵」ではありません。

警察官も検察官も「あなた=犯人」と考えて,あなたの話を聞いてくれなかったかもしれませんが,裁判官は違います。公平中立な立場であなたの話を聞いてくれます。

 

ですから,身に覚えがない事件で逮捕された場合は,必ず,勾留質問の際に,裁判官に対して「私はやっていません」と伝えてください。

 

 

■まとめ

身に覚えがない事件で逮捕された場合に,あなたがすべきことは,

 

「弁護士を呼ぶ。」

「調書に署名・捺印しない。」

「裁判官に対して『やっていない』と言う。」

 

です。

 

逮捕されると心が折れそうになると思います。

どうか,挫けずに,頑張りましょう。

あなたは1人ではありません。

*1:よく勘違いされている方がいらっしゃるのですが,国選弁護は文字通りの「無料」ではありません。有罪判決が出された場合は,原則として被告人が弁護人の費用等の全部or一部を負担しなければなりません(刑事訴訟法181条。例外として刑事訴訟法500条参照。)。

*2:「現在の実際的運用では,特段の資産もなく,職をもっていてもさほど高い給料を得ていないような被告人であれば,弁護人が私選の場合には別として,貧困と認められ訴訟費用の負担を命じられないことになるのが通常といってよいようである。特に実刑判決を言い渡された場合はそうといえる。」(松本時夫ほか編著『条解 刑事訴訟法』〔弘文堂,第4版,平成21年〕339頁)。

*3:正確には,日弁連の委託を受けた法テラスが主体となります。

*4:簡単に言うと,警察官等が,あなたの主張を記載する書類のことです。

*5:弁護士が来た後は,その弁護士と相談してください。

*6:高名な弁護人である後藤貞人先生は次のように述べます。「密室における取調べをもとに供述調書が作成される。取調官が供述調書を作成するかしないかを決め,作成する場合には,どのような内容の調書を作成するかを決める。被疑者ができるのは作成された調書の加除訂正だけである。そのようにしてできた供述調書が,将来裁判における事実認定に重要な役割を果たす。その内容が自白である場合には有罪の決め手になる。」(後藤貞人「黙秘権行使の戦略」季刊刑事弁護79号19頁〔2014年〕。)

*7:『刑事弁護ビギナーズ Ver.2』(現代人文社,2014年)34頁。

*8: 前掲・刑事弁護ビギナーズ62頁。

*9:司法試験受験生向けの知識ですが,勾留請求の宛先は裁判「所」ではなく裁判「官」です。

*10:前掲・松本155頁。