■今回のテーマ
「裁判で勝訴判決を得たのに,相手がお金を支払わない。」,「養育費を毎月支払うという調停が成立したのに相手がお金を支払わない。」……。
そんな場合には,相手のお給料や報酬を差し押さえるという方法があります。
ただ,相手が会社役員や個人事業主の場合,差し押さえができる範囲が違いますし,書類(差押債権目録)の書き方にも注意が必要です。
今回のテーマは「給料債権と報酬債権を区別しよう」です。
■「給料」と「報酬」の区別
いわゆる会社員の方は,会社との間で,雇用契約を締結しています。そして,この雇用契約の効果として,会社員の方は,会社に対して,給料を請求することができます(民法623条,624条)*1
他方,会社役員の方は,会社との間で,雇用契約ではなく,委任契約を締結しています。そして,この委任契約の効果として,会社役員の方は,会社に対して,報酬を請求することができます(民法648条)。
また,個人事業主の方は,発注者との間で,委任契約を委任契約を締結することもありますし,請負契約を締結することもあります。そして,この委任契約 or 請負契約の効果として,個人事業主の方は,会社に対して,報酬を請求することができます(民法648条,632条,633条)。
以上をまとめると,このような感じになります。
委任契約の場合 ⇒ 民法648条
■差押禁止の範囲
このように,契約の根拠となる条文が異なるため,法律上,これらの「給料」や「報酬」は別物と考えられています。
そして,このような区別をする現実的な意味の1つは,差押禁止債権(民事執行法152条)に該当するか否かを判断するという点にあります。
すなわち,給料は民事執行法152条1項2号に該当しますので,原則として給料の4分の3に相当する金額は,差し押さえることはできません(手取額が44万円を超える場合は例外です。)。
他方,会社役員の方の役員報酬や個人事業主の方の請負報酬は,実務上,この民事執行法152条1項2号には該当しないと考えられています*2。
そのため,役員報酬や請負報酬は,全額を差し押さえることができます。
民事執行法第152条(差押禁止債権)
1 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権2 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の4分の3に相当する部分は、差し押さえてはならない。
3 債権者が前条第1項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前2項の規定の適用については、前2項中「4分の3」とあるのは、「2分の1」とする。
■差押債権目録の書き方
このように,給料,役員報酬,請負報酬は法的性質が異なり,民事執行法上の取扱いも違っています。
そのため,裁判所に提出する「差押債権目録」の書き方も,それぞれ異なります。
裁判所によって,微妙に書き方は異なると思いますが,例えば,東京地裁では次のような書き方を基本にしているとされています。
【給料債権の場合】
債務者が第三債務者から支給される,本命令送達日以降支払期の到来する給料債権(基本給と諸手当。ただし,通勤手当を除く。)から所得税,住民税,社会保険料を控除した残額の4分の1(ただし,上記残額が月額44万円を超えるときは,その残額から33万円を控除した金額)にして頭書金額に満つるまで*3。
【役員報酬】
債務者が第三債務者から支給される,本命令送達日以降支払期の到来する役員報酬及び役員としての賞与から所得税,住民税,社会保険料を控除した残額にして,頭書金額に満つるまで*4。
【請負報酬】
債務者が第三債務者に対して有する債務者と第三債務者との間の下記工事の請負代金債権にして,支払期の早いものから頭書金額に満つるまで。(後略)*5
裁判所|書式一覧マップ
http://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section21/syosiki_itiran/index.html
■最後に
このように,給料,役員報酬,請負報酬を差し押さえる場合は,色々と注意すべき点がありますので, 失敗しないように気をつけましょう。
また,逆に,差押えを受けた場合は,このようなミスがないかどうかチェックしましょう。
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